第19話 緊張
ここは聖騎士学校。
聖騎士の見習いが、聖騎士となるために学びに来る場所である。
そして俺は、この聖騎士学校に入学しに来た。
(入学と言っても、一年間だけの転入で来たんだけどな……)
「ようこそ、アンドリュー様。お待ちしておりました」
俺を迎え入れてくれたのは、この学校の校長であるウォック・リズリーだ。
「こんにちわ、今日からお世話になるアンドリューです。宜しくお願いします」
俺達は挨拶を交わし合い、そのまま学校へと入って行った。
「このまま廊下を真っ直ぐ行くと、教室がありますので」
「分かりました」
そう言って俺は廊下を進んだ。
そして、少し進んだ所で一人の先生が声をかけてきた。
「こんにちわ。貴方が転入生のアンドリュー君ですね?」
「はい。ですがその……失礼ながら、貴方は誰でしょうか?」
(誰でしょうかってのはさすがに失礼すぎたかな…)
「失礼しました、私はアンドリュー君の担任を務めるレイス・ランスです」
(た、担任だって!?)
「そ、それは失礼しました!」
「いえいえ大丈夫ですよ!それよりも、これから貴方の紹介を始めるところだったんですよ。なんで、早く教室に入っちゃって下さい!」
「分かりました」
そして俺は先生に、合図が来るまで教室の前で待っていてくれと言われた。
どんな事を言ったらいいのかな?
【この度、この学校に入学させていただきます、アンドリューです。これから約一年間、宜しくお願いします!】
みたいな感じでいくか!
「入ってきていいよ!アンドリュー君!」
「はい!」
そして俺は教室のドアを開け、中へ入った。
中にはレイス先生とあと、生徒が三人いた。
そして全員の視線は、俺へと送られていた……
(うわっ!皆が俺を見てるよ、緊張するなー……)
大丈夫だ……台本通りにいけばきっと問題はない!
そうして俺は、予め考えておいた言葉を言った。
「この度、この騎士学校に転入生として入学させていただくことになりました、アンドリューです。これから、約一年間ほどですが、宜しくお願いします!」
(よしっ!出だしはバッチリだ!)
なんとか噛まずに言うことができた。
ただやっぱり、人の前に立って話すってのは緊張するな……
俺の挨拶が終わり、次は他の三人の自己紹介が始まった。
最初は、一番奥の席に座っているやつからだった。
一人目は【ルーナ】という女だ、明るい感じで比較的喋りやすそうだ。
二人目は【カーナ】という女だ、明るめだけど勢いがありすぎて喋り辛そうな感じだな・・・
三人目は【グリム】という男だ、喋り方がぎこちなくて、小さい頃の俺を見ているようだった。
ただ、なんとなくだけど悪い気はしなかったな。
俺は頭の中で、淡々とこの三人の事を分析していた。
これを見れば冷静かに思えるかもしれないが、実際には違った。
アンドリューは、『超絶』緊張していた。
(最初の挨拶まではよかった・・だけどなんだよあの返し方は!もうちょっとすんなり「はい」と言えないかなぁ!?この『人見知り』は治ったと思っていたが、まだまだみたいだ・・・)
「それじゃあ挨拶も終わったみたいだし、早速授業をはじめて行こうか!アンドリュー君はグリムの隣の席に座ってね」
「分かりました」
俺はグリムの隣の席に座った。
(な、なんか話した方がいいのかな・・・?あっでも、気持ち悪いとか思われたりしないかな・・・)
顔は平常心でも、心は心配で仕方がなかった・・・
それから、授業が始まった。
一限目は、『魔術』起動時の魔力の流れ方についての説明だった。
俺も知らなかったが、『一般の魔術』は"魔力をある中心に向かってそのまま直進させて行き、中心に集まった魔力の塊を、流れに逆らわないようにして固めていくことでその魔術の原子ができるそうだ。
そして、その原子と原子をさらに合わせていくことで、魔力の分子(魔術)が完成する。
ちなみにだが、魔力を流す時に方向を間違えると失敗するそうだ。
そして、魔術における詠唱というのはさっきの、魔力を流し固める工程をやり易くするためのものだそうだ。
ただ、中に極稀に詠唱を無しで魔術起動をできる者もいるらしい。
それのメリットとしては、詠唱をする場合は"その詠唱が完了するまで魔術起動はできない"が詠唱無しの場合は、魔術起動をすきなタイミングで行える。(魔術起動の時間は、術者の魔力を流すスピードが速いほどに短くなる)
魔術の位だが、高度なものになればなるほど必要な魔力量や技術力が必要とされ、難しいそうだ。
さっき言ったが、極稀に詠唱無しで魔術を行える者がいるが、その更に極々稀に、魔力を原子にせずに分子の状態から作りだすことができる者もいる。
そんな奇怪な力を持つ者達は、『一般では』無属性魔術師と呼ばれているそうだ。
「ちなみにですが、このクラスにもその無属性魔術師の子がいます」
「えっ!」
「うそっ!」
女二人が驚きの声を出している。
そして俺は、隣に座っているグリムの方を向く。
相変わらず、こいつは何も言わないんだな。
(俺も言えねえけど・・・)
・・・っと、違和感があった。
それは、グリムが顔を赤くしていたことだ。
(体調が悪いのかな?でも、さっきまではそんなことなかったのにな・・・あっ・・・)
そして俺は、一つの結論に辿り着いた。
まさか・・こいつ・・・
そして先生が、無属性魔術師の名を出す。
それは、案の定予想していたやつの名前だった。
「それは・・・【グリム】です!」
その瞬間全員の視線が、グリムの方へと集まった