天が味方してくれた?
「……食材の情報、ですか。それなら今日、持ってきた話が役に立つかもしれません」
恵理とグルナ、二人の話を聞いていたティートが呟いた。そして一同の視線の先で、眼鏡のブリッジを上げて話の先を続けた。
「実は、父から手紙が届いたんです。皇太子の婚約を祝う為、ニゲル国の王子が帝都に来るそうです」
「「えっ!?」」
ロッコに来てから、一か月後。皇太子・ジェラルドは宰相家の令嬢・ソフィアと婚約した。今は、貴族の令嬢令息が入学する魔法学園に通いつつ、妃教育を始めている。余談だが、かつて婚約者候補だったヴェロニカとアレクサンドラは同じ学園に通い、アクレサンドラは同時に女騎士となってそれぞれの夢へと邁進している。
その話は、ルーベルから聞いていたが――このタイミングでのニゲルに関する思いがけない話に、恵理とグルナは揃って声を上げた。
アスファル帝国からニゲル国に行くことはあっても、逆の話は聞いたことがない。しかも、移動するのも今までは商人とその護衛のみだった。それがまさか、いきなり王族が来るなんて。
一方、一緒に話を聞いていたレアンが、不思議そうに首を傾げてティートに尋ねる。
「結婚式は、光の節(一月)ですよね? どうして、その前に来るんです?」
「冬は雪が多く、移動が大変だからだそうです。せめて、祝いの品を届けたいと」
「そうなの……」
ティートの言葉に呟いたのは、レアンではなく恵理だった。
転移前の日本で、父の実家が北海道で冬休みに何度か行ったことがあるが――あれくらい多かったとしたら確かに、移動は大変だろう。ティエーラには、車がないから尚更だ。
(逆に言えば、来られるうちに向こうから来たってことは……もしかして、ニゲル国もアスファル帝国に何か魅力を感じてくれているのかしら?)
目的は不明だが、だとしたら今後、両国間で交流が増えるかもしれない。そうしたら、醤油やしいたけなどの有無が確認出来るかもしれない。
そう思い、恵理がワクワクしているとティートも微笑んで言葉を続けた。
「好機ではありますよね。流石に直接は無理ですが、ヴェロニカ様から殿下経由で働きかけてくれるよう頼みましょう……女神の欲しい調味料が、無事に手に入るといいですね。あと、ついでにあなたの食材も」
「わざわざどーも!」
嫌味っぽいティートの言葉に、グルナも喧嘩腰にお礼を言う。
だが恵理からすればティートが社交辞令は完璧だが、恵理を始め一部の人間にしか本音を見せないと知っているので――態度は悪いが、ティートなりにグルナに(料理だけかもしれないが)思い入れがあるのは解る。そうじゃないと恵理の調味料にだけ触れて、グルナの食材についてはスルーの筈だ。
……それはグルナも気づいているのか、口では喧嘩腰だがその鳶色の目は笑っていた。