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24話 "見て"守りたいのです

 ゴールドに輝くシャンデリア、森のように深い緑のカーテン、純白のテーブルクロスによく磨かれた大理石の床。男爵家にしては華美な内装のダンスホールにはブレイズ王国で名を馳せている楽団が音楽を奏でている。

 夜会が行われているホールは二階にある。その上の三階に位置する無人のボックスに忍び込んだヴァネッサは、カーテンの隙間から外を伺っていた。一人でいるのはライルが夜会を嫌い、行きたくないと主張したからである。敷地外には控えてくれているらしい。

 ちなみに、身バレ防止のために着用していた仮面は外してある。目に穴が開けられていないため何も見えないのだ。


(ゲームの世界だからか装飾だけでなく人間もカラフルね)


 主に髪と瞳が。薄桃、薄緑、黄色に水色。ドレス並みに色鮮やかで、シャンデリアの光を反射していてこれまた眩しいのだ。

 視線を中心から逸らすと、壁の花となっているシェールの姿が見えた。彼女の瞳に合う緑がかったベビーブルーのドレスを纏っており、ヴァネッサのお古であるピンクダイヤのアクセサリーに合わせた薄桃色のリボンがいいアクセントになっている。白いレースもたっぷりでかわいらしい。とてもお古だとは思えない仕上がりになったのは、ミアによる手早いサイズ調整のおかげである。

 控えめだけれども、むしろそれがシェールの可憐さを助長しているように思う。事実、先ほどからシェールへと視線を送る男性陣がチラホラと見受けられていた。

 未だに続く熱い視線に、ヴァネッサは満足気な笑みを浮かべた。最高の出来に仕上がったと思っていたたが、やはり他者の目から見てもそうなのだろうと感じたのである。単純に嬉しい。

 肝心のシェールはというと、顔を下に向けている一方だが。


(あと時折り視線を動かしているけれど、ダリウス殿下を探しているのかしら?)


 ヴァネッサの計画ではシェールの側で彼女を見守っているはずのダリウスの姿が、何故か見当たらない。エスコート(と言っても会場入り口まで)にはいたはずなのだが。


(馬車の中で彼女を見守るよう伝えたはずなんだけど、まさか私みたいに影に潜んでいらっしゃるのかしら?)


 肝心な部分でシェールを助けてくれればいいのだが、少し心配である。


(とはいえ、彼を探しに行く時間はないけど)


 ヴァネッサは壁時計へと視線移した。午前零時まであと約十五分といったところか。数刻もしないうちにイベントが始まるだろう。そして、鐘がなるタイミングでマーティンからシェールが完全に離れることとなる。

 また、マーティンは犯罪者の烙印を押されるだろう。


(身内の不始末なんてどうでもいいわ……に、してもここ鉄臭いわね!)


 無人とは言ったが、所有者自体はいるようで。いったい何が置かれているのだと、真っ暗なボックス内へとヴァネッサは振り向いた。


「うわっ」


 そして引いた声を出す。

 壁一面に剣やら、槍やら、斧やら、銃やら数々の武器がかけられていたのだ。鎧もザッと見ただけでは十はありそうである。壁に立てかけてあるのはアイアン・メイデンだろうか。これを含む様々なものに血痕のようなものが残されており、非常に悪趣味である。よく見れば棺まで置かれているではないか。黒塗りにしている上にチェーンやベルトが厳重に巻かれている。


「この部屋の主人は吸血鬼だったりして――ふぇっくしゅ! あっ」


 埃が鼻の奥にこべりついたのだろう。ヴァネッサはくしゃみをしてしまった。抑えた指の隙間から漏れたのは割と大きな炎。

 まずいまずいとカーテンやベルトに移った炎を叩き消す。絶大な炎の力を得たせいで、意図せずとも炎が漏れ出てしまうようになったのだ。今までのような未熟ゆえに漏れてしまうというより、多すぎて制御できないといえばいいだろうか。

 どうにかして制御しなければならないと感じたその時、棺の中から何やら音が聞こえたような気がした。慌てて口をつぐみ、耳を寄せる。


「……うぅ」


 勘違いではなかったらしい。微かにくぐもった苦し気な声が聞こえてきた。声の高さからして女性だろう。もしかしたら少女かもしれない。


(ここは誰かのボックス。中にいる人物が所有者かもしれない。でも……)


 ヴァネッサは再び顔を上げた。使用した跡が残る武器たちは、少女が扱うには重すぎる。

 もしこの子が本当に所有者だったなら、きちんと謝ろう。何もせず、後から事件だったと知って後悔するよりはましだろう。

 ヴァネッサはチェーンとベルトを全て外し、重厚感たっぷりの蓋へと手をかけた。


「えいっ! って、この子は!……誰かしら」


 中にいたのは、棺の中で足を折り、苦し気に眠る少女だった。長い金髪がかかる顔は陶器のように白い。いや、不健康なまでに。小さく薄い唇からは血色を感じられない。

 開けた瞬間は見覚えがあるように感じられたのだが、まったく誰なのか思い出せない。自身と同じ金髪ロングだから親近感が湧いたのだろうか。


「と、とにかく息があるか確認しないとよね!」


 ヴァネッサは少女の口元へと耳を寄せた。聞こえてきた寝息は小さいが、乱れていない。きちんと胸も呼吸に合わせて上下している。服の下はわからないが、見えている限りでは目立った外傷はない。……いや、手首に誰かに強く掴まれた跡が残っている。


(となれば、棺へは自分からではなく、何者かによって入れられた可能性が高いわね)


 ふむ、と顎に手をやったその時。ホールからどよめきが聞こえてきた。


(ついに始まったようね)


 ヴァネッサはひとまずボックスの窓際へと移動し、階下を見下ろした。念のため鎧から剣を拝借させてもらって。

 ホールではちょうどマーティンが仮面を取っていた。先ほどまで仮面をつけた状態でシェールと踊っていたのだ。背中を向けられてはいるが、手に持っているため間違っていないだろう。

 自身が送ったお揃いのドレスを着ていないことに怒りを露わにはしていないらしく、シェールと一般的なボリュームで会話をしている。どうせ「実は隣国の王子でした。驚いたと思いますが、貴女のことがずっと好きでした結婚してください」という内容をオレ様マックスで語っているのだろう。現にシェールの顔がどんどん嫌そ――嫌がりすぎやしないか。

 ヴァネッサは思わずギョッと顔を突き出した。これでもかというほど眉間を寄せ、顔を引き、不審者を見るような目つきでマーティンを見上げているシェール。正直に言ってヒロインがしていい顔ではないだろう。

 ゲームでは結婚の申し出を断り、立ち去ろうとするシェールの腕をマーティンは掴む。その瞬間にブレイズ王国の警備兵が入り、二人は離れることとなるのだが……果たしてシェールは穏便に断ろうとするのだろうか。


「教会にこの身を捧げると決めましたのでお断りいたします!」


 無理だったようだ。

 シェールはカッと目を見開いてマーティンに頭を下げてそう叫んだ。そして、背を向けて走り出す。――が、その腕をマーティンが掴んだ。シェールの顔が苦痛に歪む。

 一生懸命離すよう説得するシェール、自身を選ぶと疑わないマーティン。二人の間で攻防戦が繰り広げ始めた。そのうち貴族たちが不敬だと声を上げ始め、シェールを取り囲むように円を作っていく。あと少し、あと少しでダリウスが。そう心臓が波打つ感覚と共に静観していたヴァネッサは、ふと、違和感を覚えた。


(おかしいわ)


 ダリウスがいない。この国の王子であるダリウスがシェールを助け出すはずなのに。そのつもりで彼を連れて来たのに。

 時計へと目をやるも零時、つまりシナリオ通りに警備兵が駆け込むであろう時間が来るまであと十分もある。それまでにシェールがマーティンに捕らえられてしまいそうだ。


(あと少し、あと少しで殿下が来てくださるはず)


 冷や汗が滲み始めていた手に力を込める。ジッと祈るようにシェールたちを見つめるも、ジリジリと貴族たちが彼女との距離を詰めていくだけ。

 あと少し、あと少しでシェールの背中が壁に当たる。そして、マーティンが彼女の両腕を掴み寄せる――その前に、ヴァネッサは二人の間へと剣を降り投げた。


「誰だ!」


 貴族が声を上げて宙を見上げる。その頃にはボックスから飛び降りていたヴァネッサは、仮面を着け、新たな剣を片手にマーティンを今度こそシェールから引き離した。


「ヴァッ」


 名前を呼びかけたシェールの唇を人差し指でそっと抑え、そのまま抱き上げてホールから飛び出す。

 動きやすいようにとヴァネッサが破ったドレスの歯切れが、シェールの代わりとでも言うようにマーティンの前へと残された。

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