王子からの誘い
とは言え、客達が不安そうな顔をしているので、いつまでも現実逃避をしている訳にもいかない。
だからすうっと息を吸うと、次いでグルナはへらっと笑い、降参するように両手を挙げて口を開いた。
「ありがとうございます。だけど、俺は単なる田舎者ですから。そんなに褒めて貰っても、これ以上は何も出ませんよ?」
「貴様!」
「殿下の申し出を、断るのか!?」
「……まあ、落ち着け」
料理への褒め言葉として流そうとしたが、お付きの男達が許してくれなかった。一方、ハオと名乗った王子はそんなお付き達を宥め、面白そうにグルナを見る。
(いや、だからそんな『おもしれー女』みたいな顔で、俺を見るな)
心の中で突っ込むグルナに、ハオが話しかけてくる。
「田舎者? とんでもない。お前のような料理を作れるものは、他にいない。だからこそ、我が国でその素晴らしい腕を存分に振るってほしい」
「……いやいや、いますって」
異世界風の料理が気に入ったのなら、それこそ恵理も作れる――だが、恵理のことを話題に出して藪蛇になったら困るので、グルナはそれだけ言った。けれど、そんなグルナにハオが言葉を続ける。
「確かに、別の料理人がカツ丼やカツカレー丼を作っていたが……材料さえあれば、お前も作れるだろう? しかも、もっとうまく」
「っ!?」
その言葉に、グルナは思わず息を呑んだ。
確かに前世で家が定食屋をやっていて、自分も調理師免許を持っていた上、帝都でも料理人修行をしていたグルナなら、材料さえあればカツ丼も、カツカレー丼も作れる。
けれど、今まではどんぶりは恵理のオリジナル料理であり、グルナが作るオムハヤシ丼も恵理の影響を受けてだと思われていたくらいなのだ――ティエーラの者達はどんぶりが異世界の、そして日本の料理だと知らないからである。
(だけどこいつは、俺でも作れるって解ってる……アジア系の顔だけど、仮にも王子だから恵理みたいな転移者じゃない。ってことは……俺と同じ、転生者か?)
やはり藪蛇にはなりたくなかったので、口には出さなかったが――グルナの思い至った考えは、顔に出ていたらしい。ハオが「正解」というように、ニッと口の端を上げる。
「確かに! グルナの料理は、最高だけど……だからこそ! 交流だけならともかく、永久就職なんて認めないわ!」
「恵理!?」
ヤバい、とグルナが内心で焦ったところで、恵理の声が――いや、声だけではなく体ごと、恵理がグルナの店に飛び込んできた。




