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冒険記録-世界を救う30年間-   作者: 鮭に合うのはやっぱ米
第4章 世界均衡
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第57話 癒神の薬瓶

 半年前の事。

 俺はラムード王国にて、大予言者リーナと出会った。


※第35話参照

 

「君が本当にやばい時、もしくは誰かを守りたいと強く願う時、まぁつまり色々とピンチな時、そんな時これを飲むといい」


 そう言って、リーナは俺に瓶を渡してきた。


「これは……?」

「聞いて驚け、これは「癒神ゆしんの薬瓶」だ」


「癒神……?」


 癒神……聞き覚えのない名だった。

 まぁ「神」とつくからには、相当の者なのだろうが。


「質問ばかりだな……まあいいか。癒神とは、名の通り治癒ができる。ただそれは、他の「神」とつく者とは違って、癒神は「生物」ではない」

「生物じゃない?」


 生きていない、つまり死んでる……

 いや、この言い方だと、それ以前の話になってくるのかも

しれない。 

 存在すらしていない、言うならば……


「そう、「物体」だ」

「……物体が、神と呼ばれているのか」


「あぁ、現代の人間達なら、そうは呼ばなかっただろうな。癒神は、遥か昔から存在する物体だ。それも、他の「神」よりも昔からな」


 最初の神……原初の神。

 なんかかっこいいな。


「癒神は元々は、国一つと同じだけの大きさがあった。触れただけでどんな病も治してしまうその物体は、遥か昔より人々に崇められていた。そうして彼らは、その物体をこう名付けた。「癒神」と」


 癒神エピソードは、これにて幕を閉じた。


「そんな凄い物体が、よく今まで残っていたな」

「言っても、残っていたのはこの程度だけ。一口あるかも分からない」


 本当に小さい、小瓶に入った「癒神」。

 これでも、飲めば傷が一瞬で治ったりするのだろうな。


「これの効能は、触れればその箇所を一瞬で治す。だが飲めば、一定時間自身の回復力や再生能力が爆発的に上昇する」

「具体的には、何分くらいなんだ?」


「正直細かくは分からないが、最低でも五十分はもつだろう」

「そりゃすげえ……」


 中々良い物もらっちまったな。


「あ、ずっと持っとくのは面倒だろうから……ほら、これに入れといてあげる」


 そう言って手渡されたのは、「魔剣」だった。

 そう、俺の魔剣は、彼女が買った物だったのだ。


「この中に隠したから。あ、開ける時は、君が全力で魔力を流し込めば開くと思うよ」


 そしてこの、謎な開け方にしたのも彼女であった。



 ……と、まあ。そんなこんなでこうなったわけだ。

 俺は回想を終え、現在に戻ってきた。


 後ろには、倒れた女騎士団長と副団長、そしてポカーンと棒立ちのエドワードがいた。

 

「後で説明する」


 俺はそう言い放ち、象鳥に意識を向けた。


「な、何故だ!何故無傷でいられる!人間の分際で!」

「何でだろうな!」


 今から五十分間、俺は無敵である。

 はっきり言って、無属性魔術士の反則生命力に、魔族の血による再生能力の向上、そして五十分間の更なる上澄。

 負ける方がおかしいだろう。

 勝てない道理がない。

 ここで余裕をこける程度には、本当に余裕だ。

 

 今の俺は、本当に無敵である。

 そう、無双状態だった。


「手始めに……」


 「軽い」ジャブとして、まずは「天級魔術」を放ってやろう。

 ただ規模を天級並みにするんじゃない。

 威力を、破壊力を、火力を、天級並みにしてやる。

 

「くらえっ!」


 魔力を押し込めた、俺の最大最強の魔術だ。

 天級では測りきれないレベルの魔術かもしれんぞ。

 さぁ、受けてみよ!象鳥よ!

 

 俺は火の塊を、ぶち放った。

 

 バキューーーン!!!と風をきる轟音が鳴り響いたと思えば、すぐさまその音は変わり、「グチャリ」という生々しい効果音となった。


「あ……え……?」


 火の塊は、顔めがけて飛んでいくと、顔を溶かすように進んでいき、そのままお腹の中を通って行き、背中から出てきた。

 顔から背中に向かって、火の塊は貫通したんだ。


 貫通してできた大穴からは、大量の血が溢れ出ていた。

 

「あ……あ……」


 何を怖気付いてんだ俺。

 生き物を殺すってのは、こういう事だろ。

 

 どれだけ悔やもうが、今回のは避けられなかった。

 攻撃に躊躇いとか、躊躇とか、そんなのはなかった。

 というか、できなかった。


 加減が、分からなかったんだ……


「おい、凄えじゃねえか!アンドリュー!」

「エドワード……」


 エドワードが駆け寄ってきた。

 一体、何が凄いのだろうか。


「アンドリュー、お前は凄えよ!英雄だ!」


 あぁ……かつての英雄達も、こんな感じだったのかな……

 

 何で俺は、こいつらを殺したんだ……

 俺は何もされていないのに……

 この生き物は、別に何かしてきたわけじゃないんだ。

 ただ、生きるために、この大陸に来た。

 

 そして俺達も、生き残るために、こいつらと今戦っている。

 だけどそれは、別に俺がしなくてもいいことだ……

 俺は、ルーナとグリムの無事が知れればそれで良かった。

 あのまま、後衛部隊に混ざっていれば、それで良かった。

 

 なのに俺はここまで来て、だから危険にさらされている。

 だから、こいつらを殺さなきゃならなくなっている。


 ……いや、俺はまず、自分が殺されそうになっても、相手を殺さないだろう。

 でも、友達や仲間や親友やメイドが殺されそうになった時には、俺は相手を躊躇なく殺せる。

 

 でも今回は違う。

 俺の友達は誰も殺されていない。


 ルーナもグリムも、後衛部隊で安全にいる。

 

 なのに……俺は……相手を殺している……


 道理が通ってない。

 これじゃ、無差別な殺人と何ら変わりない。


 あぁ、何考えてんだ、俺……

 もう、ダメかもしれないわ……


 シェリアのいないままを、受け入れようとしていた。

 だけどそれも、もう限界だ。

 精神的に、俺は疲れてきてる。

 ……もう、無理だ。



「ドンッ……ドンッ……」


 地面を踏み締める音がした。

 浅瀬の土を踏む音は、もっとペチャペチャしてるはずなのに、何故か今回は、ドンドンと固かった。


「おいおい……嘘だろ……もう……」


 エドワードの悲痛な声が聞こえた。

 そして、倒れた象鳥の体が動いていた。

 動くというよりかは、引きずるみたいで、地面に擦れまくっていた。


「……あ」


 見えた。

 象鳥の先端、何かがいるのに気がついた。

 「それ」は、象鳥を引っ張っりながら、こちらに近づいてきていた。


「黒い……人……」


 「それ」は、全身が黒く覆われた、人型の生物だった。

 

「紫象……赤鳥……お前達の無念は、俺が晴らしてやる」


 「それ」はそう言い、俺を強く睨みつけていた。

 そんな、俺に向けた悲痛な表情を見て、俺は胸が痛かった……




◇◇◇


 一方その頃、中衛部隊では……


「ふん、こんなものか。話にならんな」


 突如現れた鬼の王バランが、中隊を圧倒していた。

 

「化物めぇ……」


 そして、助けとして呼ばれて来た、グリム・ウィザードは、首を掴まれ動けずにいた。

 

 各状況は絶望的。

 絶望が重なり、地獄を生んでいた……




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