第26話 天級魔術
「何がどうなってんだ……?」
俺は気がつくと、宿のベッドで横になっていた。
そしてその横でカーナも一緒に寝ていた。
「何でコイツが横にいんだ……」
カーナには専用のベッドをあげたってのに、何でここで寝てんだよ……
……まぁそんなことはどうでもいい、今は何があったかを知るのが先決だ。
実の所、昨日からの記憶がすっぽりと無いんだ。
昨日の間に何があったのか全部。
それを知るためにも、まずはコイツに聞いてみるしかないな。
「んー……」
……と、タイミングよくカーナは起きた。
寝ぼけ目で体をグーッと伸ばして立ち上がった。
「眠いわね……」
そう言った途端カーナは俺がいることに気づきだし、焦ったようにして後方へと転んだ。
「お、起きたの!?」
「あぁ、ついさっきな。それより昨日、何があったんだ?実は記憶が曖昧なんだ……」
「あぁ、それは……」
そしてカーナはこう語り出した。
昨日突然倒れただした俺を、レイスが医務室に連れていって休ませたらしい。
そしてそのまま放課後まで起きなかったため、宿までカーナ達が運んでくれたんだそうだ。
「そ、そうだったのか……それは世話をかけたな」
「べ、別にいいわよそのくらい!私は寛大な女だから、許してあげるわよ!」
「お、おう……」
何だか今日のカーナはテンション高めだな。
コミュ症の俺からしたら、こういうテンションの高い人と喋るのはすごく苦手だ。
「それよりもう時間よ、ご飯くらい済ませてしまいしょう」
カーナはそう言って、昨日の残った食べ物を食卓に並べた。
そういえば今日は、いつもより起きる時間が遅いな。
俺はともかく、カーナまでもがこんな時間に起きたってことは、昨日は相当疲れてたんだろうな。
そして俺達はご飯を食べ、いつものように学校に向かって登校した。
学校に着くなり、俺はまた珍しい人に話かけられた。
「おはよう、アンドリュー君。この学校に来て半年近く経つが、もう慣れてきたかな?」
この学校の校長である、『ゼナス校長』だ。
巨人とも思わせられるような大きな図体と、威厳たっぷりの大きな声量が特徴の先生だ。
「おはようございます、ゼナス校長。はい、友達と言える人も数人できて、有意義な学校生活を送らせてもらっています」
俺はこれまでにこの学校の教師を全員見てきたが、これほどの圧を感じさせられるのは、この人ただ一人……
『校長』という名は伊達じゃないというわけだ。
「因みにですが、魔力保管庫の方はどのような具合でしょうか?」
俺はこの学校に入学する条件として、"全生徒からの魔力の供給"を提示した。
そしてそれは、俺の魔道具である魔力保管庫を用いて行っている。
因みに、魔力さえ貯まれば俺はいつでも退学するつもりだ。
こんな学校に縁なんて何一つないからな。
「半分ほどは貯まりました……やはり満タンになれば、退学されるのでしょうか?」
ここでYESと答えれば、魔力の供給を断たれるのは目に見えている。
だったら……
「そんなことありません。最初は確かにそうでしたが、考えが変わりました。僕はここに思い入れができてしまったんですから」
我ながら、上手い嘘をついたもんだな。
「そ、そうですか!それは良かったですぅ……」
校長はホッとしたように息を吐いた。
こんな人を騙すなんて……なんか罪悪感が芽生えてきたよ。
それから俺は教室に戻った。
教室では既に授業が始まっていた。
俺は少し頭を下げて申し訳なさそうにして中に入る。
そして席に着くと、いきなり話しかけられた。
「遅いよアンドリュー、もう始まってるぞ」
入って早々、声をかけてきたのはグリムだった。
「あぁ悪い、校長先生に呼び止められててな」
……とこのように、ご飯→登校→会話→授業→下校といった流れを二週間ほど繰り返し、ついに【剣魔闘祭】前日となった。
俺はこの二週間で、先生との模擬戦を100回近く行った。
その過程で自然と、俺の魔力量や魔力操作の技術は格段に成長した。
そして今日が、先生との最後の模擬戦だ。
「アンドリュー、君はこの二週間ほどで大分成長したようだね。今の君なら、天級魔術も使えるんじゃないのか?」
「天級魔術……!?」
天級魔術とは、上級魔術の上にある魔術のことだ。
それも、『初級から中級』になるのや『中級から上級』になるのとじゃ話しが違う。
天級からは、天を……空を……気候を変えることができると言われるほどの大魔術となる。
それ故に、習得できたのは少数、世界でも50といない。
「実は私も、天級魔術で唯一『火』だけは習得ができなかったんですよ。なので、参考になるかはわかりませんが、今から『水』の天級魔術を見せてあげます。カーナもよく見ておきなさい」
そう言うと先生は俺達を、外にある魔術習得場へと連れていった。
習得場に来るなり、先生は俺達に警告をした。
「ここから先へは出てきてはいけませんよ。来れば命の保障はありません」
先生はそう言って、足のかかとで地面に横線を一本引いた。
相当な規模のため、これ以上先に出れば危ないってことなんだろうけど。
俺達が距離をとって離れたことを確認すると、先生は手を上に掲げてこう叫んだ。
「ではいきます……天級魔術【水銃弾】!」
先生がそう叫んだ途端、空に浮かぶ雲が一点に集まり……重なり……積み上がり、巨大な雨雲へと変化した。
「す、すげぇ……」
全員が空を見上げて感嘆の声を出す。
瞬間、雲からとてつもない大きさの雨粒が幾つも降り注いだ。
まるで1発1発が銃弾のように重く、落ちるたびに地面がズシズシと音を立て、やがてヒビが入っていった。
その雨粒は、先生の周りを覆うようにして降り注いでいた。
防御にも、攻撃にも特化させた魔術……これこそが天級魔術なんだ。
「ふー……」
やがて雲は晴れ、先生は一息ついていた。
「どうでしたか?これが天級魔術です」
『すごい』の一言しか出ないだろうな。
見ていても、原理や構造の一つも分からないんだから。
「すごかったです……けど、ヒントにはならなかったというか……やり方が分からないんです」
「ヒントですか……そうですね〜、例えば上級魔術までは目の前に魔力の塊を作るイメージでやっていたと思いますが、天級からは『目の前』じゃなくこの地上『全体』に巨大な魔力を降り注がせるというイメージでやるといいと思います」
なるほど……目の前ではなく全体か。
「なるほど、ありがとうございます!」
「じゃあ実際にやってみようか」
俺は、さっきまで先生が立っていた習得場の真ん中地点に立った。
先生のやっていたようにやればいいんだ……やれば……やれば……ふんっ!
俺は掌を空にかざし、こう叫んだ。
「天級魔術……何だっけ?」
俺は名前が分からず、言葉を濁した。
「炎天渦だよ!覚えたんじゃないの!?」
「あっ、そうでした。もう一度!」
俺は再び掌を空に向けた。
「天級魔術、【炎天渦】!」
そう叫んだ瞬間、俺の掌から槍のように鋭い炎が、雲に向かって飛び出した。
「……失敗ですね」
先生がそう言った瞬間、俺は倒れるようにして膝をついた。
失敗か……分かってはいたけど、そう簡単にはいかないよな。
「まぁそう簡単にできるものではありませんし、気長に頑張っていきましょう!」
「そ、そうですね……」
レイスは笑顔で微笑んでいたが、視線を俺から戻すと、何やら険しい顔をしていた。
「……アンドリュー君?今の魔術を使って……魔力量はどうなっていますか?相当消費しちゃったんじゃないですか?」
そんな事を聞かれた。
……あれ?あんまり魔力を消費していないぞ?
大きさ的に、結構な量の魔力を使うと思っていたけど、そんなに減ってないや。
「そんなに減ってませんね。何ででしょうか?」
そう言うとレイスの顔は、更に酷く険しい表情になり、『いえ……』とか言って立ち去っていった。
「き、今日の授業はもう終わりです。皆さん気おつけて帰ってください……」
そう言い残して、レイスは去っていった。
何だアイツ……?
ーーーーー
「……どうなっているのだ!?」
奴が使った魔術……大きさは違えど、間違いなくあの形と鋭さ……火炎だ!
いや、火炎とは言ってもあの大きさ……星級に近い破壊力をもっている!天級どころの話しではない!
それにアンドリューが言うには、魔力の消費はほとんどしていないそうだ。
もし、アンドリューがそれに気づきさえしたら、やつは神証どもに匹敵する力になるかもしれない……
そうすれば、あの炎神すらも……
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