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幕間 心の穴

 炎の国ブレイズ王国。夜のとばりが落ちてもなお城下町はにぎわっており、外れに位置する王国お抱えの騎士団用宿舎も同様だ。

 真っ赤な顔で酒を酌み交わす騎士や候補生へと冷ややかな目線を向け、人ごみの合間を縫い進んでいるのは、この国の第二王子ケネスである。

 薔薇が咲き誇る庭園へ出ると、そこには静寂と共に一人の少女が椅子に腰かけていた。物憂げな表情で、月にも勝る蜜のような美しい瞳を空へと向けている。


「カレン」


 名前を呼ばれ、少女――カレン・ヒローニアが振り向いた。可憐で儚い花のように微笑まれ、ケネスの胸が締め付けられた。この世で元も愛しい存在であるにも関わらず、どれだけ愛の言葉を囁こうと、尽くそうとも手に入らないのだから。

 腹の奥底で燃え盛る嫉妬を隠し、ケネスはあくまで紳士的に微笑み返す。


「こんな場所にいては体が冷えてしまうよ。もしかして、酔ってる?」

「いえ、わたしはお酒に弱いので酔っては」

「なら、疲れた? ハリーのやつ、毎日のように君を宴へ連れまわしているだろう? 最近魔物の出が少ない上に、陛下の目が甘くなっているとはいえ、毎日のように宴を開くのはどうかと思うんだけど、君は嫌じゃないの?」

「それは……ふふ、殿下には隠し事はできませんね。本当は少しだけ、一人になりたかったんです。でも、いいんです。平和が一番ですから」


 そう、照れたようにカレンは頬をかいた。彼女の顔に疲れが見え、ケネスは帰るべく踵を返した。しかし、ケネスの服の袖を、カレンが掴んだ。


「待ってください」

「でも、君は疲れているんだろ?」

「なんだかお疲れのように見えます。王宮は息苦しくて嫌いだと仰っていましたよね。少しここで休憩して行きませんか?」


 もちろん誰にも言いませんから、とカレンはいたずらに笑った。


「君は優しすぎるよ」

「ケネス様も優しいじゃないですか。それで、何かあったんですか?」


 ケネスは小さく息を吐いた。


「君の言う通りだった」

「え?」


 カレンは首をコテンと傾けた。その姿が小動物のようにかわいらしくて、ケネスは先の言葉を言おうか言うまいか迷ってしまった。


「姉上が、生きていた」

「! ヴァネッサ様が」


 カレンが体を大きく揺らした。


「疲れている時にする話じゃなかったね、ごめん。でも、僕が守るから、君はこわ――」

「よかった」


 心から安堵したようなカレンの声に、ケネスは耳を疑った。


「君を虐めていた人間だ。気にかける必要なんてないでしょう?」

「でも、急にいなくなられては心配します」

「……君はやっぱり、僕とは違うね」

「えっ? ごめんなさい。もう一度言ってもらってもいいですか?」

「ううん、なんでもない。それより」


 酔った騎士たちの声が聞こえ、ケネスは口をつぐんだ。聞こえてきたのは、自身に対する非難の声。炎の力がほとんどないこと、兄と比べて武力も学力も足りていないこと、すぐ頭に血が上ること。すべて正しい事実だと、わかっている。しかし、沸々と怒りの炎が沸き上がってくる。

 ケネスが拳に力を込めたその時、カレンがその手をギュッと握った。


「あっ。……ごめん。僕、また怖い顔をしていたよね」

「わたしが殿下のことを怖いと思うことはありえません。それより、あんなの気にしちゃダメですよ」


 カレンに腕を引かれ、ケネスは大人しく椅子に座った。


「皆さんが殿下のことを何と言おうと、わたしだけは殿下のよさをわかっていますから」

「……」


 カレンはケネスを引き寄せ、いつものように頭を撫でた。どこか懐かしい、おぼろげな景色を頭に浮かべ、ケネスは目を閉じた。隣に人がいるはずなのに、温かみを感じることができない。


(君が僕のものにならないからかな。心の奥がからっぽのように感じて、寂しくて仕方がないんだ)


 ケネスはそっと、懐に忍ばせていたある紙を取り出した。そして、カレンから見えないよう、背中の後ろに手を回し、小さな炎で灰へと変えた。


(君のことが恋しすぎて、恨めしすぎて、このままだと傷つけてしまいそうだよ)


――君の望みをかなえたなら、僕のことを愛してくれるのかな

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