必要とされているから
ティート視点
店の外から「グルナが攫われた!」という声が聞こえた。
その前に、エリが店を飛び出していたので――グルナもだが、エリが巻き込まれてはいないかとティート達は店を飛び出そうとした。レアンは店を空けると思って一瞬だけ躊躇したが、常連の客が「見ててやるから、行ってこい!」と言って送り出してくれたので、ティート達と一緒にグルナの店へと向かった。
……そして、テーブルや椅子が倒され、皿が散らばるグルナの店の中で。
「皆……頼みがあるの。ただ、お客様もいるから……詳しくは夜、閉店後に」
ルーベルに抱きしめられ、そう言ったエリはもう泣いていなかった。ただ涙に濡れた頬に固い決意を宿し、真っ直にティート達を見つめてきた。
(ああ……女神は、決めたんだな)
実は少し前から、エリの目がこっそりグルナを追っていて――けれどそんな自分を抑え込むように、そっと視線を逸らしていることに気づいていた。
(ついに意識して、でも距離を近づけるのに躊躇してる……いや、諦めているって感じかな?)
同じ年だし、同じ異世界にいたという共通点もある。エリはグルナの料理に胃袋を掴まれているし、グルナもエリに好意を持っているので何も障害はない。
ない、のだが――故郷や家族から離れ、一人異世界に転移した経験からか。あるいはグルナもそういうところがあるので国民性かもしれないが、周囲の空気を読んで無理に関係を壊すまいとするところがある。そのせいで、エリはアレン亡き後『獅子の咆哮』で酷使されていたので、必ずしも美点ではないと思っていたが、無理にやめさせることも出来ないので見守っていた。だからああして、エリから踏み出そうとしているのなら、ティートとしては出来る限り協力しようと思う。
そこまで考えて、ティートはそっと自分の胸に手を置いた。
(……昔から、女神に恋人や伴侶が出来たら、僕がどうなるか解らないって言われていたけど)
そう言っていたのは今は帝都に住む両親や、エリへの心酔ぶりを知っている商会の面々である。ティートとしても、少しはショックを受けるかと思っていたが――むしろ、自分でも驚くくらい平気だった。
そしてその理由について、その後のエリの言葉で理解した。
「ティートには、これからもそうやって異世界の良いものを広めて欲しい。今回うまくいけば、温泉のない場所でも使えるから……お願い、出来るかな?」
想いの質は違うかもしれないが、エリはティートのことも必要としてくれている。商人として、エリの望みを叶えられるのはティートだけだ。
(僕の気持ちを、うまく言語化は出来ないけれど……女神と僕の間には、確かに絆がある)
その考えは、ストンとティートの胸に落ちて――だからこそ笑って、ティートはエリにこう言うことが出来た。
「これからも、何でも言って下さいね。女神の望みは、僕が頑張って叶えますから」




