『訪問者は少女と非凡』
友人が得意げに披露してくれた情報によると、
妹のクラスに留学生が転入してきたらしい。
そうか、もしかしてそれで今日妹は急いで朝早くに家を出て行ったのかもしれない。
今頃歓迎会でもやっているのだろうか。
留学生はアメリカ人だろうか、中国人だろうか、いやロシア人も捨てがたい。
イタリア人も美男美女が多いと聞く。
今日帰ったら妹に写真でも見せてもらおう。
きっとかわいい。
そんな、留学生という漫画なら美男美女確実だろ。
という勝手な偏見で勝手な妄想をしていると、
何時からか来ていた担任教師による朝のホームルームが始まった。
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放課後、いつも通り図書室に行こうとする為に一階の渡り廊下を走っていると。
「ちょっと待ちなさいよ、バカ兄」
なぜか妹に呼び止められた。
イラついた足取りでこちらに歩み寄ってくる妹、
とその少し後ろを一人の女性が歩きながらこちらにやってくる。
恐らく、あの女性が噂の留学生だろう。
「あんたに紹介しておきたい奴がいるのよ」
そういうと妹が後ろを振り返り、バスガイドよろしく留学生について説明し始めた。
その姿はどちらかといえばロシア人の容姿をしていて。
絹よりしなやかで光沢のあるブロンドに、
制服のシャツと同じくらい真っ白な肌、
そしてきりっとしている割にどこか優しそうな切れ長な目。
瞳の色は蒼、青空みたいな水色に少し近い蒼。
「・・・すげえ」
思わずそんな言葉が漏れてしまうような、
映画で見る俳優よりも美人な外国人って、本当にいるんだなと驚きを感じた。
それと同時にこの世の生き物ではないかの様なまるで人形みたいな美しさが怖くも感じた。
「あまりじろじろ見るんじゃないわよ、レディに失礼でしょ」
妹が俺の視界を遮り腰に手を当てて、顔を近づけながら難癖付けてきた。
近い、うざい、ほっとけ。バカ。
「じろじろみてねえよ、ほんの一瞬顔見てただけだろうが」
「嘘ね、嘗め回すように見たたもの。・・・いやらしい」
顔を近づけたまま汚物でも見るような目つきで俺を睨んできた。
言われようのない無い不評である。
そこまで変質者じみた行いはしていない筈だ・・・多分。
後、俺の事を汚物と思うんなら近づくんじゃねえよ距離をとればいいだろ。
それとも何か?
汚物フェチでもいあるのだろうか我が妹は。
俺達がいがみ合っていると、先ほど紹介された留学生がくすくすと軽く笑い口をはさんだ。
「お二人共仲がよろしいですね。私は構いませんよ?そういうのは慣れてますし」
「仲良く無いわよ、どこをどう見たのかしらあなた」
妹がいつになく怒っている。
そんなに拒否らなくてもいいだろ、お兄ちゃん泣いちゃうぞ。
「べ、別にこいつの事なんてなんとも思ってないんだからゴミ以下だと思ってるわ」
すげえ、途中までは模範的なツンデレ台詞だったのに最後でグサデレって感じの台詞になった。
日本語ってちょっと言葉が変わるだけでこんなに変わるんだな、勉強になるわあ。
そんな感じで俺が現実逃避を少し始めると、
妹が肩をはたいて「さっさとアンタも自己紹介しなさいよ」と話を区切った。
「黒鉄 勇人です。・・・どうもよろしく」
「クララ・プログレです。ララと呼んで下って構いませんよ。・・・以降よしなに」
お互いに少しぎこちなくお辞儀した。
『よしなに』って初めて耳で聞いたな、お嬢様か何かなのかな。
それから妹を介して俺の自己紹介も軽くした。
話をまとめると、
どうやらこのクララ・プログレという留学生は
ロシアから遠路はるばる来たそうだ。
日本語は出来るがたまに母国語が混ざる為、
妹が通訳もかねて身の回りの世話をするという。
ちなみに化学薬品等を取り扱う会社の御令嬢らしい。
まあ確かに、言葉の節々に育ちの良さが出ていて同じ年頃の妹よりは確かに二廻り程大人に見える。
俺の自己紹介が終わった後、妹が『あ、そういえば』と言って話を切り出した。
「今日からこの娘家でホームステイするから」
「・・・は?WHY?」
「私が世話するから」
「そういう事決まったら普通事前に言わない?」
「昨日言おうとしたらア・ン・タ・が!聞く耳持たなかったんじゃない」
成程、昨日の話はそのことだったのか。
こればっかりは文句言えないので、黙って聞いといてやる。
しかし、家がいくら謎に豪邸で部屋の空きがあると言ってもだ。
こんな年端のいかない少女と 一つ屋根の下はどうなのだろうか。
「言っとくけど、クララもクララのご両親も了承済みだし、パパとママはその準備も済んでるし」
特に何も言ってないのに話始めた。
「後、童貞見え見えの妄想で・・・この娘に間違いを犯したら私がアンタを始末するわ」
特に何も言ってないのに釘を刺された。
なんだろうな俺ってそんなに表情読み取りやすいんだろうか。
あと童貞ちゃうわ。
嫌、童貞だったわ。
見え張りました、すいません。
そんなこんなで本日は歓迎会等の催しや、こちらでの生活について説明する必要があるとかで俺も早く帰る必要があるそうだ。
「俺は別にそんなの興味ないし勝手にやってくれ」
「何言ってんのよ」
そういってさぼりたがりの俺が反論すると、妹が呆気にとられた顔で非道なことを口から放った。
「アンタはただの荷物持ちよ、それ以外は特に要らないわ」
ちくしょうめ。
相も変わらず俺の扱いがかなり雑な妹であった。
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そんなこんなで、歓迎会で行う料理の具材や、これから使用するであろう生活品を買い占めた後。
俺だけふらふらになっているのを尻目に元気そうに歩く女子二人の後を付いていき。
なんとか帰宅した。
「重かった」
「だらしないわね、鍛えが足りないわよ」
俺が30キロほどありそうな荷物をようやく下して休憩していると、
妹がまたゴミを見るような目で見てきた。
「こちとら帰宅部だぞ。運動部にすら通ってないお前にはこの荷物持つ事すら厳しいだろうが」
「その言い方だと帰宅部は運動部のくくりに入るのかしら。随分と阿呆な考え方ね」
そういいながら、溜息を一つついたかと思えば。
妹は俺の隣に置いてある荷物を軽くひょいと持ち上げて階段を上り、荷物を二階に置きに行った。
「えぇ・・・お前、そんなにひょいひょい持てるんなら俺要らなかっただろ」
「何言ってんのよ、レディに重たい荷物を持たせる気?」
だからお前、それを軽く持ち上げられてるじゃねえか。
と文句を言いそうになったが。
今回は疲れているのもあるので、不満そうな顔だけで許してやる。
兎にも角にも、帰宅したからにはあとは母さんが作ってくれる料理と、出前の寿司を待つだけである。
我が家は祝い事の時、寿司を頼みたがる。
大体の家庭でもそうかもしれないが、我が家での理由はどちらかというと父親が大好物だからだろう。
夕飯までの2時間程を日課であるオンラインゲームに費やし、
その後にうまい飯を食う。
これぞ学生の醍醐味。
私の人生は素晴らしい。
イッツベストマイライフ。
ちなみに後で千里に聞いてみたら、
My life is wonderfulが正解だった。
そんなこんな俺は自分の部屋で、
たった6畳くらいしかない我が城の玉座に座り。
コーラとポテチを用意して、PCのスイッチを入れた。
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歓迎会で豪華な食事を楽しんだ。
中には親がどこで身を付けたのか分からない一発芸を披露して。
それに終始ポカンと口を開けて、
どんな顔をすればいいかわからなくなっていた時間もあったが。
忘れよう、忘れたほうがいい気がする。
いつもより早めの夕食が終わり。
みんなが寝静待ってきた頃、余っていたポテチやコーラを貪りながら。
俺は再びPCのスイッチを入れてゲームを始めた。
今日一日色々普段と違う事があって疲れたので、ようやく日常に帰ってきたって感じだ。
そんな安心を感じつつも、今日出会った浮世離れした少女を思い出していた。
そしてそんな疲れる現実から少しでも遠ざけられるようにヘッドフォンを付けた。
登場人物
黒鉄 勇人 主人公
黒鉄 四葉 妹
蛇喰 千里 図書委員長
クララ・プログレ 留学生