第46話 目覚め【急】
◇ルナリアの行動
私はこの国に入ってまず、服屋に赴いていた。
中々にセンスのある服が多くて、たくさん買っちゃったわ。
その次に、武器屋に行ったわ。
まぁ私が見るものといったら杖くらいしかないのだけれどね。
杖はどちらかというと、前に訪れた『矛盾の里』の方が種類も豊富で良かったといえたわね。
それから、街中をひたすらに歩いていたら、急に声をかけられたの。
騎士団の人っぽい服装をしていたので少し驚いたけど、話を聞くとどうやら『弁護人』として来て欲しいそうなの。
そして私はついて行ったわ。
「大悪人!大犯罪!この国に起きた、たった一つの不幸の元凶である巨悪の根源!大罪人アンドリュー・サーバックの判決を、これより行う!」
そんなセリフを聞いたわ。
耳を疑ったけど、そんなのはすぐに消えた。
なぜならそこにいたのは、紛れもないアンドリュー本人だったのだから。
彼が王族だったことには驚いたけど、クーデターを起こした大悪人とは到底思えなかった。
だから私は、彼の無実を訴えたわ。
だけどアイツらは何も聞きやしなかった。
そうして当然のごとく死刑判決とされ、アンドリューに剣が振り下ろされたわ。
それをアンドリューは必死に抵抗した。
しかし最後は虚しくも捕まり、牢に送られた。
私はアンドリューが捕まった瞬間に、無理だと悟りみんなに助けを求めに行った。
時間はかかったけど、何とか二人を見つけだせた。
そして私達は、アンドリューが閉じ込められている牢屋に向かったわ。
牢屋についたはいいものの、騎士団には面会の機会すら与えないと言われたわ。
どうしようもなかったけど、エドワードさんが自力で牢屋の門番を薙ぎ倒して中は入って行ったわ。
私にはそんなことできなかった。だけどそれをやってくれたエドワードさんならきっと、アンドリューを助けてくれる。
私はそう願って、牢屋の門の前にて静かに待っていた。
◻︎▫︎アン どリャーサーバック
兵士を蹴散らしながら監獄の出口へと走る俺は急に止まった。
………いや、たった一人の男の手によって、強制的に止められたのだ。
「これより先には行かせん!」
放った魔術を避けるなんて、今倒して来た兵士の中には一人もいなかった。
ソイツは俺の魔術を軽々と叩き消し、尚且つ高速の斬撃まで飛ばして来た。
並の兵士には無理な芸当だろう。
副団長クラスか、あるいは……………
「黒龍騎士団団長、グライド・ワーツが相手をする」
兄のあの自信は、コイツの存在からか………
「どけよ」
「皆無!私はただ、邪なる愚か者に撤退を下すまでだ!」
変わった奴だな………
まあ何でもいいさ。
騎士団長だろうが何だろうが、変わらず返り討ちにしてやるまでだ。
「炎天………」
「ハッ!」
俺が魔術を発動するよりも速く、敵は斬撃を飛ばして来た。
そしてその斬撃を軽くかわす。
「あの聖天騎士団の団長をも凌ぐと言われた私の剣速。貴様程度では見切れまい!」
敵は徐々に距離を詰めてくる。
俺もバックで距離をとるが、それ以上のスピードで距離を詰められる。
「………ぐっ」
敵の剣が、俺の首元をかすった。
軽く血は吹き出たが、そこまでの損傷じゃない。
今一番まずいのは、コイツとの間合いのなさだ。
「ッ!」
途端、敵の感じが変わった。
間合いをあえてとりなおし、剣を構えなおした。
………くるか!
「《黒龍閃烈剣》」
ッ!!!
一瞬、目の前に漆黒の稲妻が走ったと思えば、次の瞬間俺の腕がとんでいた。
ドサッ………
腕が落ちた。
これで二度目か。
「雷魔術と剣術を複合させて作った、私だけの必殺技だ」
雷魔術で視界を目眩し、その隙に全力疾走で相手に攻撃をするという技みたいだな。
雷魔術でまるで高速移動をしたかのように見せるという一見ちんけな技だが、これは術者の単純な速力高くないと不可能な芸当だ。つまり、ちんけな技ってことだ。
「片腕になってもなお余裕の表情………つくづく気に入らんな」
敵が再び構えなおした。
さっきのをまたする気みたいだが………
「これで終わりだ!」
黒い稲妻が、目の前に走った。
「見切った」
俺はそう呟いた。
瞬間、ズシャッ!という血の噴き出る音がした。
だが俺に見える傷といえば、さっきやられた右腕の怪我くらいだった。
つまり、やられたのは俺ではなく………
「………貴様ッ!」
敵の方だった。
腹部に複数の穴ができた敵がそこにはいた。
とは言っても、全部予定通りなんだが。
「何をしたっ!」
「………これだよ」
俺は見せるようにして、敵に外傷を与えた魔術を浮かせてみせた。
「火の魔術……だがそんなものは見たことがない!まさかオリジナルか!」
「あぁ。『火槍』俺が作った魔術だ」
「それは見えた……だが何故当たったのだ!それくらいの物量の魔術など、簡単に避けれたはずだ!」
自分が当たったのはまぐれだ!とでも言いたいのか、敵は言い訳をごたごた並べてくる。
面倒だが、俺は説明してやった。
「お前のその『神速』を利用したんだよ」
「………どういうことだ?」
「俺はこの火槍を浮かさていた。それも、お前の放った稲妻で死角になる位置にな」
「だから目の前にくるまで気づかなかったのか………」
「でも、お前のスピードならあの距離下でも避けられただろう。だがさっきのお前は、最高速度で走っていた。そんな状態で、急に後ろへ飛ぶなんて無理だろう?」
「つまり………俺の自爆?」
「そういうことだ」
理解できない……といった表情で俯く敵。
自分のお気に入りの戦法が、一瞬にして無に帰したんだ。
これくらいなってもおかしくはないだろう。
別に相手を殺さずとも、相手を立ち退かす方法はある。
それが、『心を折ること』だ。
「自分より十歳は下の子供に負けた、哀れな汚豚。お前にトドメを刺す気はない」
「………やめろ、同情なんてやめろ!さっさとトドメをさせよ!」
同情なんてしてないし、トドメを刺す気もない。
ただただ俺は、お前の心を、ズタズタに、へし折りたいだけだ。
「トドメはささないって言っただろ」
俺はそのまま、敵の手放した剣へ赴き、そして………
バリンッ!
金属の割れる音と共に、敵の愛剣は無惨に踏み砕かれた。
「あ……あぁっ………」
そんな光景を、ただただ見ていることしかできずに倒れている敵は、最早ただの屍のようだった。
「じゃあな。孤独に寂しく折れていけ」
俺は去り際にそう言った。
敵の顔を見ることなく、ただの独り言のように、そう言った………