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幕間? 人間でも神でもない何かの話

 気がつくと、わたしは一つの物語を見守っていた。すぐさま悟ったのは、この物語を正しい方向へと見守り、導くことが使命であるということ。

 パラレルワールドとは異なるが、本なりゲームなり、どこか元となる世界で誰かが物語を認識する度に、別の次元でゲームの住人たちが生きる世界が生まれるのだろう。そしておそらく、世界一つにつき、プレイヤー一人の意思が宿る。現に、元となる世界で生きる自分らしき記憶が、わたしにはあった。

 しかし、それはひどく漠然としたもので。やけに豪奢だけれども誰もいない部屋で、寂しさと無気力を感じながら、カラフルな光を放つ四角い箱を見つめる……それだけだった。辛いだけだから今は思い出さないようにしている。


 また、ある人物に対する強い感情も覚えていた。あまりにも強すぎて、自分のものだと錯覚してしまうくらいに。

 それが、自分が見守るべきヒロイン――ダリア・レイリーフの兄、ライル・レイリーフだった。

 ぶっきらぼうだけれど根は優しくて、面倒見が良くて、妹である"わたし"を気にかけてくれる。

 そんな彼が兄としてほしい。羨ましい。恋しい。ヒーローなんていらない。ヒーローたちと恋愛するくらいなら、彼と恋人になりたい。兄妹としての愛と恋人としての愛、どちらも手に入れたい。

 なんて、強い欲望の渦がグルグルと混ざり合って、気付けばこの立場を恨めしく思うようになっていった。


 ある日、彼はシナリオ通りに殺された。

 彼は、ある女性のことを思いながら死んでいった。

 それが、シリーズ最初の『Burn to Love』に登場する悪役、ヴァネッサ・レイ・アルフレイムだ。幼い頃に立ち寄った王城にてたまたま彼女と出会い、あろうことか彼は彼女に恋をした。恋に落ちた理由なんてわたしにはまったくわからなかったが、それでも、ああ、なんと羨ましかったか。

 彼はそれからずっと彼女のことを想い続けていたものの、彼女もまたシナリオ通りに死を迎えた。その知らせを耳にした彼は絶望し、嫌々続けていた仕事も何もかも億劫になってしまった。故に、隙ができる。

 彼は殺される恐怖など感じていなかった。

 最後まで、彼女を助けられなかった後悔に苛まれていたのだ。むしろ「苦しみから解放される」と安堵していただろう。

 ダリアもそうだが、彼女以上にヴァネッサがひどく羨ましくて堪らなかった。

 だから、咄嗟に浮かんだあるアイデアを口にしたのだ。


「なんでも一つ願いを叶える代わりに、新しく紡ぐ世界で恋人になってほしい」


――と。


 安堵していたとは言ったが、後悔してきたのも確かなようで。

 藁にもすがる思いだったのだろう、交渉は成立。相変わらず口調は冷たかったが、死に際にしては力強い返事が来たものだ。

 彼は「かつて自身に手を差し伸べたヴァネッサに、何がなんでもハッピーエンドを迎えさせたい」と願った。

 とはいえ、どのような終わり方がハッピーエンドなのかは彼女にしかわからない。復讐するのか、平和に慎ましく暮らすのか。大きく分けてもこの両極端なエンドが考えられる。

 そのため、ゲームの記憶を取り戻すという形でヴァネッサを生かしてみることにした。

 新しい世界のライルに記憶を移す形で、彼は二度目のゲーム世界を生きることとなる。ヴァネッサに移すゲームの記憶は、別の世界に存在する他プレイヤーの記憶を拝借した。わたしは『Burn to Love』をプレイしていなかったから。

 ちなみに、予行練習としてカレン・ヒローニアにも記憶を移してみたが、何度か失敗してしまった。最終的には成功できて安心したものである。

 こうして、彼はヴァネッサを救うために、彼女と恋人になんてなれない世界で再び生きることとなった。

 恋人になった後に新しい世界をつくり、そこで本来のわたしの願いを叶えることもできたのだが、私がそれを提案しなかったのはあえてである。


 彼の望んだ通り、わたしの望んだ通り、ヴァネッサはライルとは別の男性と結ばれた。この先はきっとハッピーエンドである。

 なのに、彼は殺されなかった。殺されに行くこともしなかった。

 わたしはもちろん「裏切り行為だ」と彼を罵り、怒りをぶつけた。まるで、怒り狂った亡霊のように。

 しかし、初めて聞いた軽蔑するような、責めるような彼の声に何も言えなくなってしまった。「そんなに俺に死んでほしいわけ?」という言葉もやけに胸に引っかかって残り続けている。


 延長されてしまった彼の死と、彼との新たな世界の幕開けは未だに楽しみだ。

 しかし、それは本当に自分の願いなのだろうか。

 元の自分が願ったことだから、わたしもそう願って当然なのだろうか。

 長い間、彼女を想い続けた彼を見て、また、彼のことをわたしも想い続けて。わたしになんの感情の変化も起こらないものなのだろうか。

 それらのことが気がかりなのもまた事実であった。

 だから今は、遠い果てにあるであろう物語の終わりを待ちながら、わたしについて見つめてみようと思う。

 例え、そうすることによって願いが変わってしまったとしても。

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