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冒険記録-世界を救う30年間-   作者: 鮭に合うのはやっぱ米
第2章 一人旅 : 見習い騎士編
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第31話 助け

 俺は、リ・グランデの森へと足を踏み入れた。

 鬼達の進行口とは真反対のところから入ったことで、鬼の姿は見当たらなそうだった。


「これ、マジでいけそうだな……」


 おかげで、そんな自信がついてきた。


「よし……よし!いける!」


 俺は全速力で森の中を駆けていった。

 

 うおぉぉぉぉー!俺は強い、最強なんだー!


 俺はひたすらに、自分を奮い立たせる言葉を思い浮かべて言っていた。


「ブッ!」


 そんな風に前も見ず走っていると、案の定壁にぶつかった。

 

 痛ってぇ……何だこれ?木か?


 俺はそう思い顔をあげた。


 見るとそこには、眉をひそめ、険しい表情をした鬼の姿があった。


「あ?何だテメェ」


 ヒイィィィッー!

 何でいんだよコイツ……!

 てか、これ俺死んだじゃんか!


「す、すみませーん!貴方様のこの引き締まった素晴らしい肉体に怪我を負わせてしまったみたいです!本当にすみません!でも、本当に素晴らしい肉体ですねぇ!ほんと、憧れちゃいますよ!いっそ、兄貴なんて呼ばせてくだせぇ、ヘイ兄貴!」


 どうだ!俺の、どこまでも褒めまくる作戦は!

 これでコイツは、もう俺の虜だ!

 フッ……堕ちたな。


「俺の肉体はなぁ、お前如きにぶつかったくらいじゃ、傷はつかねぇんだよ!」


 逆効果だったー!

 クソ……そこは盲点だった……

 何とか、今すぐに弁明しないと!


「す、すみません!間違いでした!傷なんてつくわけなかったですー!ホントすいません!次からは気をつけます!それじゃあさよなら〜」


 俺はそう言って、風の如き速さで逃げていった。


 このまま上手いこと逃げろー!


「待て」


 瞬間、先程まで後ろにいたはずの鬼が、一瞬で俺の目の前に来ていた。


「ここへ立ち寄ったならば、逃すわけにはいかん。大人しく死ね」


 鬼が、俺へと金棒を振り上げた。


「しゃあねぇか……」


 俺は瞬間、鬼へと指先を向けた。


「じゃあな」


 そう俺が言った瞬間、鬼の腹に大きな風穴ができた。

 鬼は何が起きたのか、理解する事なく倒れていった。


「危なかったー……」


 これが、レイス先生との模擬戦で手に入れた、俺の新しい魔術、『火槍フレイムスピア』だ。

 先生曰く、これは初級魔術である火炎フレイムと同じものらしいが、魔力操作によって細い槍型の炎へと変え、最小の魔力で最も殺傷効率の高い魔術にしたものらしい。

 そしてこれは、無属性魔術師ほどの魔力操作が無ければ作ることはできないらしい。

 つまり、俺だけの魔術ってわけだ。いいね〜!


「これが鬼に通用することが分かってよかった……」


 火槍で、鬼は一撃で倒せるっぽいな。

 ……よし!バッタバッタ倒していくぞ!


 俺は森の奥地へと、更に足を踏み入れていった。






 --- その頃カーナは ---


 カーナは、リ・グランデの森へと飛ばされていた。

 

「何なのコイツ……強すぎる……」


 カーナはその頃、鬼と戦っていた。

 周りには数体の鬼の死体が転がっており、カーナが倒したと思われるものだった。


 もう既に、10体近い数の鬼を倒した……だからこそ分かる、コイツだけは別格すぎる……!


「どうした?先程の威勢はどこへ行ったのだ、小娘よ!」


 別格の強さを誇る鬼は、カーナの首根っこを掴み上げた。


「グァッ!」


 あまりの苦しさに、カーナは悶え苦しみだした。


「何もしないなら見逃してやったものを……仲間を殺した罪は重いぞ!」


 鬼はそのまま、カーナを地面へと叩きつけた。

 ゴツッ!という岩のような音が鳴ると共に、カーナの額からは血が流れ出ていた。


「楽に死ねると思うなよ小娘!?同胞を殺した恨みは、簡単には消えんぞ!」


「あんた達が……最初に攻めて来たんじゃない……私達は何もしてない……」


 鬼はその反乱に聞く耳を持たず、カーナをもう一度持ち上げると、また地面へと叩きつけた。


「アァッ!」


 痛々しい悲鳴が森の中に響いた。

 カーナの額からは、先程以上の血がどくどくと流れていた。

 

「もう……やめて……」


 けれども鬼は、カーナを持つのをやめない。

 

「聞く耳持たん」


 私はその瞬間、死を覚悟した。


 そして鬼は、またカーナを持ち上げ……ることは出来なかった。

 何故ならカーナを持っていたその手は、気づいた時には千切れていたからだ。

 

「離れろッ!」


 そんな声が、突如聞こえた。

 私は咄嗟に立ち上がり、少しでも鬼から離れようと走った。


 鬼が動かないのを確認すると、ある程度の距離をとって隠れた。


「誰だ……俺の腕をちぎったのはー!」


 鬼はそう叫び散らした。

 声だけで、周りの木々が揺れるのを見た。


「出てこい!八つ裂きにしてくれるわ!」


 鬼がそう言うと、鬼の千切れた右腕が、溢れんばかりに膨らみ始め、切り口から再生し出した。

 ほんの数秒後には、腕は完全に再生していた。


 あれじゃまるで無敵じゃない……


 と、ここで木々の奥から一人の男が姿を現した。

 アンドリューだ。


「貴様かぁ!」


 鬼は怒り狂ったようにアンドリューを睨んだ。

 今にも襲いかかりそうなその様子は、まさに狂犬というに相応しかった。


 しかし肝心のアンドリューは、そんな鬼とは全く変わったことを言い出した。


「お前……あの時の鬼か……?」


「あの時……だと?」


 鬼は、何のことは分からんといった様子で言った。


 何の話?

 あの時っていつのことよ?


「ほら!転移して来た俺を助けてくれたじゃんか!」


「あ………まさか!あの時の坊主か!随分と成長したじゃねえか!」


 何!?さっきまでの様子からは想像もつかないほど突然、和やかになったんだけど!?


「たったの二年くらいだけどな。それにしても、まさかこんな所でまた会えるとは思わなかったよ!」


「俺もだ!」


 二人は近づき、共に握手を交わしていた。

 だから何なのよこれは……!?


「それにしても、さっきの攻撃は坊主か?」


「悪い、お前だと気づかなくて……」


「いやいい、今回のは水に流してやろう!」


 二人はガハハと笑い合った。


 もうついていけないわ……


「それとさ、何があったか知らないけど、さっきいた女のことも許してやってほしい!頼む!」


「悪いが、それは無理なお願いだ。何せ、やつは我同胞を殺したのだからな」


 その瞬間、鬼の怒りが戻ったかのように大気が震え出した。

 

 こ、怖……


「頼むよー!あいつ、俺の友達なんだって!」


「何?友達と?」


 アンドリューの『友達』という発言に反応し、眉をピクリと動かした。


「え?そうだけど」


「そうか……」


 鬼は静かにそう言い、アンドリューの方へと向き直る。

 

 ……これ、まずいやつじゃ!


「アンドリュー駄目!そいつから離れて!」


 私は必死に飛び出し、アンドリューに危険を伝えた。


「えっ?カーナ?」 


 アンドリューは、何がなんだか?といった顔をして立っていた。


 途端、鬼の口元がニヤッと広がったのを、私は見逃さなかった。

 そして同時に、まさか!と思った。


 その予想通り、鬼は私の方へと全速力で向かって来た。

 

「馬鹿ッ!やめろ!」


 アンドリューがそんな事を言っていた。


「……あっ」


 アンドリューが、口を開けて固まっていた。

 ……どうしたんだろう?


 途端、腹部に強烈な痛みが走った。


「……へっ?」


 そんなボケたみたいな、ヒョッとした声を私は出した。

 アンドリューの顔を見るに、驚いていたようだ。

 まぁ一番驚いているのは私何だけど……






 私の腹には、鬼の腕が刺さっていた。






「テメェェェェーーーー!」


 アンドリューが、鬼の形相で向かって来た。


「死ね」


 鬼はそう言うと、私の腹に刺さった腕を抜き、もう一度刺そうとしていた。


 途端、前から火の粉が飛んできた。

 見ると、鬼の腹にも風穴が出来ていた。


「邪魔をするな!」


 鬼は、アンドリューの頭部へチョップを仕掛けた。

 アンドリューはそのまま倒れ落ちて……あれ?視界が悪くなって来たな……何でだろう……

 私は別に……目が悪いわけじゃないんだけどな……

 死ぬの?私……………?

 あぁ……まだ、生きたかったな……















 

  



 嫌だ。






 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!

 死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない!

 誰か助けて助けて助けて助けて……

 死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない!


「死………にたく……ない……よぉ……」


「死ね」


 

























 もう…‥何も……見えないや………


 そうしてカーナは、深く目を閉じた……







 

 

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