第42話 未来を見る能力
「僕の友達を、助けて欲しい」
アンドリュー・サーバック、人生にして初のお願いを受けてしまう。
一体何があったのかというと、それは十分ほど前に遡る。
俺は《矛盾の里》にて、そこら辺を見回しながら歩いていた。
そんな時、ある少年に声をかけられた。
「お兄さん!お願いです、助けて下さい!」
この少年の名前はチャオ。
彼にはどうやら双子の弟がいるようで、その子を助けて欲しいんだとか。
「えっと……別にいいけど、具体的に俺は何をすればいいの?」
「あ、その前に説明させていただきますね」
と、話しを遮るようにそう言われた。
俺の話が先だろ。くそがきめ。
そこでチャオが語ったのはこうだ。
チャオにはどうやら、信じられんことに《未来を見る能力》があるようで、その能力で弟が今日の夜に死ぬのを見てしまったみたいだ。
「弟は……落石に潰されて死んでいました。この未来を回避するためにも、どうか力を貸して下さい!」
「分かった。で、俺はその落石を無くせばいいのか?」
「はい!お願います!」
俺はチャオに案内されるがまま、落石が起こると思われる場所まで連れてこられた。………はずだった。
「………おい、いつまで歩いてんだ?何かさっきから行ったりきたりしてるみたいだけど………?」
「え、えっと……じ、実は………」
チャオはかしこまって言った。
「僕、未来は見えてもその場所とか詳しい事までは分からないんです………」
じゃあ何でこんな自信満々に俺を連れてきたんだよ………
「はぁーーー………分かったよ、探してやるよ」
「え!?本当ですか、やったぁーー!」
チャオは嬉しそうにはしゃいでいた。
「じゃあ、俺はあっち側探すからお前はそっちを頼む」
「わかりました!」
俺たちは、分担して探すことにした。
確か落石が起こるっていうことだし、岩の多い所を探すか………
と、そんな事を考えていると俺はあることに気づいた。
それは、この里に入ってきた時のことだ。
確かこの里の門は、岩で作られた縦長の巨大な門だった。
それを思い出した俺は、急いで門の前まで走り出した。
そして門の前まで辿り着いた俺は唖然とした。
「………こんなにデカかったのか」
入ってきた時は気づかなかった。
高さ数十メートルはありそうな程の巨大な岩石で作られた門。
これが落ちてきたら、ひとたまりもないだろうな。はっきり言って、即死だろう。
「お兄さん、何見てるの?」
門を眺めていた俺は、突如そんな声が聞こえて振り向く。
「え?」
そこにいたのは、チャオだった。いや、正確にはチャオそっくりの別人だった。
てことはこいつがチャオの言っていた………
「お前がチャオの弟か」
「うわ!お兄さん知ってるんだ!」
チャオの弟は、大袈裟に驚くポーズをしてみせた。
「僕はテオ。チャオとは双子なんだ!」
「てか双子なら、お前もチャオみたいに未来が見えたりするのか?」
「いや?〝それ〟はできないよ」
意味ありげな言い方だな。
「僕は自分で未来を見れはしないけど、相手に未来を見せることはできるよ」
「………というと?」
「例えば………ほら!」
そう言ってテオは、俺に向かって掌を向けてきた。
「ぐぁっ!」
瞬間、俺の脳内に謎の映像が流れ出した。
それはたった十秒程度の映像で、エドワード、グリム、ルーナの三人と一緒に馬車で里から出て行く映像だった。
そしてこれがテオの言っていた、未来を見せる能力なんだろう。
「どう?これで分かったでしょう?」
「ものすごーく頭が痛えが、すげえ能力なのは分かったよ」
「でしょ!凄いでしょ!」
褒められたのが余程嬉しかったのか、テオは無邪気に飛び跳ねていた。
「あ、アンドリューさん!それにテオも!」
そんな話しをしていると、チャオが元気よくこちらへ走ってきた。
「なあチャオ、お前の言ってたのってこれのことか?」
俺は岩石で作られた巨大な門を指差した。
「うん、多分それだよ」
「了解。少し離れてろ」
俺は門に向かって、特大の《火球》を放った。
その瞬間、《火球》は門に直撃し、大きく後方へと倒れた。
「……………………」
今更だが、俺のしてることやばいな。
門壊して怒られたらしないよな……………
門は倒れたことで本来の大きさに劣るにしても、それでも立派といえるほどの高さをもったものであった。
「よーし、これで終わりだな!」
「あ、お兄さん!あれ!」
ん?と思いみると、門の割れ目には光り輝く宝石が埋め込まれていた。
「ま、まじか!」
よーし、今のうちに盗みまくるぞ!
「帰るぞー、アンドリュー」
とその時、見覚えのある声が聞こえた。
その声の主はエドワードだった。
「エドワード!」
後ろには、グリムとルーナの姿もあった。
タイミング悪いな………
「じゃ、じゃあ悪い二人とも。俺はそろそろ帰るわ」
「うん、バイバイ!」「またね!」
そう言って笑顔で二人は俺を見送ってくれた。
そしてその後、門の目の前では………
「よーし、テオの分の宝石は俺がとってきてやるからな!」
と言って、チャオは勢いよく門の割れ目に向かって走っていっていた。
「うわー!すげぇ!」
割れ目に辿り着いたチャオは、宝石を持って大はしゃぎでいた。そんな時だった………
ガタッ!
そんな音がし、チャオは上を見上げた。
◇馬車にて◇
俺は、一つ疑問に思っていたことがある。
未来は決定事項である。それを破った場合どうなってしまうのかということを。
決定された未来を変えたということは、逆に他の決定された未来に辿り着いてしまうのではないかと。
弟が死ぬはずだった未来は変わった。だとすると変わってしまった未来で死ぬ人は、きっと……………
俺は嫌な予感がして、振り返った。
振り返り見た岩石の門は、あの時よりも欠けていたような気がした………
「………気のせいだよな」
俺はそう思った。いや、そう思うことにしたんだ。
でないと、もうここには一生戻れそうになかったから……………
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