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冒険記録-世界を救う30年間-   作者: 鮭に合うのはやっぱ米
プロローグ
2/71

第1話 朝のミルクと大人のワイン

「ぐあぁぁぁぁぁーー!」


 早朝一番、眠気混じりの声を出しながら、体をグーッと伸ばして起き上がる男がいた。

 そんなだらしない男がいるとは!なんて奴だ!


 ……と、それは俺だ。


 寝ぼけた目をこすりながら、横に置かれた時計で時刻を確認する。

 そんな、王族らしからぬ行動を日常的にとっている男がいた。

 

 ……それも俺だ。


 なんて冗談はさておき、俺は少し焦っていた。

 

「八時……だと……」


 いつもなら六時には起きれているはずなのに、今日はもう八時だった。

 くそ!

 今日の六時からやってるテルビ番組が見たかったのに!


 そして怒っていた。


 まぁ、既に終わった物をつべこべ言っていても仕方がない。

 

 そして冷静になった。

 

 俺は朝のルーティーンをするべく、冷蔵庫に向かって歩き出した。

 冷蔵庫を開けると、ヒンヤリとした冷気が部屋中に入ってくる。

 そんな冷気まみれの空間にある飲み物や食べ物は、キンキンのカチカチに冷えているに違いない。

 俺はその中にある、キンキンに冷えた「あれ」へと手を伸ばした。


「ビクッ」


 これは効果音だ。

 鳥肌がたった……


 「あれ」に触れると、触れた先から一気に冷たくなった。

 触れた掌は、既に真っ赤っ赤だ。


 偏見かもだが、王族は飲み物を飲む時、普通はコップに注いでから飲むものらしい。

 一般家庭もそうかもしれないが……


 だが俺は、「あれ」をコップに注ぐことなく、そのまま口の中へグイッと流し込んだ。

 片手を腰に当て、もう片方の手は「あれ」を持ち、中身を口の中へ流し込む。

 腰を少し反らせるようにして飲むのがポイントだ!


 それと、これは風の噂みたいなものだが、第三者から見たその光景はまるで、銭湯上がりのおっさんのようであったらしい。


「くぅぅぅぅー!はぁぁぁー!やっぱこれだよな!」


 気持ちの良い朝に飲む「あれ」といえば、やっぱり「大人のワイン」!

 ……ではなく、キンキンに冷えた「牛乳」なんですよね。

 まぁ文句たらしく言ってはみたものの、これはこれで普通に美味いんだよな。


「あー……」


 思えばあの日も、こんな感じの朝だったっけな。

 あの日さえなけりゃ、俺は今頃、見たかったテルビ番組を見れていたのかな……

 そんなしょっぼい名残を思いながら、俺はあの日を振り返る……



---三年前---


 それは、今から三年前。

 その時の俺はまだ7歳で、英才教育ってやつを受けていた。

 そして、さっきもちらほら話していたが、俺は王族であった。


 俺がそれまで住んでいた国はサーバック王国。

 俺はその国の王様の息子として、「王権争い」、つまりは次期王様を決める争いに参加させられそうでいた。

 ただ、俺の年齢的に若すぎるとのことで、それが行われる事はなかった。

 

 そんでもって、俺もそんなのに参加する機は毛頭なかったので、事前に父さんに事情を伝えておいた。

 

 ちなみに、俺には一人の兄がいます。

 俺は王権争いに参加しないので、次期国王は兄でほぼ確定しています。


 まぁ、俺の事情はこんな感じだ。


 話しを戻すが、その日は今日のように気持ちの良い朝であった。

 そしてやけに、外が騒がしい朝でもあった。


 俺が起きて数分したくらいだったか、部屋のドアが勢いよく開いたかと思えば、俺の専属メイドが急ぎ足で入ってきた。

 このメイドの名はシェリア。

 俺の専属のメイドで、才色兼備・静寂閑雅を兼ね備えた完璧超人であった。

 特に、この水色の髪がとてもチャーミングで素晴らしい!

 ベリーグッドだ。


「どうしたんだ?」


 そんな彼女がやけに焦っていた。

 ただごとじゃないと察知した俺は、彼女の胸元をガン見しながらどうしたのか尋ねた。


「簡潔に話しますと、スカリー様による《クーデター》です。裏庭から避難しますのでついてきてください」


 簡潔にまとめられつ重要な部分をしっかりと含んだ情報の素早い伝達、流石だぜ!


 そうして俺はシェリアの指示の元、裏庭へと走って行った。

 シェリアは俺の走るスピードに合わせてくれてるみたいで、なんか申し訳なかった。

 こういった気遣いって、普通は男女が逆なんだよね?

 エスコートとか、俺には無理っぽいわ……


 俺は自身の不甲斐なさを痛感した。



---裏庭---


 裏庭に着いた俺達を待っていたのは、地獄のような光景だった。


「何だ……これ……?」


 本で見た、戦争ってやつと似ている。

 銃声、悲鳴、叫び声、鳴き声。

 俺が住まう城の外は、既にぐちゃぐちゃの戦場と化していた。

 庭の周りを囲む柵の前では、必死に敵と戦う雇用兵の姿があった。


「くっ……そぉ……!!」


 俺がそんな光景に驚きを隠せずにいる中、シェリアはひたすらに隠し扉をこじ開ける事に専念していた。


 そして今、隠し扉が開いた。


 隠し扉は、地下通路へ通じる扉。


「さぁ、早く!!」


 シェリアはそう叫び、俺に手を伸ばしてきた。


 俺は手を掴み、地下通路へと進んだ。




---地下通路---


 この扉は、サーバック家の祖先が作ったとされる魔法の扉で、「一度開けたが最後、二度と開く事はない」と言われているらしい。

 もちろん出口にも扉はあり、地下通路を通っていけばいずれ辿り着けるのだそうだ。


 とりあえずは安心できそうな地下通路に着いた事で、少し気が抜けた俺は、何があったのかを色々と、シェリアに聞いてみることにした。


「スカリーが首謀者ってのは、本当なのか?」

「はい、間違いありません」


 マジか。

 スカリーってのは、さっき言った、俺の兄で、マウントばかりとってくるクソムカつく野郎だ。

 あいつならやりかねないとは思ったが、まさか本当にクーデターを起こすとはなぁ……

 正直ドン引き。


「父さんはどうなったんだ?」

「ルーク(父さん)様には、他の護衛が付いていますので安心してください。今頃、別の出口から逃げられているはずです」

「そっか」

 

 聞いといてだが、どうでもよかったな。

 つまんねぇの。

 なんならいっそ、ここで死んでくれれば楽だったのに……


「……坊ちゃん?」

「あ、悪い」


 顔に出てたか。

 ダメだダメだ!


「あ、見えてきましたよ!!」


 シェリアが元気よく前方を指さしながら、そんな事を言った。

 見ると、その先の天井から、光が漏れていた。


「出口か!!」


 そう、出口だった。

 

 シェリアは、光の漏れた隙間に手を差し込み、扉をこじ開けた。


「結構綺麗だな」


 先祖が作ったとは思えないような艶のある扉だった。

 これも先祖のかけた魔術ってわけか。


「時間操作の魔術とかかもしれませんね、正直信じられませんが」


 よく分からんが、まあ先祖は凄かったんだろう。


 そうして俺たちは、扉の外へと出たのだった。


「それでは、次はあそこに行きましょう!!」


 シェリアは、扉から出てすぐ奥にそびえ立つ、巨大な森を指差していた。

 

「……まさかシェリアさん、あれの中に入るとかいうんじゃないですよね?」

「そうですけど?」


 即答されてしまった。

 

 嫌だー!

 あんな不気味な森、入りたくないよー!


 そうして俺達は、魔物でもいそうな雰囲気の、不気味な森へ、入ったのだった。


---グランデの森---


 俺達は、森の中を歩いていた。

 たくさんの木々で天井が覆われているせいで、森の中には光がまともに入ってこなかった。

 そのせいで、余計に不気味な雰囲気を醸し出していた。


「ぶぶぶぶばばぶぷぶぶぶぱぶぶぶ」


 俺は恐怖で唇を震わせながら、奇妙な音を発していた。

 これで大抵の魔物は怯えて退散するだろう。


 そんなビビり散らかす俺を後に、シェリアはというと…….


「……えっと、次はこっちですね。その後はこっちを右に行きましょう」


 全然怖くないんですね、分かります。

 同じ人間のはずなのに、象と蟻くらいスペックが違う気がする……


 そうして、何事もなかったように、シェリアは森の道案内をしていた。


 でもまぁ、こんな勇敢なメイドが一緒なら、俺も恐怖心なんて吹っ飛び……


「んっ!」


 俺はそんな声を出していた。

 見ると、シェリアが俺の口元に指を当てていた。


 「黙れ」と言ってるんですね。

 まだ俺、一言も喋ってないけどねハハハ。


「……私の後ろに隠れて」


 シェリアはそう、小さく呟いた。


 そして……

 

「「ガルルルルルルルル!!」」


 それは、数匹の獣の鳴き声であった。

 薄暗い森の中を、緋色の眼光が走る。


 間違いない、あれは─────


「─────《魔狼ローウルフ》ですね」


 《魔狼ローウルフ

 魔気を宿した、特殊な個体の《おおかみ

 鋭い牙と、緋色の眼光が特徴。

 群れでの行動を得意とし、知能もそれなりに高い。

 そして、好戦的である。


 ……と、昔本で読んだ。

 

「いけ、俺のメイドシェリア!」


 俺は、メイドトレーナーとして旅を続けるアンドリュー!

 メイドマスターになる為に、たくさんのメイドを集め、調教するんだ!!


 と、冗談はさておき君達、シェリアの力を甘く見てはいけない。


 まぁ、何も知らない人が見れば、この光景はただただ無謀に死ににいくだけのように見えるだろう。

 だが、俺はシェリアの実力をよく知っていて、そして認めている。

 あいつは、メイドなんて役職におさまるっていい器じゃない。


 シェリアが動いた。

 《魔狼》の目の前まで一瞬で移動すると、次の瞬間には……


「はぁっ!!」


 そんな発声と共に、シェリアの拳が《魔狼》に届いた。

 そしてまた、次の瞬間には、シェリアの拳は《魔狼》の顔面にめり込んでいた。

 そして……


 パコンッ!


 空気が破裂したような音と共に、《魔狼》が吹き飛んだ。

 

 シェリアはすぐさま、次の標的へと視線を移した。


 その様子はまるで、ゾウ対ライオンのようであった。

 どちらも食物連鎖の上位に位置する存在でありながら、そんな二体の差は大きかった。

 《魔狼》は思っただろう。

 狩る側であったはずの自分達が、いつのまにか狩られる側になっていたと。


 そしてそれは当然のことだ。


 何せシェリアは、世界最強と謳われる《聖天騎士団》の最高戦力と言われる《騎士団長》クラスに引けをとらない実力を持っている。

 その正体は、元Sランクハンター。

 それは、世界でも10人いるかいないかと言われる程の存在だ。


 そこらの魔物じゃ、勝ち目はないだろう。


 だからこそ、それを理解した今だからこそ、奴らは考えて戦ってくる……


 俺は《魔狼》の知能の高さを知っていた。

 だからこそ、周りを警戒して奇襲を避けていた。

 それは今も同じだった。

 だけど、それは失敗した。

 

「……あっ!!」


 俺は、ようやく気がついた。

 魔狼は知能もそうだが、圧倒的な身体能力で、捕食者の上位に君臨している。

 そんな奴らが、木の上を登れないわけがなかった。

 

 そう、《魔狼》は木の上に潜んでいた。

 ……いや、今はもう降りていた。

 それも背後から、シェリアに向かって突進しながら……


「後ろだ、シェリア!!」


 シェリアは、俺の呼び声で振り向いたが……


「シェリアぁ!!」

 

 振り向き様のシェリアの腕に、《魔狼》が噛みついていた。




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