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『現実って平凡』

「黒鉄勇人さん、起きていただけませんか?」


「・・・はい」


妙に痛い後頭部をさすりながら申し訳なさそうに顔を上げた。

これたんこぶ出来てんじゃねえかな。


「あなたはいつもいつも、私の授業では寝ていますね?」


「いえ、他の授業で『でも』寝ています」


「そういう屁理屈や揚げ足はいりません!」


「・・・はい」


何だってんだ、むしろ自己申告した素直さを認めて褒めたらどうなんだこの俺を。

高校デビューの名残である少し残った茶髪をいじりながら不貞腐れる。


この国語の教師は怒りの沸点が上に行くほど敬語になる。つまり今は沸点間近らしい。

ちなみに沸点を超えると、、、


「あなた様のような生徒はわたくしの授業にはいりませんでしてよ?お分かり?」


このようにお嬢様口調になる。


おもしろすぎるだろこの教師、これでザマス眼鏡(眼鏡のレンズが三角形になっているもの)

でも着けていたら漫画の世界から出て来たと言われても信じちまうよ。

残念ながらつけているのは丸眼鏡だが。


この赤面している教師の話を聞く限り、

どうやら国語の授業の寝心地が良すぎて

終わり間際まで寝ていたらしい。

しかも、どうやらこの授業は睡眠用BGMとしては一流の様で

よく見ると何人かはバレずに船を漕いでいたり、寝落ちしている。


いや、なんで俺だけ注意されてんだこの状況で納得いかん。

あれか、他の生徒はステルス迷彩でもつけてんのかよ。

なんだよズルいな、くれよその機能、俺にも。


「、、、ちょっと聞いていまして!ですから」


「キーンコーン、カーンコーーン」


救いの鐘の音だ。授業終了のタイムが校内放送で鳴り響く。


「次の授業あるんで失礼します」


教師は歯を噛み締めながら声を震わせて「いいでしょう」と一言だけ絞り出した。

俺も「あざす」とだけ言って、一礼して逃げるように教室を出て行った。

ざまあみろ。


今日も一日、平和で平凡にすごしてる。よきかなよきかな。


**  ********  *********  **


放課後、いつものように図書室に本を 借りに来た。

最近新しく付け替えたらしい自動ドアが俺を快く迎えてくれた。

気分もルンルンだ。


「いいーんちょーう、頼んでおいた漫画は?」


「あなた毎日聞きにきますね。はあ・・・残念ながらまだ来てませんよ」


図書委員長は快く迎えてくれなかった。気分はサゲサゲだ。

1週間くらい前に図書室に置いてくれるように頼んだ漫画は届いていないらしい。


「黒鋼さん、あなた国語の先生に嫌われているでしょう」


「俺はこの学校の先生には大分嫌われていると思うけど・・・なんで?」


本を読んでいた図書委員長が二つの三つ編みを揺らして、丸眼鏡を指であげて、こちらを睨んできた。


「黒鋼様、この神聖なる図書室に漫画なんぞ持ち込まないでくださいまし」


先ほど怒らせたどこかの国語教師にそっくりだった。


「って先生が言ってましたよ、当然申請もおりませんでした」


本に視線を戻しながら彼女はつぶやいた。


「びっくりするほど似てるな、君もしかしてあいつの娘?」


「それは誉め言葉として取っておきましょう、違いますけど。

あと、先生の事をあいつ呼ばわりはいけませんね。

日頃から言動に気を付けていればこうはなりませんでしょうに」


怒り方も少し似てる。


「なにか?」


「何も言ってねえよ」


女の感って怖いな。


「それと、そろそろ君ではなく私の名前でよんでくれませんか」


「・・・名前なんだっけ?」


「はああああぁ・・・」


今日一のため息をつかれた。


「蛇喰千里です、千里って呼んでください」


じゃばみ、へびかみ、、、中二病っぽい名前だなって思った。


「なんで下の名前?普通名字のほうでよばない?」


「嫌いなんです、名字。物騒でしょ、女の子らしくないですし」


「そうか・・・かっこいいと思うけどなあ。人それぞれか」


我ながら小学生みたいな感想である。

そのどうしようもないような感想に対して、千里は困ったような笑顔で

「かっこいいという感想は初めてですね」といった。

悪かったな、阿保っぽい感想で。


そんなわけで今日も千里と軽く会話して、漫画や本を読んで時間をつぶした。

千里は図書室のカギを返しに行くのに遅くなるらしいので、俺だけ先に下校だ。


下り坂を自転車で走り、風を感じながら学校が立っている高さよりだいぶ低い位置の商店街に向けて下る。

この時が一日で一番気持ち良い、涼しくて少しスリルも感じる。


今日も一日、平和で平凡にすごしてる。よきかなよきかな。




**  ********  *********  **



「ただいま」


家の玄関を開けて、靴を脱ぎ、手を洗う。

大体この時間には夕飯が出来ているから、この時間を狙って家に帰るのだ。

家のリビングにある脚付きのテーブルを4人で囲む。

見た目どこでもいる眼鏡をかけている普通の会社員のような、父。

若くて、おっとりしてそうな母。

小さくて、茶髪のツインテールをしている妹。


そして、少しやさぐれて居心地悪そうな俺。


リビングのTVのリモコンはこの家で一番愛されている妹が主導権を握っている。

今日はUFOのオカルト特集の番組をみたいらしい。

どうぞお気の召すままに、俺は興味無いけど。

正確に言うともう興味が無い。かつてはそういう不思議なものに興味はあったが

今はそういうものは画像の加工だとかただの勘違いだとかで事が済んでしまう。

妹もあまり興味が無いのか特にリアクションもせず芸能人が驚いたり、

怖がってるのを見てるだけだ。


「四葉ちゃん、この芸能人さんしってるの?」


「知らない」


「四葉、これ美味いぞもっと食べるか?」


「要る」


我が家では愛息子は、ほったらかし。

愛娘は、とことん甘やかしたいらしい。

それもそうだろう、なんたって我が家の稼ぎ頭はこの妹なのだ。

あまり詳しくは知らないが、特殊なバイトをしているらしく

急に出かけたり数日戻ってこない時もある。

その成果として、様々な免除やお金がもらえるとのことだ。

昔は守ってやる側だった妹が、いつの間にか頼りがいが出来てしまって。その劣等感とか色々なものでここ5年間近く仲は悪い。


「あ、バカ兄貴。そういえば、、、」


「ご馳走様」


切り出し方からしてろくでもないことだと思ったので、早々に退散する。


「ちょっと待ちなさいよ!」


「うるせえ」


俺はこんなところにいられるか自室に戻るぞ。

俺は一人、二階の自室に閉じこもった。

そしてPCの電源を付けて、オンラインゲームを始めることにした。

適当にチャットで憂さ晴らしの愚痴を吐き、適当にモンスターを倒しまくり。

そのまま夜遅くまで遊び惚けて、、、寝落ちした。

今日も平凡、糞詰まらない、何もなく、明日も非凡な人生を歩むことは無い。



はずだった。


登場人物

黒鋼勇人 主人公 

黒鋼四葉 妹

蛇喰千里 図書委員長

国語教師 モブ

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