第44話 身バレ
忘れかけていた。
俺が今、こうなっているのも。
冒険者となったのも。
「……………」
いや、冒険者になったことに後悔はしてない。
むしろこれは感謝するべきか。
だけど………
俺は更に古い記憶へと遡った。
生まれて、立てるようになって、話せるようになった頃だ。
………あれ?
こんなのあったっけ?
何がどうなっているのか、ついていけない。
ただひたすらに、頭の中に同じ出来事が繰り返し流れていく。
頭が痛い。壊れそうだった。
こんなの知らない。
忘れかけてたのに。
知らないって。
思い出せ。
だから知らないって。
まるで誰かと会話しているみたいに、頭の中にいるのは一人ではないようだった。
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
とんでもない激痛が頭に刺さる。
「ぁぁぁぁ………ッ!」
瞬間、俺の声はぷつりと止み、そして膝から崩れ落ちた………
「大丈夫か!どうした少年!」
「おい、坊主!坊主!」
………この瞬間、俺の意識は途切れた。
◇◇◇
俺は広い王室のような部屋で目を覚ました。
足は正座をさせられ、腕は紐のようなもので縛られていた。
「一体何が………?」
「これより、《大罪人》アンドリュー・サーバックの処刑を行う!」
「………はっ?」
耳を疑った。
一体どこでバレた?
へまはしていないはず。
何でだ。
「フゥ………」
俺は息を吐いて、一旦落ちついた。
………いや、そんなことを考えても意味がない。
今はとにかく、この状況をどうやって抜け出すかを考えるべきだ。
まずは………
「待ってください!」
それは俺の声じゃなかった。
声は俺の右方向から飛んできていた。
机に手を叩きつけて叫ぶそいつは………
「ルーナ!」
ルーナだった。
「彼が何をしたのかは知りませんが、そんな処刑だなんて大袈裟なことをされるような人ではないのは知っています!」
「いえ、彼は今から約五年程前。この国にクーデターをしかけ、王城並びに前国王である父親を殺しました」
「それは違う!やったのはお前だろ!」
俺は真犯人である兄へと、そう言い放つ。
それでも兄は冷や汗ひとつ出さずに、裁判官の真似ごとのようにこう言い放つ。
「被告人、アンドリュー・サーバックに判決を言い渡す!」
「待って!」
ルーナが何度も制止しようとしていた。
だが現実は非常にも、残酷な言葉を突きつけてきた。
「死刑」
兄がそう告げた途端、俺の左右で待機していた兵士らしき服装の男二人が、立ち上がって剣を構え出した。
「やれ」
「やめて!」
兄の残酷な言葉と、ルーナの制止する言葉が重なって聞こえた。
見ると兄は、嘲笑して俺を見ていた。
そんな勝ち誇った姿の兄を見て俺はこう思った。
「バカが」
そう呟くと同時に、俺の掌から二本の火槍が繰り出された。
弧を描きながら放たれる二本の火槍は、瞬く間に兵士二人の背中へと到達し、そして貫いた。
兵士二人が倒れ落ちていく中、貫通した槍はそのまま俺の掌へと戻ってき、そして腕に縛られた紐を掠めるように直進していった。
そうして紐が切れたことで開放された両腕を、俺は目の前に差し出して、こう言い放つ。
※※※
「火天《炎天渦》」
※火天級魔術の略