第20話 無属性魔術師
「本当何ですか!?グリムが無属性魔術師だなんて!」
カーナは驚き、レイスに問いただした。
声には出さなかったが、他の二人も同様に驚いていた。
「はい。ですが、よく思い出せばわかりませんか?魔術の実践訓練の時、グリムは誰よりも速く魔術起動を行っていたじゃないですか」
「そう言われれば確かにそうね・・・」
「凄いじゃないグリム!何で今まで黙ってたのよ!?」
ルーナがグリムに問いただした。
「いや、僕も知らなくて・・・ただ無意識でやってたから」
無意識ってことは、自分じゃ気づかなかったってことだよな。
じゃあもしかして俺も気づいてないだけで!
・・・・ってそんなわけないか
「グリムはその影響で風の魔術しか使えないんですよ」
「でもさぁ、先生はそれを知ってたんでしょ?だったら何で教えてあげなかったんですか?」
ルーナはレイスに問いただした
「じゃあ聞きますが、皆さんは無属性魔術師が重宝される本当の理由を知っていますか?」
「それはー、魔術が凄いからじゃないんですか?」
ルーナは答える。
「それもそうですが、更に大きな理由があります。それはー」
レイスが言いかけたところで、カーナが答えた。
「ー"人体実験の被験者にされる" でしょう?」
「よく知ってましたね」
「家柄の影響で、こういう黒い話はよく耳に入ってくるのよ」
「人体実験の被験者ってどういうことですか?」
好奇心が出てしまい、俺はつい質問をしてしまった。
「まずですが、無属性魔術師は別名【不死の肉体】と呼ばれています。その理由は、どんな怪我を負っても時間さえ経てばたちまち治ってしまう生命力にあります」
「無属性魔術師はそんなことができるんですか?」
「できます。傷の具合にもよりますが、軽めなものならほんの数秒で治ってしまいます」
そりゃあ凄え。
それにだいだいの話は分かってきたぞ。
そんな力があれば悪用する奴は必ず出てくるってわけだ。
「しかし逆に、その生命力を悪用しようとする者もいます。それが【禁忌の魔術師】と呼ばれる巨大組織です」
「禁忌の魔術師?」
「魔術の高みを目指すためならなんだってするクズの集まりですよ」
そりゃあ怖いな。
くれぐれもこの国の近くにはいませんように!
「こいつらは、無属性魔術師を中心とした優秀な魔術師達を捕まえては殺したり、そいつら同士で殺し合わせたり、更には脳を取り出して研究したりだとかをしてると言われている」
「だからくれぐれもグリムの事を、この中の誰か以外に話してはいけないよ!」
(じゃあ言うなよ)
「あ、あの・・僕って殺されちゃうんですか?」
(ぐわー、きつい質問来たな。さぁてどう答えるんだ?)
「大丈夫です、そんなことはありません。仮にそんなことがあったとしても、我々が守りますから安心していいですよ」
「それは本当何ですか!?そう言える確証はあるんですか!?」
ないだろうけど、ここは怖がらせないためにも「ある」って言うんだろうなー
「ありませんね」
(おいっ!)
そこはあるって言う流れだろーが!
「そんな・・・・だったら僕はどうすれば」
「教師としてこんな事を言うのは気が引けますが、貴方も騎士を目指す者なのならば、もう少し自分でなんとかしようと思えるようになりなさい!」
「うっ・・うっ・・・」
(おっ!泣くのか?)
泣いたらこの教師に『それでも人間ですか!?』って怒鳴ってやろー
「うわーー!」
やはり泣き出した
そしてそれとほぼ同時に、俺は予め決めておいた言葉を出そうとした。
しかし・・・
「そ・・・・」
「それでも男!?」
突如カーナが、俺の言葉を遮って怒鳴った。
「少し先生に言い返されただけで泣き出すなんて、騎士を目指す者同士として恥ずかしいわ!」
(あーーーー・・・)
俺はグリムの顔を見た。
今にも涙が噴き出しそうなくらいに目元も顔も真っ赤っかになっていた。
「カーナ・・さん・・さすがに言い過ぎじゃあ・・・」
「何!?当然の事を言っただけじゃない!文句あるわけ!」
「い、いえ・・・ないです・・」
(ヒエェーーーー!!)
「それにあんたもよ!」
「お、俺?」
「自己紹介は立派だったけど、今思えば拍子抜けね!女に怒鳴られたくらいでビビって音をあげるなんて。あんたもそいつもただの臆病ものよ!」
(確かに俺はビビってたかも知れない。だけど何でそんなちょっとの事でそこまで言われなきゃならないんだ?男だからどうこうなんて関係ないだろ!)
なんかムカついてきたな・・・
俺はカーナを強く睨んだ。
「何よその目は!言いたいことがあるなら何か言いなさいよ!魔術師としてだけじゃなく、人としても私より低レベルなのね!」
「・・・・・・」
俺はただ睨んでいた。
「それとも何よ?あんたは私よりも優れているとでも言いたいわけ?何なら魔術で勝負でもしてみる?まぁ、あんたにそんなことする勇気なんてないでしょうけどね」
(いや、ありますけど?)
「いいぜ、その勝負やってやるよ」
「えっ・・・?ほ、本気で言ってるの!?」
「あぁ、ただしお前が負けた場合、"俺とグリムを臆病者呼ばわりしたことを訂正しろ"!
「言いわよ。だけど、もし私が勝ったら貴方達二人には『四天』から抜けてもらうわ」
「分かった」
「勝負は明日の日没。ここから西の、三キロほど離れた草原よ。まあ何か目印でも付けておいてあげるわ」
「明日の日没?今日じゃなくて?まさか怖気付いたのか?」
俺はカーナに挑発をした。
「何だとっ!?」
カーナは怒りをあらわにした。
「まあまぁ、喧嘩はもうその辺にして。勝負は明日何ですから。というかその勝負、我々も見学に行っていいですよね?何なら私が審判役をしましょう」
横からレイスが俺たちを制した。
「分かりました。じゃあ先生には審判役をお願いします。これでもうあんたは逃げられないわよ」
「お前こそ、勝負の前にビビって小便漏らすなよ?」
俺たちはお互いに挑発し合っていた。
「誰がするかっ!ふんっ!」
そう言ってカーナは席に座った。
「か、カーナちゃん・・さすがに言い過ぎじゃない?」
ルーナはカーナに問う。
「あいつらが悪いのよ。まぁグリムにはちょっと言い過ぎたかもだけど、あのアンドリューとかいう奴は前々から気に食わなかったのよ。何だか、いつも"本心を言ってない"ような気がするのよね」
「本心を言ってない?」
「えぇ、あいつの言葉一つ一つが嘘に見えるのよ。言い合いをしてた時はまだしも、最初の挨拶の時とかは全部」
「そうかな?私はそうには見えなかったけど・・・」
ー放課後ー
「やっと終わったか・・・」
あれから、学食を食ったり授業がまたあったり、実践的訓練もしたり、色々な事をした。
そして今は全てが終わり、学校から出ようとしているところだ。
(さてと、帰るか)
その時、
「あ、あの・・・」
突然後ろから声をかけられ、俺は振り向いた。
そこには一限目に泣いていた【グリム】がいた。
「どうかしたか?」
「そ、その・・今日は僕のせいであんなことになってしまって、すみませんでした」
「いや、いいって。だってあれは俺の意志でやったことだし。それに、あのカーナって奴には俺もムカついてたから」
俺はそう言って、静かに表情をこわばらせた。
「あとですね・・その・・こんなことがあった直後で悪いんですが、僕と友達になってくれませんか?」
「えっ?あぁ、そんなことくらいならいいけど・・・」
(というか俺、まだ友達認定されてなかったのか?)
クラスメイトになれば、もう友達なのかと思っていた・・
「それじゃあまた、明日からよろしくな!」
そう言って俺はグリムと別れた。
ーシーベルト家にてー
「聞いたぞカーナ、新入生と決闘をすることになったそうだな」
「は、はい・・ですがそれはお父様が・・・!」
カーナは父と会話をしていた。
「何か問題でもあるのか?」
「そ、それは・・・」
「我らシーベルト一族が、負けるなどまずありえんだろう。だが、もし負けた際にどんな処罰が待っているか、それは勿論分かっているんだろうな?」
「負けた際の処罰は分かっております・・それでも、新入生で来たばかりの彼や、昔から仲良くしていたグリムを、退学にさせるというのは・・・私にはできません・・・」
「そうか、なら負けるといい。ただその場合、お前は罰を受ける・・・いや、ここは言い方を変えよう。お前は退学になる!」
「・・・・・・」
(分かっていた・・お父様のいう罰というのが、この学校から退学させられるということなのは・・)
カーナは表情を歪ませていた・・
「考えるといい。単純な実力なら、お前が圧倒的に上回っているのだからな。まぁしかし、これは実力の勝負ではなく、判断力の勝負とも言えるのかもしれないが・・な・・・」
カーナの父はそう言って、部屋を後にした。
「私は・・どうしたらいいの・・・?」
カーナは頭をかかえていた。
読了ありがとうございました。
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