穏やかに、朗らかに
「実は私達、グルナを助けに行ったんだけど……そこで、創世神様に会って。ハオ様と話して、お互いのレシピや食材をやり取りする代わりに、グルナは返して貰うことになったんです」
サムエルもだが、フェリシアやレアン達にも時間が巻き戻った記憶はなかった。
とは言え、先程までいなかったサムエルがいたことで当然、疑問はある。創世神は恵理達、異世界関係者以外には姿を見せたくないらしく立ち去ったが、皆の疑問に答える形で恵理はフェリシア達に説明をした。
「……時間が戻ったから、賊扱いは無しで?」
「ええ、レアン」
「馬車も無事なんですよね?」
「そうよ、サム」
「解、決?」
「おかげさまでね、ミリー」
「……良かった」
「フェリシア!?」
レアン達からの質問に、それぞれ恵理が答えていると――彼女の視線の横で、安心したのか不意にフェリシアがその場に座り込んだ。ハオが慌てて駆け寄ろうとするが、そんな彼からフェリシアを庇うようにルォシーが二人の間に立ち塞がる。
「……私の主人は、姫様です。下働きだった獣人の母と武官の父が結ばれ、獣人の血が濃いからと求婚される私を侍女として雇うことで、姫様は結婚以外の道を示してくれました」
ルォシーの言葉で、恵理達は理解した。獣人だが、東洋系の面差しを持つことを。そしてアスファル帝国とは違い、ニゲル国ではむしろもてはやされるのだが、それはそれで窮屈なのだと。
だからこそ彼女はその状況から解放し、役割を与えてくれたフェリシアに忠誠を誓っているのだ。
「ルォシー……」
「殿下がフェリシア様を含め、大切な方々の為に奔走されているのは解ります。ですが……平民とは言え、他国の者を誘拐までしたことを姫様は憂いでいらっしゃいました。殿下を正す為、他国の者達に協力を仰ぐ程に……どうか、そのことを重く受け止めて下さいませ」
私は、どうなっても構いません。だから、どうか姫様のことを。
フェリシアに名前を呼ばれても振り向かず、そう話を締め括り。何をされても良いと、目を閉じたルォシーにこの場にいた全ての者が息を呑む。
しばしの沈黙――それを破ったのは、ハオだった。
「目を開けてくれ……そなたを、罰したりはしない。むしろ、すまなかった……フェリシアも」
そんなハオの言葉に対して、フェリシアがルォシーの横をすり抜けてハオへと飛びつく。そして、咄嗟に受け留めたハオにフェリシアは言った。
「今まで国の為に、そして私達の為に動いてくれたことには感謝しています……でもっ! ハオ様の都合に、同意を得ずに人を巻き込むのは駄目です! ……私も、エリさんを巻き込みましたが……こういうことはもう、やめましょう?」
「ああ……本当に、すまなかった」
後半の謝罪は、グルナへと向けられていた。それに少し考えて、グルナは恵理へと尋ねてきた。
「恵理? 香辛料や野菜、アイテムボックスに入ってるか?」
「え? ええ」
「……ならさ? 明日の朝、帰る前に少し、分けて貰って良いか? レシピもだけど、やっぱり直に食った方が良いだろうから」
「っ!? カレーか!?」
「ええ、良いわよ。グルナ」
「ありがとうな! あ、王子は「どうせどんぶり」とか言ってたけど、美味いんだからな? 明日は恵理も、一緒に作ろうぜ? どうせなら、豚角煮まんと魯肉飯も作ろうぜ?」
「えっ、いいの?」
「ああ。こうやって作りたいものが作れて、それを故郷で披露出来るなら俺はそれで良いんだよ。逆に、恵理に苦労かけるけど」
「苦労なんて……私が、やりたいことだから」
むしろ、ティートに苦労をかけるかもしれないが、恵理の為なら嬉々としてやると思う。
そう思って答えた恵理に、ニッと笑ってグルナは話を締め括った。
「決まり! 恵理、明日よろしくな……あと、皆も! 俺らの料理、食べてくれよなっ」
茶碗蒸しを作るのをやめました(ちょっと食べるものが多いかなと(;^_^A)




