45話 真実
《天級魔術》
世界でも使用者が百人いるかいないかくらいの魔術。
使用者の魔力量と操作技術の両方が試される魔術でもある。
威力は、天候を変えてしまうほどと言われており、一軒家くらいなら軽く消し飛ばせる程の破壊力を持っている。
「……………」
そう、それが天級魔術。
そして火ともなれば、天候は変えらない代わりに他の四属性とは比較にならない規模の大魔術になる。
実用するのはこれが初めてだが………
「これであってるよな?」
俺が放ったそれは、まるで火球をそのまんま巨大化させたようなものだった。
単純な物量で言えば天級と言えるだろうが、火力や効率といった面を考えれば、これは別物なのだろう。
ただそれでも、コイツらをやるには充分すぎる一撃だった。
「ヒィッ!」
怯えた目で俺を見る兄。
そんなのにはいともかえさず、俺は兄に向かって手を向けた。
「や、やめろ!こ、こんな事して……騎士団が黙ってないぞ!」
「それがどうした。返り討ちにしてやるよ」
「………ハハ!何があってこんな強くなったのかは知らないが、幾らお前でも騎士団相手じゃ負けに行くようなものだ。死ぬぞ、お前!あのシェリア・サーバックのようにな!」
「……………は?」
瞬間、全身の力が抜けた。
体が動かなかった。
瞬き一つせずに、前傾のままで静止していた。
理解が追いつかなかった。
急な事すぎて、頭の整理が追いついていなかった。
俺は自分を落ち着かせ、もう一度問う。
そして覚悟した。どんな返事がこようと、動揺せずにいると。
「シェリアが………死んだ…………………?」
「………何だ、知らなかったのか?生きてるよ」
俺は安堵し、大きく息をすった。
涙が溢れ落ちそうだった。
そして大きくすった息を吐き出そうとした……………
「ハッハー!嘘だよ、ばーか!あいつは死んだよ、とっくにな!」
吐き出したのは息ではなく、嘔吐物だった。
溢れ出そうだった涙は、我慢なんてできるわけもなく、ただひたすらに俺は泣いた。
「うぅ……………………うぁ………ひっぐ………」
「お前のせいだ、お前のせいで死んだんだよ、アイツは!」
泣く俺を眺めてなお、兄は嘲笑い貶してくれる。
何でこうなったんだ。
何が起きてんだよ。
急すぎるだろそんなのよ。
ひでぇよ。
何で何で何で。
「俺まだアイツと………話したいこといっぱいあって……」
「知るかよそんなの、俺に喧嘩売ったのが馬鹿だったん……ぐへっ!」
俺は兄を殴っていた。
何度も何度も気が済むまで。
殴ったところで気が済むわけないのに。
ルーナが止めに入ったりもしたが、それも無理やり剥がして、また何度も何度も殴った。
それからどれくらいの時間が経っただろう。
気づいた時には、もう遅かった。
俺は薄暗い牢屋の中にいた。
審判場の破壊と王への暴行という二つの罪を背負わされ、大罪人として牢屋に入れられていた。
だけど、それでも尚、今頭に残るのは、牢屋に入れられた悔しさでもなく、兄を殺しきれなかったことへの虚しさでもなく、ただただシェリアが死んだということへの孤独感と喪失感の二つだけだった。
もう消えてなくなりたい。
アイツのいない世界なんて、俺は生きていてもつまらない。
アイツらがいてくれたから俺は………
「……………あ」
俺はその時、もう一人の人物の姿を思い出した。
三年近く会えていなかった、友達のことをだ。
茶髪をなびかせ、大剣を片手に魔物を狩るカッコよさと、オヤジのようなギャグを兼ね備えた面白い一面と、だけどその裏に見える、まるで兄貴のように頼りがいのある一面。
一緒に冒険を重ねていくうちに、親しくなり、時には喧嘩をし、時には協力し、時には笑い合って話した。
それがどれほど楽しかったか。
アイツならきっと、この俺のズッポリと空いた穴を埋めてくれる。
アイツに会いたい。
あってまた話をしたい。
会いたいよ………ロイン。
「………行かなきゃ」
俺は狭い檻の隙間を臆することなく通った。
皮膚が擦れ、ぶちぶちと音を立てながら血を吹き出していたが、俺はお構いなしに進んで行きあっという間に渡り終えた。
傷だらけの皮膚は、少しの時間で完治した。
檻を抜けた先の通路を走っていると、兵隊が待っていた。
「止まれ!アンドリュー・サーバック!」
「どけよ」
俺の放った火の槍が、兵隊を貫いた。
今日でこれで、四人の人間を殺してしまった。
俺は本当に、これでいいのだろうか?
「………………」
考えるのも、面倒くさいな。