実はこれが、一般的
図面や完成品を用意していたおかげか、何とか恵理とレギンの話し合いはその日の夜(と言っても、ほぼ深夜だったが)に終えることが出来た。ボイラーの材料などの手配は滞在組のティートに任せ、恵理達は明日の昼には旅立つことにしている。
レギンの家兼工房はレギン一人で暮らし、注文を回していると言う。その為、恵理達が寝られるような場所はない。
それ故、先にグイドと共に自分の館へと戻ったアレクサンドラが、宿を手配しておいてくれた。辺境伯領に来るまで、馬車に揺られていたのでベッドで眠れるのは嬉しい。
「朝には食事と、湯浴みの手配もされています」
「アレクサンドラ様、すごい至れり尽くせり……」
「ご厚意に甘えましょう。明日からニゲル国に着くまで、また野宿が続きますから」
「そうね」
辺境伯領からニゲル国までは、馬を走らせ続けて四、五日ほどかかる予定である。
ティートの言葉に頷くと恵理とミリアム、ティートとレアンとサムエルとに分かれて、それぞれの部屋に入った。
そして夜着代わりの服に着替えると、馬車の揺れを感じない状態で横になり、恵理とミリアムは目を閉じてすぐに眠りに落ちたのである。
※
教会では、朝の祈りをするのが『朝六刻(朝六時)』なので、その時間に鐘が鳴る。
冒険者ギルドがない村でも、教会はあるのでここ、グリエスクード辺境伯領でも朝、鐘の音が鳴った。恵理達は皆、旅慣れているので朝は鐘の音を聞きながら目覚めることが出来た。
ニゲル国に行く者はほとんどいないが、帝都など領地外に向かう場合は、朝早くから移動するのが一般的だ。それ故、今の時間からでも食事を取ったり、湯浴みが出来たりする。
ちなみにロッコでも貴族の館でもないので、浴槽の備え付けはなくタライとお湯が入ったバケツが運ばれる。そのタライで髪や体を洗い、お湯で流すのが平民の風呂の入り方だ。使用済みのお湯は回収され、洗濯や掃除に使われる。
「久々に、こうして汗を流すと……ロッコは本当に、恵まれているのね」
「ん。これも合理的では、あるけど」
「それは確かに」
そんなことをミリアムと話しながら恵理は汗や埃を洗い流し、服に着替えて一階の食堂へと降りていった。するとティート達は先にテーブルについていて、恵理達の分の朝食も頼んでおいてくれた。もっとも大抵の食堂がそうであるように、パンとスープというシンプルなものなのだが。
「こういう朝食も、久しぶりね」
「温かい具沢山スープだけでも、旅の間はご馳走ですからね……まあ、アイテムボックスがあれば別ですけど」
「この辺では、米を食べる習慣自体がないんです。パンよりも腹持ちが良いですし、スープと共に、少しでも広まればと思っています」
「ありがとう、ティート。よろしくね」
元々、どんぶり屋をやることにしたのは、この異世界で米食を広めたかったからである。そういう意味でも、このグリエスクード辺境伯領で居酒屋の支店が営業するのは喜ばしいことだ。
それ故、恵理が改めてお礼を言うと、ティートは嬉しそうに眼鏡の奥の瞳を細めた。




