王宮潜入
昼の偵察で、王宮の場所は把握した。しかし流石に中の地図などは流通していないので、潜入してからは出たとこ勝負である。
とは言え、恵理達が潜入後に町の外にある馬車を、王宮の傍まで移動させて脱出に備える必要がある。
町の外に停めるのと、どちらがいいか迷ったがグルナが素人なので、王宮脱出後は馬車に乗せてから移動することにした。夜には閉じる外門は最悪、強行突破するつもりである。
「魔法を使う相手なら、ミリーがいないとですし。夜の闇に紛れて侵入と脱出をするんなら、俺よりレアンの方が適任ですよね……だから、俺が馬車に残りますよ。師匠達を待ってますから、グルナさんを連れて戻ってきて下さい」
「サム……解ったわ。お願いね、サム」
一瞬だけ迷ったが、恵理はその提案通りサムエルに馬車をお願いすることにした。あとは王宮に潜入後、速やかにグルナを奪還してサムエルの待つ馬車に戻って来ようと思う。
「頼んだぞ、レアン。ミリー」
「はい」
「ん」
サムエルからの頼みに、託されたレアンとミリアムはそれぞれ頷いた。
※
そして夕方、王都の外門が閉じる前にまず馬車で乗り込み――恵理達三人を降ろし、暗くなるまで停まれそうな場所を探して動き出した馬車を見送って王宮へと向かった。それから夜の帳が降りたところで、ミリアムの風魔法で軽々と外壁を飛び越えて着地した。
建物の造りは中華、あるいは昔、旅行に行った京都で見た高床式だ。日本同様の、湿気対策だろうか?
まずは外に面した廊下には上がらず、茂みや木の陰に隠れつつ外から、人が来ないか様子を伺いながら中にいる人の気配や声を探った。
「風魔法でも、探す」
「俺も、グルナさんを探します」
「ありがとう。ミリー、レアン」
言葉と共に風を纏わせるミリアムと、被っていたフードを脱いで獣耳をそばだてるレアン。
そんな二人に、恵理が小声でお礼を言っていると――不意に二、三メートルくらい離れた先の部屋の扉が開いた。それに恵理達は口を噤み、気配を消して様子を伺った。
「「「っ!?」」」
……彼女達の視線の先に現れたのは、長い兎耳を垂らしている女性だった。
獣人特有のシルエットや、王子達同様の中華風衣装らしいのを着ているのは解るが、暗いので顔などはよく見えない。
それは、相手も同じか自分達よりも見えない筈なのに――その女性は静かな、けれど凛とよく通る声で恵理達に話しかけてきた。声の感じだと、二十歳前後くらいだろうか?
「こちらへ……姫様が、お呼びです。決して、騒がないように」




