第22話 カーナ・シーベルト伝
学校では、真面目で気品の良いキャラ。
まさに貴族らしい振る舞いといえる。
だけどそれも全部……全部が偽りの私。
本当の私は……この真逆。
自分で言うのは難だけど、ルーナのように活発で明るく……時にはグリムのように弱々しい姿もあり……時にはアンドリューのように冷静な所もある。
それが本当の私。
正直な私。
だけどそれは、隠さなければならない。
私も最初は反対した。
『貴族らしくなんて嫌だ!』と。
だけどお父様の教えには逆らえなかった。
それ以前に、お父様とすら呼びたくはなかった。
他の家の子も見たいに、『お父さん』と呼んでみたかった。
そして、それすらも禁じられた。
私はただの人形。
父に操られ、命令をされれば簡単に行う。
そんな、父の傀儡。
……の筈だった。
あれは確か入学式の日だった。
貴族の代表として、入学式の挨拶をさせられた。
正直、前に立って話すのなんて初めてで、緊張もした。
そのせいで、セリフも噛みまくった。
それで、後になってお父様に散々殴られた。
だけどそれはいつものことだった。
だから慣れていた。
あぁ……私はこうされるために生きているんだ……という考えさえ生まれた。
そんないつもの暴力は、その日はたったの3発で終わっていた。
私は怖くなって目を開けた。
すると目の前には、今にも殴りかかりそうなお父様と、それを全力で阻止しようとするグリムの姿があったんだ。
あの瞬間、私はやっと……少しは……自分という人間を解放できるようになったんだ。
そしてそれと同時に、あの人を助けようと思った。
どんなことをしてでも、どんな犠牲をはらってでも、彼を助けて……力になってあげようと思った。
そう思いながら私は学校を過ごし、丁度三年が経過していた。
そんな中、お父様からある一言を告げられた。
『転入生のアンドリューという男と決闘をしろ。そして勝てば、アンドリュー及びグリム・ウィザードの二人を退学にさせる』
お父様が何を言っているのか分からなかった。
ただ分かったのは、グリムの退学……これだけは阻止しなければということだった。
アンドリューとの決闘が決まった瞬間、私は必死になって、アンドリューという男を調べ上げた。
調べると、元A級冒険者だということが分かった。
無論、到底太刀打ちできる相手ではなかった。
だがそれはそれで良かった。
私が負ければ、グリムの退学は阻止できる。
代わりに、私が退学するだけで……
私は、その時まではそう思っていた。
だが、いざ本番となると退学の恐怖で足がすくんで、負けたくないという思いが強まってしまっていた。
そして私は、スタート前から魔術を詠唱しておくという反側にでた。
しかし、それすらも容易に対応された。
上級魔術も何度も使った。
それでも、それを上回る魔術を何度も叩きつけられ、完膚なきまでに打ちのめされた。
結果、私は負けた。
でも、これで良かったんだ。
私が望んだことなんだから。
そして案の定、お父様が私に近づいてきた。
私は、泣くほどの罵倒をされた。
周りからは非難の声がお父様へと飛んでいた。
アンドリューは『それはさすがにひでえよ』とか言っていたが、私にはただの綺麗事にしか聞こえなかった。
これは違う。
あの時の助けとは違うんだ。
そして、彼がきた。
彼は飛んでくると、お父様の顔に向かって風の中級魔術をぶつけた。
お父様は吹っ飛んでいったが、鬼の形相になってすぐに戻ってきた。
「自分の娘に、なんてことを言えるんだお前は!お前なんか父親失格だ!」
そうグリムだ。
グリムは、今まで見せたことのないような怒声で叫んだ。
「お前は……入学式の日にもいたな。確か名前は……」
「グリム・ウィザードだ!」
これが私だけが知っている……いや、知っていた本当のグリム。
「どうだ?次は私と決闘でもしてみるか?青二才が!」
「やめなさい……」
凍りつくような冷たい声で先生が言った。
先生は同時に、お父様の腕をきつく掴んだ。
「ぐっ……!」
お父様は、痛々しそうな悲鳴を小さくあげたが、すぐに先生へと向き直り、言った。
「教師ごときが、貴族である私に対してその口の聞き方はなんだ!?」
「我が校では、身分の違いによる差別というのは禁止されています。それ以上勝手なことをされますと、騎士団本部が動きかねませんがよろしいですか?」
「ぐぅっ……わ、分かった……」
先生は脅し口調で尋ね、お父様を黙らせた。
「カーナぁー!」
突如後ろから叫び声が聞こえ振り返ると、泣きながらルーナが、走って近づいてきていた。
「うわぁっ!」
ルーナは勢いのまま、私に覆いかぶさり抱きついてきた。
「何もされてない?暴力とかされてない?」
ルーナは焦りながらも、聞いてきた。
私が首を横に振ると、カーナの顔は一瞬のうちに眉を顰めて怒りの形相へと変わり、お父様を睨みつけた。
「あんた……殺すよ」
ルーナからでた、たった4文字の怖い発言。
それはもう、いつもの明るいルーナではなかった。
私は急いでルーナに訂正を入れ、首を横に振った。
「私は大丈夫だよ!怪我も一つもない」
そう言うとルーナは、安心したかのようにホッと息を吐き、胸を撫で下ろした。
「これで一件落着だな」
後ろからアンドリューが声をかけてきた。
「何偉そうに言ってんのよ」
私はそう反論した。
「まぁでも、誰も怪我がなくて良かったよほんと」
「全力の上級魔術を数発打ってきた奴には言われたくないわよ」
アンドリューは、『悪い悪い』と言っていた。
それに対してルーナがクスッと笑った。
私も連られて笑ってしまった。
ついでにアンドリューも笑い出した。
ワハハ!ワハハ!と笑いが生まれ、険悪な雰囲気は一瞬にして消え去っていった。
ーその後ー
カーナの一件が片付き、俺達は一旦集まることになった。
カーナの父親だが、長期間に渡る虐待や差別やら命令を繰り返していたことがバレ、そしてそれが法に触れる行為だったということで、無期間の追放が言い渡された。
勿論のこと、カーナは無事だ。
「それじゃあ俺達にした決闘も全部、命令されてやったことだったのか?」
「うん。迷惑かけて、本当にごめんねグリム」
おい、俺には?
「俺にはないのかよ?」
「あんたには……ほ、ほら!私に上級魔術を何発も打ちこんだでしゃ!だからお相子よ!」
「何だそりゃ……」
俺は呆れたようにため息をついた。
「それにしてもお前、これからどうするんだよ、住む場所も無くなっちまったんだろ?」
カーナの父親は、自分が追放される前に予め、自分の家を売り払っておいたんだ。
だからカーナは今、家がない状況にある。
「ごめんカーナ、実は僕も家がなくて森で暮らしてるんだ。だから家を貸してはあげられない」
グリムが事情を話した。
そうだったのか。
ならいっそのこと、カーナも森生活を混ざらせてもらえばいいんじゃね?
「ごめんね。実は私も宿通いしているんだ。だからダメそう……」
ルーナは申し訳なさそうに、顔を俯かせて言った。
「最後は俺か……まぁ、俺は宿屋の個室を一つ貸し切らせてもらってるんだ。何でかは言えないが、狭くていいならいけるがどうだ?」
俺という慈悲の女神がいて良かったな、カーナ。
俺がいなきゃ、お前は今頃野宿でもしてたんだぜー!
「あんたなんかに頼んでないわ!で、でも……良いって言うのなら、入ってあげてもいいけど……」
こっちは慈悲をこめてやってやったってのに……こいつ……
「じゃあいいや。今の話はなしだ」
「え!?ちょっと待った!」
「何だよ、頼みごとがあるなら自分で正直に話せよ」
「えっと……その……」
この、手名付けるのが困難な獣を、容易に服従させれる側になれるってのは、なかなか良いものだな〜!
「わ、私を家に泊めていただけないでしょうか?」
最後にギッ!と睨まれたような気がしたが、まあいいか。
「まぁ、入れさせてやってもいいかな〜」
俺は気分良さげにそう言って、カーナを上から見下ろす。
カーナは悔しそうな表情を浮かべながらも、少し照れくさそうにしていた。
人に頼み込むってのは、初めてなんだろうな〜。
そして、カーナの一件はこれで幕を閉じた。
読了ありがとうございました。
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