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冒険記録-世界を救う30年間-   作者: 鮭に合うのはやっぱ米
第3章 三人旅 : 中央大陸編
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第47話 和解と崩壊

 やっとの想いで、監獄の出口まで辿り着いた。

 そこには倒れた数十人の兵士と、そいつらを見下ろしながら立つエドワードの姿があった。


「エドワード!これは違うんだ!」

「分かってるよ」


 それは、全て見透かしてるとでも言っているようだった。

 何でだろう。


「そ、そっか。じゃあ………」

「いや、まだだ」


 エドワードが言葉を遮ってきた。

 

「まずは、お前らの記憶を戻す方が先だ」

「は?」


 混乱する俺を後に、エドワードは片手を上空に向けて上げ、叫んだ。


「《再術リストア》」


 瞬間、俺の脳裏に様々な出来事が浮かび上がった。


「思い出したか?」

「……………何で?」


 俺が思い出したのは、カーナに関する記憶だった。

 俺はさっきまで、カーナに関する一切を忘れていた。


「………お前がやったんだな?」

「あぁ、そうだ」

「ッ………!?」


 俺はエドワードに殴りかかった。

 だが俺の拳は、エドワードに届く事なく軽く止められた。


「離せッ!」

「それは無理な相談だ。お前にはまだしなければならない事がある」


 そう言ってエドワードは、再び《再術リストア》と唱えた。


「はぁっ!?」


 俺は驚いて声をあげた。

 エドワードの顔が、みるみるうちに別人へと変わっていったからだ。

 騎士団長と讃えられていた男のあの風格とは大違いに、よぼよぼの老人の姿へと。


「お前は………何者なんだ?」

「俺の名は、安藤流あんどうりゅう

「アンドゥ………リユウ?」


 なんて下手くそな発音なんだよ。

 分かりにくいんだよ。


「あぁすまんな、こっちの世界でだな」

「こっちの世界?」

「口が滑ったな………まぁいい、俺の名は─────」


 男の名は、俺を驚かせた。

 そして同時に俺は、かつて一度、いや二度見た不思議な夢。それを思い出した。

 その夢の中の男もまた、言っていたな。

 確か名前は……………


「─────アンドリュー。五十年後のお前だ」

「………………………」


 俺は理解が追いついていなかった。

 五十年後の俺が何で目の前にいるのか、そもそもそれが本当に真実なのか、俺には分からない事だらけだったからだ。 


「異世界に転生された俺は、数十年の時を経て、並行世界であるこの世界に侵入したのだ」

「並行世界?異世界?何を言ってんだよ!」

「分からなくていい。ただバレた以上、俺の存在はこの世界から消されるだろう。だからその前に……………」


 アンドリューと名乗る男が、俺の頭を掴んできた。

 なんて握力だよ、離れねぇ!


「《再術リストア》」


 瞬間、俺の脳裏に存在しないはずの記憶が流れた。

 

「お前に必要なのは、魔術と剣術と体術の知識。それだけで十分だろう」


 そんな記憶を吹き飛ばすようにして、またまた別の記憶が流れ込んできた。

 何度も剣を振る自分の姿。

 何度も魔術を放つ自分の姿。

 何度も岩に拳を叩きつける自分の姿。

 まるで何十年にも渡る出来事のようであった。

 なのにそれは、ほんの数秒で止まった。


「はぁ……はぁ………はぁ…」


 俺は息を整えていた。

 そして………


「はぁ………おい、説明しろ!何をした!」


 膝をついて息を荒く吐く俺を見下ろしたまま、エドワードは話した。


「事は十年前、俺はこの世界に侵入した。その目的は、〝この世界の《メイド》《友》《恋人》にあたる者を、次の魔神討伐まで生還させること〟だ」


「メイド、友、恋人にあたる者って一体………というか何のためにそんなこと?」


「俺は異世界………お前とは別の世界で、その三つの役者を死なせた。守れなかった。そしてこの世界はその並行世界。

俺の大切に思う者達………《メイド》《友》《恋人》にあたる者達が死ぬ運命にある。だからそれを回避させるために、俺はここにきた」


 コイツの仲間を助けるためにここにきたのか。

 でも………


「シェリアは死んだぞ」

「黙れ」


「何が黙れだ、守れてねぇって言ってんだよ。その話だと、シェリアが死んだのは全部お前のせいじゃねえか!」

「黙れ」


「そうやって現実から逃げてんだろ!お前なんかがいなけりゃ、シェリアはまだ生きていたんだ!」

「………そうだ」

「………認めんなよ、クソが」


 まだ俺も、シェリアの死に実感が湧かないんだ。

 あんなに笑顔で優しくて一緒にいると楽しくて、そんなあいつがもういないなんて、そんなの………


「………俺はアイツを助けるために、まず最も危険とされている南の大陸に警備をつけた。それが、大陸王だ」


 俺とシェリアとロインが南の大陸を訪れた時、A級の魔物に出会った。※10話参照

 そしてそこで大陸王が助けてくれたんだ。

 それは、コイツのおかげだったってことか………


「奴の実力は大陸王一だが、大陸中を周って治安を守るはずの大陸王が、俺の指示によってそれができなくなっていた。そのせいで、奴は動かない最弱の大陸王と呼ばれるようになったんだ」


 あの強さで最弱はおかしいと思ったんだ。

 やっぱりそういうことだったか。


「そして俺は次に、異世界でシェリアが殺された場所へ行った。そこはヒスフィア王国。お前も訪れた事があるだろ」

「あぁ」


 俺がロインやシェリアと共に冒険をした最後の国だ。

 ロインが剣を折って、作り直してもらったんだよな。

 そしてその後に……… ※12話参照


「異世界でも、ロインが剣を受け取りに行っている間、俺とシェリアで共に依頼をしに行ったんだ。そしてそこでシェリアは殺された」

「それで、シェリアを殺したのは誰だ?」


「《炎神》ニル・バーンだ。奴は上空から魔術を放ち、一撃でシェリアを燃やし尽くした。だから俺は、シェリアが殺された、いや、シェリアが立っていた場所に、転移魔法陣を設置した」


 あの時の、謎の魔力の反応はそれか!


「でも、それで転移したのは俺だ」

「あぁ、計算が狂った。まさかお前を守るために、転移魔法陣とは別の方向、お前の方へと走り出すとはな。そしてその勢いで、シェリアじゃなくお前が魔法陣を踏んでしまった。………クソ!お前と違ってアイツは不死身じゃないんだ!」


 怒りをあらわにし、地面を踏みつける。


「《友》なら、ロインも危ないんじゃ」


 俺は聞いてみた。

 シェリアのいない今、俺が一番求めているのはロインだ。

 アイツもいないなんて事になったら、俺はもう生きていけないだろう。


「それは大丈夫だ。アイツが異世界で死んだのは、更に数年後に起こる、魔物と人間による戦争によるものだ。だからそれまではアイツが死ぬことはない」

「話を聞くに、お前の言う異世界ってとこで死んだ《友》《メイド》《恋人》は、こっちの世界でも異世界で死んだのと同じ時間帯でしか死ねないってことでいいのか?」


「あぁ、そうだ」


 でも、それは逆に異世界で死んだのと同じ時間帯に〝必ず死ぬ〟という事なんじゃないのか?


「現にお前も見ただろう。カーナが鬼の王に腹を貫かれた時、あれは死んでもおかしくないような怪我だった。なのに奴は平然と生きていた。一瞬で回復してな」

「……………まさか」


「あの瞬間、もしくはそれ以前に、奴はお前の中で《友》と認められたんだ。だから奴はあの時、〝死ぬ〟という事象を塗り替えて生き返ったんだ」

「待ってくれ、だとすると《友》がロインとカーナの二人になる。この場合、どっちが死ぬ運命にあるんだ?」


「それは俺も分からん。ただ、行動によっては運命を捻じ曲げることも可能かもしれんがな。実際、俺もそれを信じて今こうしているんだ」

「なるほどな」


 言いたい事は理解した。

 でも聞きたい事はまだ山ほどあった。


「………それと、頼みがある。南の大陸にある聖天騎士団、そこに騎士団長を務めている、アリシアという女がいるはずだ。頼む、そいつとは何があっても関わらないでいてくれ。頼む」


 男は、深くお辞儀をしてきた。

 急にそんな礼儀正しくされてもねぇ………


「よく分からんけど、まぁ気をつけてみるわ」


 俺はそう軽く返事をした。


「で、お前の目的は結局、守れなかった人達をこの世界で守る事。でいいのか?」

「あぁ、その通りだ。………それと、また頼みなんだが」


 俺は今なら、何でも受け入れられる気がする。

 理解の追いつかないことだらけだからかもしれない。

 ロインが生きているとしれたからかもしれない。

 ルーナを久しぶりに思い出したからかもしれない。

 何が要因かはわからない。

 まぁでも、そんな事は知らなくてもいいよな。

 

 今が楽しければ、それでいい。


 俺は俺の楽しみの為に動く。それだけだ。


「俺の目的の為に………力を貸してくれないか?」

「勿論だ!」

「ありがとう……………」


 俺と男は、そうして手を握り合わせて握手をした。


「………契約成功」


 ポツリとそんな声が呟かれた気がした。


「痛ッ!」


 脳裏に、先程と似た痛みが走った。

 だがそれもすぐに消えた。


「何だったんだ?」


 ふと、痛みで膝をついてしまっていた俺は、そのままゆっくりと体を起こして前を見た。

 しかしそこに、さっきまでいた男の姿はなかった。

 ………いや、男は床に倒れ込んでいた。


「……………成功だ」


 そんな声がまた、聞こえた。

 

「誰だ!」


 俺はそう叫んだ。

 しかし、周りには何もなかった。

 あるとすれば、倒れた男の体だけ。


「俺だよ、俺」


 だから誰だよ!

 そう思い俺は、ふと自分の体が無意識に動いていることに気がついた。

 

「へ?」


 手がカタカタと震え出したかとおもうと、次はぴたりと止まった。


「チッ、調整が難しいな」


 謎の声はまた聞こえた。

 そして俺は、この声が俺が喋ると聞こえる事に気づき、俺は口を塞いだ。

 これで大丈………


「何がしたいんだ、お前?」


 何でまだ聞こえるんだよ!

 俺は、いい加減にしろ!と叫ぼうと口を開けた。

 しかし違和感があった。


 普通、ガッチリと意識的に閉じた口を開ける時は、粘膜のようなパッ!という音がするものだ。

 なのに今は、その音がしなかった。

 原因はハッキリしている。

 それは………


 口が、開いていたんだ。


 俺はまさかと思い、口に意識をあてる。


「気づいたか?」


 そんな声と共に動いたのは、俺の口だった。


「俺は俺の幸せの為に、お前を利用させてもらう」


 口が勝手に開き、そう言った。

 俺じゃない。俺じゃない。


「炎神を殺す為に、お前を利用する」

「何でこんなことをするんだよ!」


「理由なんてないさ。お前も同じだろ?」


 口は無意識に勝手に動き、こう言った。


「俺は俺の楽しみの為に動く。それだけだ」




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