第50話 破壊の国アーストロン
朝になった。
俺達は、次の行き先へと旅立とうとしていた。
「気をつけていけよ」
宿主のおっさんはそう言い、見送ってくれた。
「おっさんもな」
俺達はそう返して、宿を去った。
◇◇◇
「次の目的地は〝破壊の国アーストロン〟だね」
破壊の国アーストロン。
喧嘩の最盛地として知られるこの国では、世界最強を決める王者血戦が毎年行われているらしい。
ちなみに、騎士団の見習い学校にもあった剣魔闘祭は、これをモチーフにして作られたそうだ。
「しかもこの王者血戦、開催日が一週間後なんだよ」
嫌な予感がする………
「まさかお前、出る気か?」
「あたり前だろ!」
やっぱりか……
「アンドリューも出るだろ?」
「絶対無理」
俺はグリムの提案を完全否定しておいた。
面倒ごとはごめんだ。
それに、この王者血戦は剣魔闘祭とは比べものにならない程の猛者が募る。
勝てる見込みはゼロだ。
「そんな負け確の戦いに出るのはよっぽどの馬鹿だけだろ」
そう言うとグリムが睨んできた。
なんかすまん。
「私も……出てみたいかも」
ルーナは賛同してきた。
「やけにやる気だな。どうした?」
「理由………は、ないんだけど。えっと……あ、そう!力試しがしたいの!」
理由ないんじゃないのかよ……
「へー、まぁ二人が出るなら俺は観戦で応援してるよ」
「あぁ、頼むぞ応援!!」
ということで、俺は応援を任されることとなった。
◇破壊の国アーストロン◇
「ここが破壊の国、アーストロンか!」
「モサッとしてて、まさに猛者が集う場所って感じね!」
アーストロンに着いた俺達だったが、ここにくるまでは色々と大変だった。
あの離島事件の影響か、行く先々で、やけに強い魔物や魔獣に出くわすことが多かった。
そのせいで大分体力を消耗した。
「とりあえず、一休みしたいな」
「僕は王者血戦の参加申し込みをしておくよ」
「あ、じゃあ私もそれやっておくわ」
俺達は集合場所と時間を決め、それぞれ別々に行動をすることにした。
◇食べ歩き
俺はこの国の名前を聞いた時、荒々しい雰囲気の国だと思った。
だが、入った途端そんな考えは吹き飛んだ。
「うわぁぁぁーーー!!すっげぇぇぇ!」
あたり一面に広がるのは、香ばしい匂いを撒き散らせる店の数々。
そして一番に目に入ったのは───
「………たこ焼きだ」
匂いだけで分かった。
この生地とタコを合わせたような、完璧なバリエーションの匂いは、こいつしかいない。
俺の大好物のたこ焼きしかいない!
瞬間、俺は獣の如く走り出した。
誰よりも速く、鋭く、細かく、最高速度で走った。
それは音速をも、光速をも超越した速度での走りとなった。
そして───
「おっちゃん!たこ焼き八個入り五つください!」
「は……八個入り五つ?坊主、間違えじゃねえな?」
「うん、それで合ってる!」
まずは小手調べに四十個。
まぁまぁだな。
「はいよ。毎度あり」
「ありがとう!」
俺はたこ焼きを受け取ると、またすぐに走り出した。
目指すは最短距離。
最速を維持かつ、最短距離にある食事場所を確保する必要がある。
もっとだ、もっと加速しろ!
限界を越えるんだ!
『今ここで限界を超えろ。それしか道はねえ』
誰かが言っていたような気がする!!
行ける!行ける!
俺はあまりのスピードに、体に風を纏っていた。
そしてその風を纏ったまま、俺は食事場所へと直進していた。
そんな中、食事場所で優雅に食事を楽しむ二人の男性はこう会話をしていた。
「ん?なんか来てね?」
「大丈夫大丈夫。さすがに止まるだろ。でなきゃ頭おかしいって」
「だよな。………でもさ、なんか止まらなくね?」
「んなわ
バコーーンンン!!!!??
勢いよく食事場所へと突撃した俺の体は吹っ飛んだ。
そして優雅に食事を楽しんでいた哀れな男性二人も共に吹っ飛んだ。
まぁ運が悪かったんだ。ドンマイ。
「ふざけんな!どうしてくれんだよこ…いででででで!!」
俺は突っかかってきた男性一人の腕を掴み、そのままダメな方向へ捻じ曲げた。
「悪いのはどっちだ?俺か、お前か?」
俺です。
「いででで!お、俺!俺が悪いででで!悪かったでででで!」
悪いのは完全に俺だが、まぁあれくらい許す器はもってなきゃダメだからな。俺はその教訓をしてやっただけだ。
「次からは気をつけるように」
さすがにやりすぎたな。
完全にクズじゃんか俺。
とは思いつつも、俺はその後も呑気にたこ焼きを食べるのであった。