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夢の国

 フェリシア達母子が獣人の里を出たのは、金銭的な理由ではない。見た目は完全に獣人だが、フェリシアの父は人間であり、アスファル帝国の貴族だった。もっとも母は関係を強要され、しかも身ごもったことがバレたことで捨てられたのだが。

 傷つき出産の為に里へと戻ったフェリシアの母を、獣人の里は迎えてくれたが――元々、両親を病で亡くした孤児だったので、育ててくれた里への恩返しとして彼女は働きに出ていた。それ故、フェリシアが産まれてしばらくした頃、母子は再び働き先を求めて今度はニゲル王国へと向かったのである。


「母は帝国との違いに戸惑いつつも、里へ仕送りが出来ることを喜んで一生懸命、働いていました。私も、そんな母を手伝いたくて働き出して……そんな中、ハオ様に声をかけられ、私はハオ様付の侍女となりました」

「……やっぱり、身分差による強要?」

「ふふ」


 先程に続き、再びツッコミを入れた恵理にフェリシアが笑う。そして笑われ、戸惑った恵理にフェリシアは言った。


「ハオ様は優しいと、申しましたでしょう? その頃のハオ様は誰とも口をきかず、部屋に引きこもっていらしたので……陛下や周りの方々が気を使って、私をハオ様付としたのです。だから逆に、ハオ様から謝られました」

「あの王子に?」

「ええ、ハオ様にです」


 そう言って、フェリシアは二人の過去について話し出した。



 フェリシアとハオの年齢差は、ちょうど十歳である。

 それ故、六歳のフェリシアと出会った時、ハオは十六歳だった。その頃は片眼鏡はつけておらず、長い黒髪を下ろして顔を隠していた。

 こうして会うのは初めてだったがフェリシアは母や、他の使用人達からハオについて聞いていた。

 ……様々な知識を、惜しみなく提供する神の子だと。

 けれどここ二、三年は口を噤み、自室から出なくなっているのだと。


「悪かったな。つい、叫んじまって……親や女官長には、俺付から外すよう言っておくから。これ、お詫びのお菓子な」

「ありがとう、ございます……おいしいです!」

「だろう? それ、カステラって言うんだけど、俺が食いたくて料理長に作って貰ったんだ」


 焼き菓子らしいお菓子はふんわりしっとりしていて、つまようじで刺して口の中に入れた途端、甘みが溶けて広がった。あまりの美味しさにフェリシアが目を輝かせると、ハオは嬉しそうに頬を緩めて言った。

 パクパクと食べ、ゴクンと飲み込んだところでフェリシアはハオに尋ねた。


「カステラ、ですか? 帝国のお菓子ですか?」

「いや……夢の国の、菓子」

「夢の国、ですか? どうやったら、行けますか? また、食べたいです」

「……行けないんだ」


 無邪気に問いかけたフェリシアに、ハオは淋しそうに笑って答えてくれた。

 自分が異世界からの転生者で、様々な知識というのはその異世界の知識なのだと。

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