第61話 黒馬
久しぶりの投稿です。
最前線。
そこでの戦いは、絶望に近かった。
「ははは……」
この腑抜けた笑いをしたのは、俺だ。
体の力が抜ける。
恐怖で足がすくむ。
立つことなんてできやしない。
前からは、体は人間で足は馬のような怪物が近づいてくる。
仲間もほとんどが重症。
ろくに動けるのは俺とエドワードくらいだ。
そのエドワードも、今すぐにでも死んでしまいそうだ。
俺に〝逃げろ〟と言いながら、何度もあの怪物に立ち向かっている。
でも俺は逃げない。
そして助けもしない。
ああ……だめだ。
俺がこんな無駄なこと考えてる間にも、エドワードは殺されてしまう。
どうすりゃいいんだよ……!?
「………あぁ!?」
エドワードはキレ気味に叫んだ。
理由は明白だ。
俺が無意識にも、エドワード目掛けて火槍を放ったからだ。
しかしエドワードはそれを避けた。
そして火槍は、奥にいた怪物へと突き刺さる。
「なにぃ!?」
そう、刺さったのだ。
エドワードのどんな攻撃にも耐える奴の体を、俺の低級魔術で刺せてしまった。
「……弱点を見破るとは、とんだ腰抜けではないようだな」
喋った!?
それにあいつ今、弱点って言ったな。
試してみよう……
「アンドリュー!一旦下がるぞ!」
俺は頷き、最速で出せる火球を発射した。
「やっぱりか!」
予想通り、怪物は後ろへ下がって回避する。
さっきまでのやつなら、そのまま直行してきたはず。
ようするに奴の弱点は……火だ!
「さっきはマジで助かったぜ」
エドワードは冷や汗だらだらでそう言った。
死んでてもおかしくない激突をしてたからな、そうなるわ。
「それと……奴の正体を掴んだかもしれねえ」
「早く言え!!」
俺は焦っていた。
奴との距離は、数10メートルとない。
今にも追いつかれそうな勢いだったからだ。
「なんだよもう……焦りは禁物だぜ?」
「いいから早く言えっての、デブ!!」
焦りのあまり、思ってもいないことを言ってしまった。
でも冗談抜きにやばいんだって!
「しょうがねえな……奴は《黒馬》と呼ばれている害獣だ。戦記によれば、闘気をつかった体術をメインとした戦い方をするそうだ」
「じゃあ魔術を使ってくることはないのか?」
「多分な!」
黒馬は一瞬にして距離を詰めると、俺へ拳を振り上げる。
瞬間、エドワードが間に入り、攻撃を防いだ。
「………っ!?」
気づくと俺は、後方へ大きく飛ばされていた。
「バケモンが……!!」
防いだはずの攻撃は、後ろにいた俺にまで届いていた。
それほどの威力の衝撃。
そしてそれを直に受けたエドワードは……
「痛っ………」
剣を握っている右腕は大きく腫れており、刀身部分にはヒビが入っていた。
「さっきまでは手を抜いてたな……」
「悪いな、まさか火の器がおるとは想定外だったのだ。遊びのつもりだったが、本気で殺しに行く」
火の器………?
俺の少しの思考は、一瞬の隙を生んだ。
それは奴にとっては、間合いを詰めるのに十分な時間だった。
「なっ!?」
エドワードを無視し、奴は俺目掛けて飛んできた。
距離にして1メートル。
………殺される!?
「死ね」
奴の拳が、俺の顔を触れるその時。
それよりも速く、別の何かが、俺の前を通った。
「あ………あぁ……」
そこには、見覚えのある人間が立っていた。
筋肉質の体で、大剣を握る強面のおっさん。
「悪い……遅くなったな」
俺の旅仲間〝ロイン〟の姿が、そこにはあった。