第16話 親切
「ここは一体……」
周りには木がわんさかある。
……どうやらここは森のようだ。
「どうなってんだ?さっきまで俺はシェリアと一緒に草原を歩いていた筈だけど……」
……そういえばシェリアはどこいったんだ?
確かここに来る前に…シェリアが俺の名前を叫んできたんだ。
それから…目を覚ますとここにいたんだ。
「それにしても……これからどうすりゃいいんだ?シェリアがいれば何とかなったかも知れないけど、俺一人でどうにかするには無理があるよ…」
とは言ったものの、実際本当にどうすりゃいいのか分からん。
昔シェリアと森に逃げて来た時は確か……まず焚火をしていたな。
「ボワッ!!」
俺は初級の火魔術を使って火をおこした。
「あの頃はバカにしてたけど、なんやかんや使い勝手の良い魔法だな!」
……ところで、俺は今リュックの中に"食料"と"金"をいくらか持っている。
「これだけあれば一月は生きれるだろうけど……その後が心配だな」
その為にも、一刻も早くこの森から抜けなければな。
出発はとりあえず明日でいいか。
「今日はぐっすり寝てよう……」
ー朝ー
「ガルルルル…………キィェーー!!」
「うわっ!何だっ!?」
まさか魔物か!
ここが森だという事をすっかり忘れてた……。
俺は咄嗟に杖を持ち、立ち上がった。
「………………」
しかし、周りに魔物の姿は全くなかった。
「聞き間違えか……?」
そうならいいんだけど…"何か違和感"を覚えるんだよな……
そんな事を思いつつ俺は前を見る。
……明るい!
「光だ!」
暗き森の中を照らすかの如く、光が差し込んでいた。
てことはこっちに出口が近いのか!?
だとしたら一刻も早く行かなきゃな!
「うわーーー!」
俺は杖を持ったまま、全速力で光に向かって走り出した。
もう少しで……もう少しで出口に!
「ガチャン!」
俺は光にたどり着いた。
しかし、それと同時に大きな金属音が地面に響いた。
そして俺の目の前には……
「…………はっ?」
銀色の檻があった。
周りを見ると、檻は俺を囲うように配置されていた。
というか、俺はどうやら閉じ込められてしまったようだ。
「あの光は、俺を誘い込むための罠だったわけか……」
そんな事を思っていると、奥の方から魔物が何体も出てきた。
「キッキッー!……グウィッ!グウィッ!……シャッシャー!……」
魔物のいろんな鳴き声が聞こえて来る。
猿の様な魔物・トロル・巨大なトカゲの魔物など様々であった。
魔物達は弓を使い、檻の隙間から矢を放って来た。
「こいつら…ズルい戦い方しやがるな」
そう言いつつも、俺は内心あんまり焦ってはいなかった。
何故なら俺は、こんな事もあろうと鉄のナイフを買っておいていたんだ。
「これがありゃあ、こんな檻簡単に切って脱出できる!」
俺はすぐに檻の柵に向かって行った。
そして柵を簡単に切り、脱出を試みた。
「良し、切れた!これで脱出できる!」
俺はすぐに檻から出て、森の奥地へと走り出した。
走る途中で魔物達が攻撃してくると思っていたが、魔物達は攻撃するどころか、俺から逆に離れだしていた。
それはまるで、俺をある所へと誘い込むかの様に。
しかし、その時の俺はそれが罠だということには気づけていなかった。
そうしてそのまま俺は、森の奥地へと進んでいった。
魔物達が見えなくなるまで進んでいった時、目の前が突如、紫色の空間になった。
「これは……見たことがある。」
確か俺が、獣王とかいうやつと戦った時の事だ。
その時もこんな風に紫色の空間に包まれていた。
空間と言うよりは、どちらかというと煙のような感じだ。
ロインが前に言っていた、魔族特有の高濃度な魔素の影響だとか。
「てことはこの近くに魔の巣があるという事か」
前みたいになりたくはないな……
「……待てよ」
俺は気づいてしまった。
人の国は魔の巣からは離れた場所にある。
なら、魔の巣とは逆向きに進めば人の国にたどり着けるんじゃないのか?
「そうと決まれば、早速逆向きに行こう!」
……と、一人で寂しく言っています。
……そんな時!?
「タンッ!……タンッ!……」
地面を歩く足音が響く。
「あぁ……あ……うぅ…」
俺は咄嗟に振り返ったが、その者の圧倒的なプレッシャーに押し潰されそうになり、動けなくなっていた。
何なんだ?
何が起きてるんだ!
俺の前にいるやつは一体何なんだ?
あまりのプレッシャーに、恐怖と緊張で死にそうになる。
「怖い……恐い……誰か…」
俺は恐怖心を押し殺し、その者の顔を見ようと顔を上げる。
「あ……あぁ……」
人型の魔物だった。
肌は青紫色で、頭には角が二本生えていた。
鬼族というやつだろう。
髪はトゲの様に鋭く、口には全てを噛み砕けそうな豪傑な歯が生えていた。
腕や脚は人とあまり変わりは無かったが、どんな人間も敵わないと思える程の筋肉のついた逞しい身体だった。
俺はそのあまりの見た目とプレッシャーに…………思わずちびってしまった……
そして俺が立ち尽くしていると、鬼族の男が喋る。
「お前…中々の魔力を持っているじゃねぇか。大魔術師:ラムラにも引けを取らねぇ量だ」
鬼族の男はそう言って、俺の前まで来ると立ち止まりまた喋りだす。
「ん?どうした?まさか俺様の圧にビビって動けねぇのか?」
「…お……お願ぃ……しますぅ……殺さないで…ぐだざぁい……」
俺は怖すぎて、気づくと泣いていた。
「はっはっは!安心しな。強いやつ別だが、ガキとやりあう気はねぇよ。さっさと帰りな」
「うぅぅ……ひっぐぅ……ひっ…ひっぐ……」
「あー!クソッ、泣くんじゃねえ!………そうだ!俺が森の外まで連れてってやるから、早く泣き止んでくれ!」
「う……うん……」
恐ろしい顔だったからビビったけど……案外優しかったやつか?
「はぁ……俺様ともあろう者が、何やってんだか……」
いつもの俺様ならこんな親切に返してやるなんて事はしないんだけどな……
400年前の戦争じゃ、魔族と共に人間を殺しまくったってのに……
「あ、あの……森の外まで連れていくっていっても、どうやってやるんですか?森には魔物がうじゃうじゃいるし……」
「あ?そんなの簡単だ。魔物が怖いってんなら、森の上を跳んで移動すればいいんだ」
このガキ、何そんな事に驚いてんだ?
「跳ぶ!?鬼族は空を跳ぶこともできるんですか?」
違えよ!
……馬鹿なのかこのガキは?
「鬼族が空なんて跳べるわけないだろ?跳ぶってのは、木を土台にしてジャンプして行くって意味だよ」
「は……はぁ…」
もうわけが分からん……
いくら鬼族でもそんな大した事できるわけがないってのに……
まあでも、とりあえず頷いておこう。
「じゃあ行くぞ!」
そう言うと、鬼族の男は高く跳び上がり軽々と木を超え、木の上に着地した。
「なっ!?そんな訳が!?」
俺が驚いているのなんてお構いなく、鬼族の男は木を土台にし、更に高く飛び上がった。
「うわーーー!?こんなことがありえるのかよ!」
鬼族の男は、一っ飛びで20メートル近い距離を跳んだ。
それも、徐々に加速していきながら……
「どんどん速くなって行く……」
これが鬼族なのか!?人間が敵うわけがないよ……
そしてあっという間に森を抜けた。
鬼族の男はそのまま平坦な地面に着地をした。
「ぶわぁっ!」
当然ながら風圧というものは凄まじく、俺は顔の皮膚が全部吹っ飛んでいくかと思うくらいの衝撃を受けた。
「着いたぞ。ここで下ろすけどいいな?」
「あ、ありがとう……あ、あの一つ聞いてもいいですか?」
「何だ?てかお前、あんな魔物だらけの森に一人で入るなんて正気か?それとも何かわけがあったのか?」
「そ、それは……」
俺はこの森に来た経緯、何があったのかを鬼族の男に言った。
そして、ここがどこなのかという事も。
「なるほどな……まずここだが、ここは北の大陸の最北部。そんであの森は、リ・グランデの森って言って、この世界で2番目に危険とされている森だ。」
まじかよ……俺はそんなとこに来させられたってのか。
「それとだが、お前がここに来てしまったのはおそらく転移魔法陣を踏んでしまったからだと思われる」
転移魔法陣……初めて聞くけど、まあ名前的に転移させる魔法陣なんだろう…
「転移魔法陣ってのは普通の魔法陣と比べても段違いに魔力を使うんだ。だからお前が言ってた、"魔力を感じた"ってのもそのせいだろう。問題は、誰がなんのためにそんなもんを設置したのかってことだ……」
このガキの話を聞くには、魔法陣の場所は南の大陸の南部だって事だ。
そんなところかはこの北の大陸の北部にまで魔法陣を繋げるなんてのは、相当な技量と魔力を必要とするだろう。
正直、そんな馬鹿げたことをできるのは魔王や神の称を持つような奴らだろうし……今現在でそんなことできるやつなんて正直思い浮かばねぇ……
「まあ何にしろ、お前はもうあそこに戻ることは無理だと思った方がいい」
……そっか、そうだよな…
あんなに優しくしてくれたあいつらとは、もう会えないのか……
「やっぱ悲しいか?」
「……まあそりゃ、悲しいよ。だけど、あいつらがいなくても、なんとかやっていかそうな気がするんだ。」
俺はあいつらのおかげで、人としての心や在り方を学べた。
教えてくれたんだ。
だから今の俺は、今までみたいにダメダメなままじゃなくなったと思う。
つまりは……
「俺は一人でもやっていける!」
と、いうことだ。