第43話 最悪の帰郷
◇聖天騎士団本部
「この手の件も、また増えましたねぇ………」
聖天騎士団の本部にして、主に《司令塔》と呼ばれる上位の者達だけが集められ、世の治安について話し合う会議。今はそれを行なっていた。
「不明なものが多いですね。『謎の巨大な焼け跡』に『どんな怪我もたちまち治ってしまう人』。今回は忙しそうですね……………」
そうやって《司令塔》達はらめんどくさ………と、軽口を叩き合いながら会議を進めていた。
そして既に、会議開始から数時間が経過していたが、解決の糸口は見つからなかった。
「やはり、最後はこれしなないですね」
会議の司会を務めている女性はそう言って、写真を見る。
「それが例の少年ですか」
「えぇ、噂では『高位火魔術士』と呼ばれ、恐れられているんだとか………」
「どの謎にも、必ず関連しているというのは、さすがに不自然すぎますね」
そんな少年を、《司令塔》達は疑っていた。
「では、私が調査してくるとしましょう!」
司会を担当の女は、そう言って立ち上がった。
「あなた直々に出向くんですか、アルさん!」
アルと呼ばれるこの女こそが、聖天騎士団の頂点であり、《最高司令官》を担う者。『アーデル・シュノン』であった。
◇◇◇
馬車を動かし始めて数日。
俺達は既に、北の大陸の中央部へと至っていた。
そして着いてしまった………
「ここが次の国だ」
そこは、俺の忘れ去りたい苦い思いでの一つとなっている場所。
俺の育った故郷でもあり、俺を迫害した奴らの住む腐った国でもある。
俺はここの第三王子として生まれたが、第一王子による濡れ衣の罪で迫害を受けた。
その国の名を─────
「サーバック王国」
「何だ、知ってたのか」
それはもう大変よくご存じですよ………
「悪いけど、俺は今日は居残りしてく。土産でも頼むわ」
俺は行ってもきっと、入国拒否されるだろう。
もしかしたら、大罪人として刑を受ける可能性だってある。冤罪だけどな。
それに、これ以上苦い思いでを作りたくない。
「何でだよ?」
「まぁ、諸事情でな………」
俺はそう誤魔化した。
エドワードは、「諸事情………ねぇ……」と言ってから、俺に指を向け、こう言った。
「着色」
瞬間、掛け声と共に俺の髪の毛へと魔力が集まった。
数秒間、髪の毛をフサフサと魔力が舞い、その後には俺の髪の毛は……………
「「ッ白髪!?」」
グリムとルーナが同時にそう言った。
見えないが、どうやら俺の髪の毛は白色になってしまったようだ。
「似合ってねぇ!」
エドワードは「だせぇ!」と俺を見て笑い転げていた。
お前がしたんだろうが……………
「まぁでも、これなら姿も隠せるしバレないだろ?」
諸事情の一言でよくここまで分かったもんだ。
まぁこれは素直に助かる。
「おぅ、ありがとな」
ここは素直に感謝しておいた。
何せ、苦い思いでの場所とは言っても故郷は故郷だ。
そりゃあ久しぶりに見たいものは山ほどある。
俺達はこうして、サーバック王国へと入国した。
◇◇◇サーバック王国
最初に俺は、昔からよく行っていたたこ焼き屋に行くことにした。
雰囲気は、三年前とは比べ物にならないほど明るく賑やかな国へと変わっていた。くそが。
俺がこの国で残した未練といえば、このたこ焼き屋くらいのものだろう。
それほどに、このたこ焼き屋は美味いんだ!
生地は自家製の特殊なもので、中はもっちり〜外はサクッ!具材も特製のタレに漬け込んでおくことで、味の染み込んだ美味しいものになっている。
一度食べたらやみつきになるおいしいなんだ。
俺がそういって余韻に浸っていると、着いた。
「たこ焼き屋!!」
外から見ても、香ばしい香りが鼻中に広がってきた。
「すみません!シンプルたこ焼き五人分お願いします!」
とりあえず五人分は貰っておくことにした。
旅をしながら食いたいし、多めにしておこうと思ってな。
「毎度あり……………」
たこ焼き屋のおっちゃんは、どこか元気のない声でそう言った。
おっちゃんは、見覚えのある顔だった。多分、三年経っても交代とかはしてないんだろうな。
まぁ今は何にしろ、食うぞーーー!!
「いただきまーす!」
はむっ!と一口目をいく。一口で一個丸々いってしまった。
これだ……………口の中に広がる甘じょっぱいソースの甘味と、歯に伝わるもちもちカリカリの生地………
「ってまず!」
俺はあまりの不味さに、たこ焼きをほとんど噛むことなく飲み込んでしまった。
味が違いすぎる……以前とは比べ物にならんぞこれ。
一体何があったって言うんだよ………
「なぁ、おっちゃん!なんかたこ焼きの味落ちてねえか?」
俺は礼儀も弁えず、ドストレートにそう尋ねる。
これはいわば、たこ焼き好きである俺なりのアドバイスみたいなもんなんだ。だから礼儀は弁えられてる………よね?
「おぉ、坊主………すまんなぁ。俺のたこ焼きは、三年前から死んでんだ………」
おっちゃんは、悲しそうに俯いてそう言った。
三年の間で、このたこ焼き屋に何が起きたっていうんだよ……
「おうおう!今日も売れ残りばっかですねぇ!」
そんな声が、通路から聞こえてきた。
そしてそれは間違いなく、ここのたこ焼き屋に向けた文句だった。
「ッぐ………!」
おっちゃんの正気の抜けた表情は、みるみるうちに……まるで鬼のような形相へと変わった。
あまりの迫力に、俺も「ぅぁぁっ………」と掠れた声が漏れていた。
俺は文句の主の方へと顔をやった。
そこには、見覚えのある姿があった………
「何て目、してんですか?技術を与えてくれた身ですよ?」
「………はっ!代わりに味は落ち、客の数も反応もこの有様だ!てめえ、一体どうしてくれんだよ!」
そしておっちゃんは、出てきた男の胸ぐらを掴んだ。
しかし─────
「……………どうしましたか?いきなり襟を引っ張るなんて」
─────持ち上がらなかった。
おっちゃんは胸ぐらを掴み、そして持ち上げようと上へ引っ張っていた。だけど持ち上がったのは男の襟元だけだった。
圧倒的、おっちゃん有利な体格差だった。
それでもこの結果なのは、あの男がただならぬ力の持ち主であるからだろう。
おっちゃんもそれを悟ったのか、すぐに襟を離して後ずさった。
「大丈夫ですか!国王様!」
またすぐに、兵隊達が男に駆け寄ってきた。
そして俺は、一番出会いたくなかった奴に出会ってしまったみたいだ。
「それと………君が本日入国して来た旅人さんだよね?」
「はい」
俺は頷いた。
「ゆっくりしていくといいよ〜」
男は俺に笑顔を見せた。
「ありがとうございます!」
俺はそう返した。
ただただ丁寧に、何の凝りもなく安直に言葉を選ぶ。
これが、国王と一般人。いや、詐欺師と被害者………か。
長く忘れていた、クーデター事件。
それをこいつが、今一度呼び起こしてくれた。
「……………スカリー殿」
俺は小さくそう呟いた。
スカリーと、そう呼ばれた男の名は……………スカリー・サーバック。
俺の………兄だ。
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