第55話 作戦決行
作戦はこうだ……
まず俺が、ある程度の火力のある魔術を、《紫象》の足へ連射する。
それで何とか隙を作って、三人が攻撃を加える。
それで徐々に徐々に削っていく作戦だ。
時間はかかるが、確実性は高い。
とまぁ、俺が放つ魔術は……
「《火槍》」
火球程度の魔力消費量に加え、上級並の破壊力をもったオリジナル魔術だ。
今思えば、あれからずっと愛用してるなこれ。
「やるな、オリジナルか」
「……ねぇ、一つ気になったのだけど」
エドワードは俺の魔術に驚いた。
そして副団長のクレア・ナイツは、何やら俺に尋ねてきた。
「それって、絶対に言わなきゃダメなものなの?」
「あ……それは……」
言わなくてもいい。
なのに言うのはただ……
ただ……カッコつけたかっただけだ。なんて、絶対に言えない。
「い、言った方がその……気合いとか出るじゃん!」
「あぁ、なるほど!確かに気合い出ますもんね!」
おぉ、馬鹿で助かる。
副団長は、それで納得していた。
ただ、エドワードだけはずっと、ニヤニヤと笑みを浮かべながらこっちを見ていた。
「……あれ?」
何だか紫象が、少しずつだけど、動いてきてる気がする。
俺の《火槍》の連射で、あいつは身動きがとれないはずなのに……
「なぁ、これって……」
俺が三人のいた場所へ振り向いた時には、既に全員が動き出していた。
「硬いな……」
最も早く動いていたエドワードは、間合いに入る前に、斬撃を放っていた。
騎士団長の放つ最速最強の斬撃を、紫象の皮膚は弾き返した。
しかし、斬撃が皮膚に着いた頃には、エドワードは既に間合いに入っていた。
「だったらこれはどうだ!!!」
騎士団長による、破壊力と速度をもった剣。
それはさっきとは違い、刀剣を直にあてる一撃である。
斬撃など、比べものにならないその威力。
それを受けた紫象の足は、横一直線に切れ落ちた。
「よっし!」
四本足とはいえ、その内の一本を失えば、バランスをとる
のは難しいだろう。
更には……
「こっちもよっ!」
騎士団長マリー・シンドルも、その頃には間合いに入っていた。
剣技とは腕力、知力、速度の三つが合って成るもの。
そしてこの内の知力とは、相手のどこを攻撃すれば最も効果的かを知る力の事である。
どこが弱点なのか、それは生物によって様々である。
ただ、騎士団長クラスとなれば、それくらいは容易く知っていた。
象の足のどこが弱点なのか。
肉を断つ剣の道筋はどこなのか。
それを、マリー・シンドルは知っていた。
それを利用すれば、たとえ腕力の低い彼女でも、肉を一太刀で断する事は簡単だった。
そして、最適な剣の道筋を見つけ、彼女は剣を振った。
『どんっ……』
速度も腕力もない彼女の剣が、紫象の足を断った。
「ぎゅおおおおおおおおおお!!!」
前足を二つとも失った紫象は、そのまま前へと倒れた。
「……やったか?」
あれじゃもう立てないだろう。
俺達は勝ったんだ。
この戦いに、終止符が打たれた……
「バカ野郎、まだだ!!!」
エドワードがそう叫んだ。
「まだ」
その意味は、目の前にあった。
落ちたはずの紫象の足が、まるで磁石のように、紫象の体にくっついた。
そして……
「コイツもか!!!」
一度、エドワードによって射抜かれたはずの《赤鳥》すらも、紫象の体にくっついた。
そして、全てがくっついたその生き物は、ぐちゃりぐちゃりと混ざり合い、一つの完全な生物へと進化した。
「舐めるなよ……人間共……」
その声は、他の三人から発せられたものではなかった。
声の正体は、今、この場を支配している合体生物に他ならなかった。
「我らは《害獣》、万雷象鳥であるぞ」
そう言い放つ合体生物。
象の足と巨体、それから鳥の羽を合わせもつ、最強の生物が今、誕生した。