第2話 怪物の肉体と気力
いくらシェリアでも人間なんだ。
生身の人間が、《魔狼》なんかに噛まれたらそれはもう……………
俺はシェリアを助けようと、全速力で走った。
だが、俺はすぐにその足を止めた。
「……………え?」
「心配しないでくださいよ、坊ちゃん」
何事もなさそうに、シェリアはそう言って《魔狼》を腕から剥がしてみせた。
見ると、シェリアを噛んだ《魔狼》の牙はシェリアの腕を貫いてはいなかった。
それどころか、牙は皮膚に一切の傷をもつけれてはいなかった。
「………ほんと、お前の体はどうなってんだよ」
俺は笑いながらそう言った。
「それは褒めてる………んですよね?」
俺は適当に、「あぁ褒めてる褒めてる」と言っておいた。
《魔狼》はというと、シェリアの化け物じみた強さに勝てないと分かったのか、すぐに森の奥へと逃げていった。
「まぁ、これでもう襲ってくることは無くなるだろ」
「ですね!」
◇森林生活〜三年◇
それから俺達は、さっきシェリアが吹き飛ばした《魔狼》を食べて今夜を過ごすことにした。
そして、俺達の森林生活が始まったのは、次の日からだった……………
朝6時 : 俺の朝は、樵から始まる。どこから持ってきたかも分からないシェリアの《魔道具》を使って、〝木〟をバッタバッタと〝切〟っていく。木だけにね!
そうして俺の6時間は消える。
昼12時 : いい汗をかいた後は、大人のワイン………ではなく、あったかいミルクでひとときの安らぎをえる。ご飯も専属のメイド特製の《魔狼》ステーキだ。とんでもなく生臭い。
夕方6時 : 飯の後の数時間は自由休憩。そして夕方になると、シェリアとの魔術と剣術の稽古がある。だけど剣術は嫌いだ。というかできない、むずすぎて。《鈍流》の初級ならできるが、シェリアは何故か《鋭流》という極めて難しい剣術を教えてくる。ほんとなんでだろう。魔術は、初級火魔術ならできるけど、他はなんもできない。才能の差ってやつだ、諦めよう。ただ、火魔術は風呂の火おこしですごく便利だから愛用している。初級だけどね!
………そうして、三年が過ぎた。
俺は三年という長い時間、同じ場所で同じことをし続けるということに飽きが出始めていた。
そして、一つ思った。
「………街に出かけたい」
「いいですね!それ!」
俺のポツリと呟いた一言に、シェリアは大きく同意した。
こうして、俺は街へ出かける許可を得た。
もちろんシェリアも一緒にだが。
◇サーバック王国のとある街◇
久しぶりに故郷とも言える国に帰ってきた。
そして、久しぶりに見る人。
〝飽き〟というぽっかり空いた心の穴を、ようやく埋めてくれそうだ。と、俺は思った。
街の雰囲気というか、見た目は三年の間で大分変わっていた。
クーデターが起きたといっても、もう昔のことだからかな。みんなもう、そんな事は忘れちゃってるのかも。
俺はそんな故郷を見て、もしかしたら城にまた戻れるかも!という淡い希望を抱き始めていた。
「………掲示板」
街の中心部には、巨大な掲示板が設置されていた。
「へー、結構再建されたんだな。あ、これ俺の好きなたこ焼き屋じゃん!」
俺は掲示板を見ながら、そう言ってはしゃいでいた。
「なぁ、シェリ……………」
と、シェリアを呼ぼうと振り返った俺は言葉を止めた。
シェリアが、勢いよく俺を引っ張って全速力で街の外まで走り出したからだ………
◇執着◇
「………何すんだよ!」
「静かに!」
俺が叫んだ途端、いつにも増して怒った表情でシェリアは俺を怒鳴った。何なんだよ……………?
するとシェリアは、俺の耳元に口を寄せて、囁くようにしめこう言った。
「………これを見てください、坊ちゃん」
見せてきたのは、一枚の紙だった。
そして、そこにはこう書かれていた。
《グランデの森、捜索部隊の募集》
私はスカリー・サーバック。
現国王ローグ・サーバックの孫であり、今は亡き前国王ルーク・サーバックの息子だ。
突然だが、皆は三年前に起きたあのクーデターを覚えているだろうか。
皆も知っての通り、クーデターの主犯は我が弟アンドリュー・サーバックである。
そしてあのクーデターでは、何百という数の人々が殺された。
とても許せるものではない。
しかし、我が弟はまだどこかで生きて、のうのうと暮らしておる。
あの忌まわしい事件に恨みを持つ者、もしくは許せないと思っている者。
そう思っている人に協力して欲しい。
我々は今、大規模な捜索隊を使って王国付近を隅々まで探している。
しかし弟の姿どころか、形跡すら見つからん。
我々の推測では、おそらく奴はグランデの森で隠れている。
そこで、グランデの森捜索隊を作りたい。
もう一度言うが、あの事件に恨みを持つ者、もしくは許せないと思っている者。
我々と協力し、あの事件に終止符を討とう!
そして、この国を更に発展した豊かな国に変えていこう!
協力したいと言う者は、ここにある紙を王宮の門番まで届けてくれ。
たくさんの報告を期待している。
〈スカリー・サーバック〉
「………これは、あの掲示板に貼られていたものです」
「…………………………」
シェリアの言葉に対して、俺は何も言わなかった。
「………もし、あのままあの国にいたら、私達は捕らえられ、そして処刑されたでしょう……」
クーデター首謀者のスカリー・サーバック。奴は俺の兄貴である。
そして王戦争いで勝つために、サーバック王国にクーデターを起こした。
そんなのが、この国の現国王だそうだ………
「ま、いいんじゃねえの?」
「………え?」
俺の返事に、シェリアは驚いたような声をだした。
「だって、別に俺はこの国に思い入れねえし」俺は続けてこう言った。
「だから、サーバックの名も捨てようと思う。いらねえよ、こんなの」
「…………………………」
次は、シェリアが黙っていた。
「お前はどうなんだ?」
同意を求めるようにして、言った。
「私は………」
シェリアは言葉を溜めていた。
そんなシェリアの溜めは長そうだったから、俺は待たずに次の言葉をかける。
「だからさ、俺もそろそろ変わろうと思うんだ」
「……どうゆうことですか?」
「俺は、お前がいてくれたらどこまでもいけそうな気がするんだ」
だから………と言葉を置いてから俺は言った。
「なろうぜ、《冒険者》!!」
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