第15話 シェリア・サーバック伝
シェリア・サーバック伝
私には記憶がない。
私は25歳でサーバック家のメイドを始めたが、その以前の記憶が全くないのだ。
正確には一部だけだが。
何故記憶がなくなったのかは分からない。
アンドリューと一緒に冒険者を始めて少し経った時だ、足を滑らせ階段の角に頭を強く打ち付けた。
その瞬間、頭の中に様々な記憶が蘇り始め、気づくと私の記憶は戻っていた。
記憶が戻ってからというもの、アンドリューに、今真実を伝えるべきなんじゃないか……それとも言わない方がいいのか……ずっと迷っていた。
言ったとしても、アンドリューが信じてくれるとは思えない……それに、アンドリューはルークの事…父の事を恨んでいる。
……きっと私の事も…
だから言った時、嫌われてしまうんじゃないか…そんな恐怖が頭をよぎっていた。
そして、記憶が戻った時に思った事はそれだけではない。
スカリーの起こしたクーデターの事だ。
何故そんな事をしたのか?そしてそれに対して何故ルークは何もしなかったのか?
最初の疑問については何となく察していた。
原因はルークの父:ローグ・サーバックだろう。
彼は昔から国王の座をもう一度取り戻したいと思っていた。
だからその為にスカリーを利用しルークを殺そうとしたのだろう。
だけど何故ルークはそれに抵抗しようと思わなかったのか…
ルークは元騎士団長だったという事もあり、実力は相当なものだった。
だから、国が起こしたクーデターを一人で止める事くらいはできた筈だ。
なのにしなかった…何故…
何にしろ、ルークは子を思ういい人だった。
きっと何か事情があってのことなんだ。
私はそう思うことにした……
ーーーーー
「なあシェリア。本当に俺達二人だけで依頼なんて大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ!それに、いざとなれば私を盾にでもしてください!」
「じゃあそうするよ」
「ええっっ!?冗談ですってば坊ちゃん!さすがに怖いですって…」
「俺も冗談だよ」
話の通り、俺達は今ギルドの超簡単と言われる依頼をしている。
それも俺とシェリアの二人だけでだ。
ロインはというと、丁度今製作が完了した大剣をとりに行ってるところだ。
ロインによると、"間に簡単な依頼をしといた方が稼げるだろ"との事だ。
「それにしても……暑くねえか?」
「まぁ言われてみれば暑いですね…」
さっきからものすごく暑い。
まるで太陽が落ちてきてるみたいだ。
………それは言い過ぎか。
「んっ?何か魔力を感じる……」
「そうですか?私は魔術師じゃないですから分かりませんが」
魔法陣っていうのかな?
魔力が収束して、そこに留まっているような感じがする。
「ここら辺から……てかほんと暑いな」
数秒……数秒と時間が経つにつれ、熱が大きくなっていく。
何が起きてんだ?
「………あっ?」
「アンドリューっ!」
そこからは一瞬だった。
真上から巨大な火の玉が落ちてきているのに気づいたのとほぼ同時にシェリアが叫んでいた。
その後、轟音が数秒鳴り響いたと思ったら……
「……………はっ?」
………俺は、森の中にいた。