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冒険記録-世界を救う30年間-   作者: 鮭に合うのはやっぱ米
第3章 三人旅 : 中央大陸編
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第52話 手紙・アンドリューより

 王者血戦コロシアムの申し込みを済ませた二人と合流した俺は、宿屋で一夜を過ごす事にした。


 そして俺達は、小汚い宿部屋で、予定を再確認するのだった。

 

「確か一週間後だったよな、王者血戦コロシアム

「うん、応援頼むぞ」


 応援とは言っても、王者血戦コロシアムの予選すら、突破できるか危ういだろうに。

 予選落ちの奴にするのは、応援じゃなく慰めだろ。


 まぁ、これじゃすぐに国を出る事になりそうだ。


「私も応援……しててね!」

「あぁ、もちろん」


 応援して何かが変わるかはさておき、俺は応援をする約束をした。


 そして気ままに時間を過ごし、俺達は就寝した。




◇◇◇


 俺は皆が寝たのを確認した後、こっそりとメモ帳を取り出した。

 今の内に状況を整理し、記しておきたかったんだ。


「まずは……」


 ……エドワードの事だ。

 奴のセリフが正しいとすれば、奴の正体は『別の世界の俺』という事になる。

 そして奴の世界で起こる出来事とこの世界で起こる出来事は似ているそうだ。

 それはつまり、これから起こる事も予想できるという事だ。

 そしてあいつは、そんな最悪な未来を止めるために来たという事だ。

 

「……もう一つ気になるな」


 あの偽エドワードは、謎の魔術で俺に記憶を流してきた。

 そしてそれはおそらく、偽エドワードの記憶の一部だ。

 そのおかげと言うべきか、俺には剣術が身についていた。


 そしてあいつは、カーナ・シーベルトに対する俺達の記憶をも操作していた。

 故に、カーナが来ていない事に違和感を持っていなかった。


「そして最後は……」


 ルーナとグリムの記憶だ。

 俺は二人に、偽エドワードの失踪の言い訳を何度か言ってみたが、あまり関心がなさそうだった。

 そしてその後、カーナ・シーベルトの話もしたが、それにも関心がなかった。

 おそらく、二人は偽エドワードの事もカーナ・シーベルトの事も覚えていないんだ。

 理屈は分からんが、多分、偽エドワードが消えた事で、奴に記憶を操作されていた『カーナ・シーベルトの事』も消えてしまったのではないかと思う。

 これは憶測だから、正直分からん。

 

 ……そしてここからの言葉は、別に見る必要はないから見なくていい。

 言葉に出して言うのは恥ずかしから、ここに書き記しておく。


 俺の仲間は、ロインとシェリア。

 俺のメイドは、シェリア。

 俺の親友は、ロイン。


 …… そして、俺の友達は、グリム、ルーナ、カーナの三人だ……


 あいつらが俺をどう思ってくれてようが、俺はあいつらを、友達だと思っている。

 一年以上の短い付き合いだったけど、あいつらは俺の心の穴を埋めてくれた。

 本当に、嬉しかったんだ。

 だから、未来の俺に言う。

 絶対に、あいつらを失うなよ。

 二度と死なせるなよ。

 お前が、守り抜け。

 絶対に、絶対にだ。

 

                アンドリューより

 




◇◇◇


 あの一夜から、一週間が経過した。

 そして遂に、王者血戦コロシアムが始まった。


「頑張れよ、グリム!」

「任せろ!」


 早速、グリムの予選一回戦目が始まろうとしていた。

 試合場の中央に立ち、見合っているグリムとその相手。

 二人の間はまるで、バチバチと雷が迸っているかのような空気であった。

 武器も魔術も何でもありのガチ試合が、今始まる。


「……始めッ!!!」


 審判の雄叫びと共に、試合が始まった。


 グリムの相手は剣士。

 相手は猪突猛進な行動ばかりで、グリムは守りに徹する事となっていた。


「隙を見つけろ!」


 そう俺は叫んだ。

 応援とは言っても、アドバイスも大事だからな。


 相手の剣は大振りなものばかりで遅く、避けやすそうではあったが、もし受けてしまったら、一撃必殺にもなりかねない大ダメージとなるだろう。

 それを考慮してか、グリムは着実に、確実に、相手の攻撃を避けていた。

 あれなら、攻撃を受ける事は滅多にないだろう。


 ……でも。


「はぁっ…… お前、何で攻撃してこない!!!」


 そうだ。

 魔術なら、放ったところで隙なんてできない。

 それに、守りに徹しながらでも、放つ事はできる。

 なのに何で攻撃をしない……?


「何で!」


 俺は叫んだ。

 だがこの叫びは、攻撃しない事に対しての叫びじゃない。

 攻撃を避ける際、無駄にジャンプして避けた事で、隙を作ってしまったグリムへの叫びだ。 


「はっ!そこだ!」


 グリムの隙を見逃さなかった相手は、そこへ剣を振り下ろした。


「グリム!」


 終わったと、そう思った。

 だが全部、騙されていた。

 

 観客も、俺も、シエルも、そして……相手さえも。


『パキィッ!!』


 剣の破片が飛び散った。

 見ると、振り下ろされたはずの剣が、グリムの頭上で止まっていた。

 一体、何が起きたのかというと……


「拳で……剣身を砕きやがった」


 そう、グリムは剣身を握り、そして握力で粉々に砕いたんだ。

 

「あいつ……あんな怪力あったのかよ……」

「いや、流石に魔術の類でしょ」


 横で見ていたルーナにそうツッコまれた。


「魔力が拳に集中してる。魔力で拳を覆って、鎧代わりにしてるんだよ」


 魔術操作に長けた、無属性魔術士だからこそ可能な芸当だろう。

 

「くそぉ……参り…ました……」

「勝者、グリム・ウィザード!!!」


 その瞬間、うおぉぉぉぉぉぉ!!!と歓声が広がった。

 案外圧勝だったな。


「おめでと、グリム」

「おめでとう、グリム!」


「ありがとう、二人共」


 グリムは勝ったし、後はルーナだな。

 ちなみにルーナの試合は、明日だ。

 人数があまりに多かったことで、二日かけて一回戦を行う事になったみたいだ。

 明日が楽しみだぜ。




◇◇◇


「ごめん、試合参加者は宿がもう決まってるみたいなんだ」


 どうやら二人は、参加者として特別な宿が用意されているらしい。

 つまり、今夜は俺一人というわけだ。


「気にすんなよ。それとルーナ、明日は頑張れよ」

「え!?う、うん!!!頑張る!!!」


 こうして、俺達は別れる事になった。


 そして俺はいつも通り、同じ宿を使って、就寝した。


 案外試合の観戦が楽しかったもんで、俺は楽しみですぐ眠ってしまった。こういう時は普通眠れないんだろうけど。

 そして、あっという間に朝になっていた。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ!」


 俺は走って、二人のいる宿へと向かった。


 宿は、観戦者がもらえる認証書を見せれば、中へと入れさせてもらえた。


 聞いた感じ、二人の部屋番号は566。

 つまり、五階の部屋だ。


 階段を駆け上がり、俺は五階に辿り着いた。


 そして再び走り出し、俺は566の部屋番号を見つけた。


「……ここか!」


 少しでも早く二人に会いたかった俺は、ドアを無理矢理こじ開けた。


「おはよう!諸君!」


 そうバカデカい声で叫んだが、返事は返ってこなかった。

 ……まだ寝てんのか?

 しゃあない、起こすとするか。


 俺は靴を脱ぎ捨て、部屋へと入った。


「……は?」


 周りを見渡しても、そこにあったのは散らかったベッドと二人の荷物だけだった。

 

 二人が、いなかった。



 


 

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