第24話 炎神の器
「これから、剣魔闘祭に向けた練習をします!皆さん準備はいいですか?」
一限目早々、剣魔闘祭とやらの実践練習を行うことになった。
「祭りのメインイベントである『剣魔闘大戦会』では、今回はおそらくアンドリュー君が指名されることでしょう」
やっぱ俺なのか……
四天の座なんて正直どうでもいいが、負けて恥をかくのだけは嫌だな。
ちょっと練習頑張ってみるか〜!
「『剣魔闘大戦会』では時間は無制限ですので、長期戦になることが予想されます。つまり、魔力量が多い方が有利にことを進められるということです。そこで!今回は魔力量を増やす訓練をしていこうと思います」
なるほどな。
長期戦を予想されるとあればそうなるわな。
まぁ、いくら魔力量が高くても戦略がなければ負ける可能性は高いだろうな。
逆に言えば、圧倒的な戦略を持ってしても、魔力量が少な過ぎれば勝つのは不可能に近い。
つまりは、その二つの両立をどれだけ可能にできるかがこの試合の勝敗を分けることになるだろうということだ。
「その通りですよ、アンドリュー君!」
「えっ?」
「はっ?」
皆んなが えっ? はっ? と疑問を声に出す。
突然のことすぎて、そりゃあ驚くよな。
俺もビックリしたよ。
俺は一切声になんて出したないのに。
「俺、声出してませんよね?」
俺は敢えて少し焦り口調で言った。
まぁでも、もしこの人が本当に心を読めるのなら、俺の今思ってることも筒抜けだから意味がないかもしれないが。
「……あれ?適当に言ってみただけなんですが、まさか本当に何か考えていたとは!驚きましたよ!」
先生はアハハというふうに笑い出した。
「な、なんだ先生。いきなり変なこと言い出すからビックリしたよ!」
ルーナがホッとしたように息を吐いた。
お前がもしも俺の心を読めるのなら……今俺と二人きりになれ。
……話がしたい。
「冗談ですよ〜。それよりアンドリュー君、君だけは少し別の場所で訓練をしようか」
「分かりました」
「三人は、この通りに訓練をやっていてください」
そう言って、先生は紙を三人に手渡した。
どうやら紙には、訓練の概要が書かれていたようだ。
「それではアンドリュー君。行きましょうか」
そしてそのまま俺は、ここから少し離れた別の訓練場へと連れられた。
「ここは……」
「『模擬実践場』です。アンドリュー君には、今から僕と一対一の模擬戦をしてもらいます」
「えっと……ハンデはありですよね?」
「勿論なしです」
先生、勿論の意味分かってます!?
「それに君が本気を出せば、僕なんて簡単に殺せるでしょう?『炎神の器』」
「……何のことですか?」
いきなりそんなことを言われても意味が分からない。
「芝居はもういい、あの三人は今はいないからな」
「芝居って……何がですか?」
本当に分からないんだ。
いきなりこんなこと言われても、どう対応すればいいのか……
「……まさか!?本当に知らないのか?」
「だからさっきから言ってるだろ。何を言われてるのか、何を言ってるのか、訳が分からないってな」
「それじゃあ、自分が『炎神の器』であることすらも知らないのか?」
知るかよそんなの……
だいたいその、『炎神』ってのは何なんだよ。
「そんな……それすらも知らないとは……」
先生は驚いたような顔をして俺を見る。
そもそもこいつは何者なんだ?
俺の心も読めるようだし……
「私は……まぁ単純に言うと『炎神の使い』だ。そして君を守るために送られてきた」
んー……つまりは俺の盾ってことでいいのかな?
「ハハハ!盾か、面白い表現だ!」
先生は大声で笑い出した。
いつもの先生とは思えない明るさだな。
これが本来の先生というわけか……
「まぁ俺に害は無いようだしいいけど……」
俺はそこで言葉を止めた。
「俺は一年後にはこの学校から出て、故郷に帰るつもりだ。今はいいが、故郷に帰る時にも俺の邪魔をするっていうのなら……その時は容赦はしないぞ」
俺は冷たい目を向けてそう言った。
これはあくまで脅しだ。
容赦しないといっても、俺は人を殺す勇気なんて持っちゃいない。
絶対にできない。
「僕もその時は、全力で止めるとするよ」
その間は、バチバチとした空気が流れていた。
だが俺の内心は、焦りしかなかった。
俺が先生と勝負をして勝つなんて無理だし、もし全力で止めにきたら俺は勝てない。
だから俺の、故郷に帰るというのはほぼ不可能になったようなものだ。
どうしたものか……
「そうだ、だから諦めるんだ」
無論、今の俺の思いは全てこいつに筒抜けになっている。
「まぁお前のことは後にして、今は授業の方に集中するとするよ」
俺はこの話をやめて、授業の方へと移した。
「そうだね。それじゃあ早速、模擬戦をしようか」
俺は、地面に置いていた杖を持って前に構える。
「準備万端のようだね。それじゃあ……スタート!」
いきなり、模擬戦は始まった。
フィールドは結構な広さがあって、動き回ることも可能だ。
俺は一旦距離をとって、冷静に立ち回る。
「上手いね、手慣れた動きだ。確か前は、冒険者をやっていたんだって?だけど仲間を死なせてしまってやめたんだとか……うっ……」
途端、先生の顔を火の球が横切る。
いや正確には、顔に直撃させるつもりでうった火球を避けられたのだ。
「二度とそれを口に出すな……それと、あいつらは死んでなんかない……」
俺は怒り心頭だった。
こんなやつに、勝手な言い分をされては困る。
「それはすまなかったね、次からは気をつけるよ」
レイスは、クスッと笑いながら言った。
(こいつ……………)
「氷撃……収束!」
途端にレイスはそう叫ぶと、巨大な氷柱を作った。
「終わらせようか……」
レイスがそう言った瞬間、巨大な氷柱がとんでもない速度で飛んできた。
そして瞬く間に、俺の腹部へと到達し、貫いた。
「ぐはっ!」
瞬間、血が飛び散った。
俺の上半身と下半身は別々になり、血がドバドバと溢れ出ていた。
「まだいけるだろ?無属性魔術士」
そう言って先生は、さっきの氷柱を更に5本ほど出し、俺に飛ばしてきた。
それらは、倒れた俺の上半身と下半身へと飛んでいった。
氷柱が衝突した影響で、地面には大きな陥没跡が出来ていた。
その跡の最深部には血がドクドクと池のように溜まっていた。
(痛え……痛え……なんで俺がこんな目にあってんだ……こんな痛い思いするくらいなら、いっそのこと誰か殺してくれ……)
俺は、殺してくれと願うほど……
……それほどの激痛だった。
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