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冒険記録-世界を救う30年間-   作者: 鮭に合うのはやっぱ米
第2章 一人旅 : 見習い騎士編
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第22話 カーナ・シーベルト伝

 学校では、真面目で気品の良いキャラ。

 まさに貴族らしい振る舞いといえる。

 だけどそれも全部……全部が偽りの私。

 本当の私は……この真逆。

 自分で言うのは難だけど、ルーナのように活発で明るく……時にはグリムのように弱々しい姿もあり……時にはアンドリューのように冷静な所もある。

 それが本当の私。

 正直な私。

 だけどそれは、隠さなければならない。

 私も最初は反対した。

 『貴族らしくなんて嫌だ!』と。

 だけどお父様の教えには逆らえなかった。

 それ以前に、お父様とすら呼びたくはなかった。

 他の家の子も見たいに、『お父さん』と呼んでみたかった。

 そして、それすらも禁じられた。

 私はただの人形。

 父に操られ、命令をされれば簡単に行う。

 そんな、父の傀儡。

 ……の筈だった。


 あれは確か入学式の日だった。

 貴族の代表として、入学式の挨拶をさせられた。

 正直、前に立って話すのなんて初めてで、緊張もした。

 そのせいで、セリフも噛みまくった。

 それで、後になってお父様に散々殴られた。

 だけどそれはいつものことだった。

 だから慣れていた。

 あぁ……私はこうされるために生きているんだ……という考えさえ生まれた。

 そんないつもの暴力は、その日はたったの3発で終わっていた。

 私は怖くなって目を開けた。

 すると目の前には、今にも殴りかかりそうなお父様と、それを全力で阻止しようとするグリムの姿があったんだ。

 あの瞬間、私はやっと……少しは……自分という人間を解放できるようになったんだ。

 そしてそれと同時に、あの人を助けようと思った。

 どんなことをしてでも、どんな犠牲をはらってでも、彼を助けて……力になってあげようと思った。

 そう思いながら私は学校を過ごし、丁度三年が経過していた。

 そんな中、お父様からある一言を告げられた。

 『転入生のアンドリューという男と決闘をしろ。そして勝てば、アンドリュー及びグリム・ウィザードの二人を退学にさせる』

 お父様が何を言っているのか分からなかった。

 ただ分かったのは、グリムの退学……これだけは阻止しなければということだった。

 アンドリューとの決闘が決まった瞬間、私は必死になって、アンドリューという男を調べ上げた。

 調べると、元A級冒険者だということが分かった。

 無論、到底太刀打ちできる相手ではなかった。

 だがそれはそれで良かった。

 私が負ければ、グリムの退学は阻止できる。

 代わりに、私が退学するだけで……

 私は、その時まではそう思っていた。

 だが、いざ本番となると退学の恐怖で足がすくんで、負けたくないという思いが強まってしまっていた。

 そして私は、スタート前から魔術を詠唱しておくという反側にでた。

 しかし、それすらも容易に対応された。

 上級魔術も何度も使った。

 それでも、それを上回る魔術を何度も叩きつけられ、完膚なきまでに打ちのめされた。

 結果、私は負けた。

 でも、これで良かったんだ。

 私が望んだことなんだから。

 そして案の定、お父様が私に近づいてきた。

 私は、泣くほどの罵倒をされた。

 周りからは非難の声がお父様へと飛んでいた。

 アンドリューは『それはさすがにひでえよ』とか言っていたが、私にはただの綺麗事にしか聞こえなかった。

 これは違う。

 あの時の助けとは違うんだ。

 そして、彼がきた。

 彼は飛んでくると、お父様の顔に向かって風の中級魔術をぶつけた。

 お父様は吹っ飛んでいったが、鬼の形相になってすぐに戻ってきた。


「自分の娘に、なんてことを言えるんだお前は!お前なんか父親失格だ!」


 そうグリムだ。

 グリムは、今まで見せたことのないような怒声で叫んだ。

 

「お前は……入学式の日にもいたな。確か名前は……」


「グリム・ウィザードだ!」


 これが私だけが知っている……いや、知っていた本当のグリム。

 

「どうだ?次は私と決闘でもしてみるか?青二才が!」


「やめなさい……」


 凍りつくような冷たい声で先生が言った。

 先生は同時に、お父様の腕をきつく掴んだ。


「ぐっ……!」


 お父様は、痛々しそうな悲鳴を小さくあげたが、すぐに先生へと向き直り、言った。


「教師ごときが、貴族である私に対してその口の聞き方はなんだ!?」


「我が校では、身分の違いによる差別というのは禁止されています。それ以上勝手なことをされますと、騎士団本部が動きかねませんがよろしいですか?」


「ぐぅっ……わ、分かった……」


 先生は脅し口調で尋ね、お父様を黙らせた。


「カーナぁー!」


 突如後ろから叫び声が聞こえ振り返ると、泣きながらルーナが、走って近づいてきていた。


「うわぁっ!」


 ルーナは勢いのまま、私に覆いかぶさり抱きついてきた。


「何もされてない?暴力とかされてない?」


 ルーナは焦りながらも、聞いてきた。

 私が首を横に振ると、カーナの顔は一瞬のうちに眉を顰めて怒りの形相へと変わり、お父様を睨みつけた。


「あんた……殺すよ」


 ルーナからでた、たった4文字の怖い発言。

 それはもう、いつもの明るいルーナではなかった。


 私は急いでルーナに訂正を入れ、首を横に振った。


「私は大丈夫だよ!怪我も一つもない」


 そう言うとルーナは、安心したかのようにホッと息を吐き、胸を撫で下ろした。


「これで一件落着だな」


 後ろからアンドリューが声をかけてきた。


「何偉そうに言ってんのよ」


 私はそう反論した。

 

「まぁでも、誰も怪我がなくて良かったよほんと」


「全力の上級魔術を数発打ってきた奴には言われたくないわよ」


 アンドリューは、『悪い悪い』と言っていた。

 それに対してルーナがクスッと笑った。

 私も連られて笑ってしまった。

 ついでにアンドリューも笑い出した。


 ワハハ!ワハハ!と笑いが生まれ、険悪な雰囲気は一瞬にして消え去っていった。






ーその後ー






 カーナの一件が片付き、俺達は一旦集まることになった。

 カーナの父親だが、長期間に渡る虐待や差別やら命令を繰り返していたことがバレ、そしてそれが法に触れる行為だったということで、無期間の追放が言い渡された。

 勿論のこと、カーナは無事だ。


「それじゃあ俺達にした決闘も全部、命令されてやったことだったのか?」


「うん。迷惑かけて、本当にごめんねグリム」


 おい、俺には?


「俺にはないのかよ?」


「あんたには……ほ、ほら!私に上級魔術を何発も打ちこんだでしゃ!だからお相子よ!」


「何だそりゃ……」


 俺は呆れたようにため息をついた。


「それにしてもお前、これからどうするんだよ、住む場所も無くなっちまったんだろ?」


 カーナの父親は、自分が追放される前に予め、自分の家を売り払っておいたんだ。

 だからカーナは今、家がない状況にある。


「ごめんカーナ、実は僕も家がなくて森で暮らしてるんだ。だから家を貸してはあげられない」


 グリムが事情を話した。


 そうだったのか。

 ならいっそのこと、カーナも森生活を混ざらせてもらえばいいんじゃね?


「ごめんね。実は私も宿通いしているんだ。だからダメそう……」


 ルーナは申し訳なさそうに、顔を俯かせて言った。


「最後は俺か……まぁ、俺は宿屋の個室を一つ貸し切らせてもらってるんだ。何でかは言えないが、狭くていいならいけるがどうだ?」


 俺という慈悲の女神がいて良かったな、カーナ。

 俺がいなきゃ、お前は今頃野宿でもしてたんだぜー!


「あんたなんかに頼んでないわ!で、でも……良いって言うのなら、入ってあげてもいいけど……」


 こっちは慈悲をこめてやってやったってのに……こいつ……


「じゃあいいや。今の話はなしだ」


「え!?ちょっと待った!」


「何だよ、頼みごとがあるなら自分で正直に話せよ」


「えっと……その……」


 この、手名付けるのが困難な獣を、容易に服従させれる側になれるってのは、なかなか良いものだな〜!


「わ、私を家に泊めていただけないでしょうか?」


 最後にギッ!と睨まれたような気がしたが、まあいいか。


「まぁ、入れさせてやってもいいかな〜」


 俺は気分良さげにそう言って、カーナを上から見下ろす。

 カーナは悔しそうな表情を浮かべながらも、少し照れくさそうにしていた。

 人に頼み込むってのは、初めてなんだろうな〜。


 そして、カーナの一件はこれで幕を閉じた。


 

 


 

 

 

読了ありがとうございました。

できれば感想なども宜しくお願いします。


※これまでの話で分からない点なども感想で記入してもらって結構です。

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