リア充って言うくらいなら邪魔しないで
「恵理!?」
「グルナ、遅くなってごめんなさい!」
驚くグルナの手を取り、そう言うと――恵理はグルナを引っ張って走り出し、露台からそのまま外に出た。そんな二人に、庭から回り込んでいたレアンとミリアムが駆け寄ってくる。
「グルナさん!」
「ん」
「レアンとミリアムも、来てくれたんだ……その、ご」
「謝らないで。私があなたを取り戻したくて、レアン達に協力して貰ったの」
「……ありがとう、恵理」
彼らの姿を見て、申し訳なさそうに謝ろうとしたグルナを恵理は制した。その言葉に鳶色の目を瞠り、次いで謝罪ではなく感謝の気持ちを伝えてくれた。そのことが嬉しくて、恵理は黒い瞳を笑みに細めた。
「賊だ!」
しかし、予想外のことに咄嗟に対応出来なかったハオも、我に返ってフェリシアを庇いつつ声を上げる。
それに応えて兵士達が駆けつけてくるのに、逃げるのは難しいかと思い、隙を突くと言うか作らせる為に恵理はハオへと話しかけた。
「奥様を叱らないでね? 私が唆して、連れてきて貰ったから」
「エリさん!? 何を……」
「……平民とは言え、他国民であるグルナを魔法まで使って、強引に連れてくるなんてやりすぎよ!」
まずは、フェリシアが責められないようにそう言った。フェリシアが慌てているが、彼女にはここまで連れて来て貰った恩があるのでこれ以上、巻き込むつもりはない。
そして身分差こそあるが、ハオのことは敵と見なしているのでフェリシアとは違い、ハオには敬語を使わなかった。隣のグルナが心配そうに見てきているのが解るが、ハオから目線を逸らせないので繋いだ手を握ることで安心させようとする――その為、手を握られてグルナが赤くなったのは見えていない。
しかし、それは逆に言えば恵理以外には見えているということだ。
「リア充爆発しろ!」
「私達のこと、引き離しておいてよく言うわね! 彼の料理が食べたいのなら、こっちもニゲルの食材が気になるから元々、レシピを提供するつもりだったの! だから、グルナを返してちょうだい!」
「駄目だ! それじゃあ、完璧に広めることが出来ない……俺が役に立たなければ、異世界転生した意味がないっ」
怒鳴ってきたのに恵理が怒鳴り返すと、負けじと――と言うより、必死な答えが返された。その言葉を聞いて、恵理は思う。
(フェリシア様の話を聞いた時も、思ったけど……転生者って役割に、こだわってるって言うか振り回されてるのね)
フェリシアから聞いた話では、異世界の知識はほぼ出し尽くしたと聞いている。それ故、今度はグルナと共に異世界の料理知識を広めようとしたのだろう。
そして内政チートも彼の知識への協力者がいて成功したのだろうが、料理もレシピだけではなく作れる料理人がいてこそより忠実に再現出来る。だからこそグルナのように、実際に作れる人間が欲しいのだと思われる。
……けれど、その思い込みに振り回される気など恵理にはさらさらなかった。




