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4話 念には念をいれましょう

 端的に言って、侍女は白だった。

 黒――真犯人はザハブ。

 すべて部屋の壁越しに聞こえてきたようだ。

 殺害計画は以下の通りである。

 まず、宴の準備中に、水の入ったグラスをサーフィに渡す。これには傷がついており、サーフィは唇を少し切ることになるだろうとザハブたちは予想している。また、差し入れにはパイナップルを用意し、彼女の口内に細かな傷を作っておく。

 次に結婚式の晩餐にて、サソリ毒の入った食前酒を振る舞う。個人ではなく全員に渡すのは、毒の混入を怪しまれてはいけないためだ。サーフィは先程の傷によって吸収率が上がっている。サソリ毒の摂取により客たちは興奮し、判断能力が鈍りだす。記憶も通常時よりは曖昧になるだろう。

 体調不良によって判断能力の鈍ったサーフィ。買収しておいた踊り子に剣を落とさせ、切先――こちらにも念のためコブラの毒が塗ってある。下手すると死ぬ――で彼女の手の甲に傷をつける。

 何も知らない侍女へ「これがよく効く」とコブラの毒を元につくった偽傷薬を渡し、サーフィの手に塗らせる。のちにコブラ毒を混ぜた同じデザインの傷薬と入れ替えておく。

 ちなみに、侍女が口を滑らせないようにするための手段は幾つか用意しているらしい。


「殺害理由は、サーフィが他の男に入れ込んでいると知り、信用ならないと思ったから。祝金だけ貰って殺してしまう算段のつもり……だな?」


 結婚式前夜、ダリウスたちはまたライルの部屋で話し合いを行なっていた。ランプの光を反射したダリウスの瞳が、淡いオレンジ色に光る。


「はい。確かにそのような内容を第二夫人とされていました」

「でも、これは事実に反する」


 ライルは眉間に皺を寄せたまま首を振った。


「姉さんはザハブに恋愛感情を抱いていない。けど、それは誰に対してもだよ。彼と結婚する利益を理解しているから、わざわざ棒に振るような真似はしないと思う。彼に気に入られるためにといつも自分磨きに必死だよ」


 確かに、サーフィはどのドレスが一番ザハブの心を掴むのか今日一日中、研究者のように神妙な面持ちで侍女たちと話していた。

 同じことを思い出しているのか、ダリウスも納得の表情を浮かべている。

 ライルは「それに」と言葉を紡いだ。


「嫁入り前なんだからこの家に姉さん目当ての男が出入りすることは無理だし、怪しい外出もない。町へ出かけたことはあったけど、数多くの衛兵と乳母や侍女はたちを連れて行くから逢い引きはもちろん、ザハブ以外に惚れる隙もないと思う。本人にも聞いたけど、呆れた様子で否定されたよ」

「ザハブは嘘を吹き込まれたのか」

「どうにか真実を伝えないと。仮に今回の殺害を阻止できたとしても、また殺そうとしてくるだろうから」


 直接伝えても信じてもらえるかはわからない。嘘を教えた者が第二夫人なのだとしたら尚更だ。共に過ごした時間が違いすぎる。信頼だって今はゼロだ。

 ちなみに、買収された踊り子の特徴までは知ることができなかったようで、買収し返すことは今のところ不可能である。


「あっ」

「どうした?」


 あることを思い出したヴァネッサは、金のブレスレットを服の袖から露わにした。中心で輝くファイアオパールには、今度こそ王城で大人しくお留守番しているであろう火竜の力が込められている。願えば、火竜そのものに近い力を使うことができるらしい。護身である。

 また、大きな力を使うとある変化が訪れる。……まぁ、もう既に起きてはいるのだが。

 ヴァネッサはダリウスへと微笑み、次いでライルへと顔を向けた。


「質問ですが、サーフィ様もライル様のように不思議な力をお持ちなのですか?」

「なるほど、妖精の加護持ちだったのか」

「妖精ですか?」


 ダリウスの発言に頭を傾けるヴァネッサ。その姿を見て、ライルとダリウスはこの国について話し始めた。

 まず護身のための基礎知識として。インバットには薬品の知識に優れている者が多く、様々な薬を他国に輸出している。香木や香水の販売も多い。しかし、貧富の差が激しく、闇市や裏取引、違法行為も多発している。ファジルやザラムと呼ばれる優秀な暗殺組織もあり、他国からも恐れられているのだとか。

 美しくも危険なこの国には、妖精がいる。最も多いのは風の妖精で、それ以外の自然を司る妖精は基本的に人間と関わらない。

 そして、妖精の加護持ちとは、ブレイズやアヴァランシェとは異なり、妖精の加護を受ける形で力が発現した者のことである。故に王族でなくとも力を持つことができ、加護持ちの人間は非常に重宝され、富を築くことができると言われているらしい。事実、王族や富豪たちの中には妖精をどうにかして捕まえ、脅迫してでも加護を受けようとする者がいるらしい。返り討ちにあって散々な目にあうらしいが。

 ライルは子どもの頃に自然と加護を受けたらしい。


「でも、サーフィ様は受けていないと」

「まぁ加護持ちの割合は一パーセントにも満たないらしいからな」

「そうそう。だから余計に護身術を身につけたり、耐性をつけたりする必要があったんだよね。なおさら毒殺されたことが怪しいでしょ」

「そうですね、私でも怪しむと思います」


 こくこくと頷いたその時、ヴァネッサの頭にある案が浮かんだ。


「サーフィ様は護身術を身につけていらっしゃるんですよね。なら、瞬発力も人並みには」

「あるね」

「わかりました。少々保険は必要ですが……これはどうでしょう?」


 ヴァネッサは四人を集め、ヒソヒソ声で案を説明した。明日は細かい準備や侍女たちの顔を把握する必要があるため、そろそろ計画を建てねばならないのである。


「――では、そういうことでいきましょう」


 ヴァネッサの最終確認に四人が頷く。

 結果、最初こそ全力で否定されたのだが、またもやヴァネッサの代わりにミアが動くことで了承して貰えた。

 しかし、油断は禁物である。念には念を、ということであらゆる可能性に対処できるようにしなければならない。計画に粗が残るのだから、尚更だ。


「四人の参加許可は得ておいたから。じゃあ、俺はウィッグと衣装を用意しておくよ。記憶しているから、上手く再現できると思う。予備を合わせて三着でいいんだよね?」

「ええ、お願いしますわ。ミアもお手伝いよろしくね」

「かしこまりました」


 ミアはライルから作図や材料を受け取り、恭しく礼をした。

 ヴァネッサが手伝ってはむしろ手間をかけさせるだけということは、明白である。


「では、私は同じ傷薬とマップ、来客リストを用意しておきますね」

「宴までにマップと名前を頭に入れて、着いたら顔と名前を一致させる……少々骨が折れそうですわね」

「念には念を、だからな。もちろん、危惧した事態が起こらないことが一番だが」


 ダリウスの言葉を受けて、ヴァネッサはふっと眉を下げて微笑んだ。

 明日は大忙しである。

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