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冒険記録-世界を救う30年間-   作者: 鮭に合うのはやっぱ米
第3章 三人旅 : 中央大陸編
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第48話 変化

 その夜、サーバック王国を抜け出し俺達は、近くの宿屋に泊まることになった。

 エドワードの事は、詳しくは言ってないが『いなくなった』とだけ言っておいた。


 ただ、あれからエドワードが俺を勝手に動かしたり喋り出したりすることはなかった。




◇世界均衡


 この宿屋のベッドは感触が良く、枕もフカフカで最高だ。

 個人的にはイチオシだった。

 一人レビューをすませた俺は、ベッドに飛び込んで横になってみる。


「………………」


 俺が牢に閉じ込められていた三日間で、世界に大きな動きがあったみたいだ。

 離島。この大陸全土から隔たれた、もう一つの大陸。いわば島の事だ。

 例えば、俺達のいる北・中央・南のこの三つの大陸を一つの島とするなら、その島とは離れた場所にあるもう一つの島みたいなものだ。

 その島には、駆除しきれない数の凶暴な魔物が住んでいるらしく、大多数の魔術士による強力な結界が貼られているようだ。

 そして近頃その結界が破られたらしく、結界を張り直す必要があるみたいだ。

 まぁ、いつもの聖天騎士団がやってくれるんだろうけども。

 そうやって他人頼みな考えに至っていた時だった。


「ガギィィィィ!」


 宿の外から奇声が聞こえてきた。

 俺は急いで一階へと降りていく。

 

「化け物だーーー!?」


 宿主が悲鳴をあげて倒れ込んでいた。


「今助けますッ!」


 部屋から出てきたルーナが、宿主を助けようといち早く動いた。

 グリムと俺もそれについて行く。


「何……これ……」


 一足先についたルーナが、そんなことを呟いた。


「どうした!」


 グリムと俺も追いつき、状況を知った。


「異形な奴だな……魔物とはまた違う別種か」


 俺達が目にしたそいつは、六本のタコのような吸盤を持った足と人間のような体格と腕を二本持った大男。いや、合成生物キメラとでも言うべきだろうか。


風撃ブレイズロウ!」


 グリムが風上級魔術を放った。

 そしてそれは見事、奴に命中した。


「よしっ!」


 喜ぶグリムだったが、砂煙の中に影が見えた。

 

「まだだ!!」


 俺はそう叫んだ。

 勝利を確信していた二人は砂煙の中を見ることはなかったが、見ていた俺には見えた。奴のあの影が。


「えっ?」


 訳が分からず、ポカンとした様子でグリムが言うと。


 ビュンッ!!?


 砂煙の中から、あのタコ足がとてつもない速度で出てきた。

 先端を硬直させて、針のように鋭くなったタコ足を高速で突き出す。

 俺達は瞬間、全員が同じ方向に視線を移した。

 タコ足が伸びた先。


「………あ…え?」


 タコ足は、ルーナの横腹を掠れていた。

 ただ掠れたんじゃない。

 うねるタコ足は、横腹を何箇所も突き刺しながら唸っていた。

 掠れた箇所と突き刺された多数の箇所。

 その一撃はあまりにも大きく、ルーナの横腹からは血がドロドロと流れていた。


「うぁっ…痛ッ……いやッ……!」


 ルーナは必死に魔術を放とうとした。


「《集いて広……」


 しかしそれは、詠唱の途中で再び飛んできたタコ足によって遮られた。

 

「あぁ………!」


 ルーナが悲痛の叫びをあげるが、声は掠れて今にも泣きそうだった。

 

 ピシャッ!


 血が飛び散った。

 しかしそれは赤色ではなく、紫色の毒々しいものだった。


 ポトッ。


 そんな音がし、タコ足が落ちた。

 いや、切れた。


「危なっ………」


 そう言ったのは俺だ。

 間一髪でタコ足を切断したんだ。

 砂煙が消えたおかげで、今の攻撃は見えた。


「アンドリュー、お前いつの間に剣なんて!?」

「まぁ、ちょっとあってな」


 俺はそう流しておいた。

 あの〝偽エドワード〟との件があって以来俺は魔術操作が格段に上がった。そしてそれは剣術にもいえた。

 買ったんだし一応触っておくか、と思ってとり出したあの〝魔剣〟。買ったのは確かラムード王国でだ。

※35話予言者と…参照。


 そして久々に触ってみたらあら不思議、自然と技でも出せそうな気がしてくる。

 そして思いのままに振ってみると、なんか上手くいった。


「烈・飛斬」


 中級の剣士から使うことが可能な、飛ぶ斬撃。

 飛斬は怪物に直撃したが、擦り傷程度で終わった。


「まじかよ!」

「だったら………」


 驚いているグリムを後に、俺は更に一撃を加える。


「閃・飛斬」


 中級である〝烈〟系統の上位互換である〝閃〟系統の技。

 上級剣士から使うことが可能とされるこれは、名の通り閃光の如き速度での攻撃となる。

 速度が上がれば、その分攻撃の破壊力も増す。


「ぎがががががぎゃゃゃゃー!」


 怪物は悲鳴をあげた。

 俺の放った、飛斬は怪物の体を半分に切り落とした。

 これでさすがに死んだだろう。


「すげえよアンドリュー!」

「だろ〜」


 俺は少し調子に乗ってみた。


「うん……本当に凄かった。………ありがとう」

「え………おぅ。ど、どういたしまして」


 そんなに感謝されるとは思わなかったな。

 ルーナの腹の怪我は、倒した時にはもう完全に回復していた。

 治癒魔術も使えたのか。


「すげえなあんたら。もしかしてあんたらも、あの害獣防衛戦に参加する気かい?」


 後ろで見ていた宿主にそう言われたが、俺達にそんな予定はなかった。


「害獣防衛戦?何だそりゃ?」

「何だ、知らねえのかい。最近離島から魔獣が溢れ出してきているんだが、魔獣の中に三体やべえ強さのがいるらしいんだ。んで、そいつらを大陸に上陸させないために防衛しようってのを騎士団で始めたらしくて、それの参加者を集ってるんだよ」


 長々とそう説明された。

 離島の事は、前に二人から聞いたけど、そんなやばい状況にあったとはな。


「へー、やばいですねそれは」

 

 参加する気はないけどな。


「何じゃ、ないのかい。つまらんな〜」


 宿主は無責任にそう言った。

 だったらお前が行けやクソジジイ。


 そうして難を乗り越えた俺達は、次の行き先を決めるまで、もう一休みこの宿でしていく事にした。






◇◇◇


 そうして、二度目の夜が訪れた。

 俺達は疲れをとろうと、すぐにベッドについた。

 

「ガーガーガーガー」


 グリムは意外にも、寝言がうるさい。そして寝相が悪い。


「これじゃ寝れないな……」


 俺は少し外の空気を吸いたくなり、一人で外に出ることにした。

 

「スーーーーーーーハーーーーーー」


 息を吸って、吐く。それを二度ほど繰り返した。

 そして俺は尻をついて座り、夜空を眺めた。


「……………」


 俺は何がしたいのだろうか。

 シェリアはもういない。

 唯一残ったロインもどこにいるのか分からない。

 おまけに未来の自分とか言ってくる野郎に会って色々と言われる始末………


「………これからどうすっかな」


 そう言って、俺は深くため息をこぼした。

 

「どうしたの?珍しくため息なんか出しちゃって」


 そう後ろから声が聞こえた。

 ゆったりと歩きながらこちらへ近づいてくる彼女は、ルーナだった。


「色々とな………」

「そればっかりじゃん!」


 ルーナは俺に指摘をしてくる。

 ダメかよ。いちいちうるさいな。

 そしてルーナは、俺の隣に座ってきた。


「………何か悩みがあるんでしょ?」

「ねぇよ」

「本当に?」

「あぁ」


 俺はそんな問いを冷たくあしらう。

 

「………どうして話してくれないの?」

「は?何で俺がお前に話さなきゃいけないんだよ」

「あ、そう言うって事はやっぱり何かあるんじゃない!」


 面倒くさいな。

 さっさと寝ろよこいつ。


「あぁ、あるよ。悩みくらい誰だってあるだろ」

「そうだね。確かにあるね………私にも」

「お前の悩みって何だよ?」

「それは………アンドリューには言えないよ」

「お前も言わないのかよ」


 アホくさ。

 これならあの寝言の中で我慢している方がよっぽどマシだ。


「言わないんじゃない、言えないの!」

「何でだよ………」

「それは………」


 そう言うと、ルーナの顔が急に真っ赤に染まった。

 

「………どうした?」


 さっきから変だぞ?と俺は言った。


「何でもないッ!」


 そう言うと、ルーナはそっぽを向いて宿に戻って行った。


「………どう見ても変だろ」


 ルーナの奇怪な行動のおかげで、俺の悩みは少し薄れたような気がした。

 

 



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