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不思議な勘違い2

よく考えたら異世界転生じゃなくて異世界転移じゃないだろうかと気付きました。

(6)

「おはようございます」

 この世界の朝の光は実亜の知ってる光よりキラキラしている――

 実亜は輝く光を浴びながら、ソフィアの穏やかな声で目が覚めた。

「……おはようございます」

 実亜がソフィアを見ると、ソフィアはベッドの横に立ち実亜に手を差し伸べている。

 手を差し出して良いものなのだろうか――確か昨日は放任だったのに。

 そっと手を差し出すと、ソフィアは流れるような立ち居振る舞いで実亜を起こしていた。

「朝食は果物と燕麦(えんばく)と干し肉を焼いたもので構わないでしょうか?」

 昨夜まで普通に話していたソフィアが敬語になっていた。

 ぶっきらぼうだけど優しい話し方は実亜としては結構好きだったのに、それがない。

「え、あの……急にどうしたんですか」

「騎士である以上、淑女にはそれなりの対応が……よく考えれば衣服も特殊な布地――貴女は、もしや、それなりの身分の方だったのでは――と」

 今までの非礼を詫びさせてほしい――ソフィアはそう言って丁重に床に片膝をつく。

「な、全然。ただの一般人です」

 むしろブラック企業に勤めていたけど、辞めることも出来なかった人間だ。

 末路としては使い捨て――多分。そんな会社だった。

「しかし、遠方の国では戦いに負けた貴族や王族を奴隷にしたという話も伝え聞こえて――」

「はあ……」

 そういう世界なのか――実亜は心の中で今までに読んだことのあるおとぎ話を思い出す。

 おとぎ話にはそんな残酷なものはなかったように記憶しているけれど。

「それに、意外と世間知らず――失礼した。今のは無かったことに」

 実亜は今までの言動を思い返す。確かに、この世界のもの全てが謎――今でも。

 特に馬しか食べないポロの実を食べたいだなんて言い出す人はこの世界には居ないのだろう。

「……違いますよ? ただの普通の人……です」

 この国ではちょっとズレているかもしれないけど、元の国では至って普通――

 実亜はそうソフィアに説明していた。

「普通の人だとしても、大人の女性にはそれなりの扱いをするのが騎士たる者の務めに――」

「ソフィアさんのいつも通りで良いですよ。私、お世話になってる身ですし」

 許されるならご飯くらいは作りたいし、ちょっとの手伝いくらいはしたい。

 とことんまで働き癖が抜けていない気がして実亜は自分を呪う。

「そうか? それなら、良いんだが……とりあえず朝食を食べようか」

 今朝は何処か調子が崩れたようなソフィアだった。


「今日は街を案内してくれるって言ってましたよね」

 実亜は焼いた干し肉を食べながら訊く。

 干し肉と言っても柔らかいし、塩味もあるし、実亜の世界だとベーコンに近いかもしれない。

 燕麦は麦と米の中間のような――確か燕麦って実亜も聞いたような名前のものだけど。

「あ、ああ。リューンに一緒に乗ろうと思ったんだが、馬車にしようかと」

 ソフィアも干し肉を食べながら答えている。

 ミアが何処かの貴族なら、二人乗りはあまり良くない――らしい。

「馬車って、そんな大袈裟ですよ? 貴族でもないですし」

「しかし……」

「リューンが大丈夫なら、私は一緒でも大丈夫です」

 二人でも乗れるくらい、リューンは綺麗でしっかりした馬に見える。

 だから実亜はソフィアが過剰に気を使わないようにそう言っていた。

「ミアは身体も華奢だし小さい――失礼。わかった。そうだな。ミアの仰せのままに」

 ソフィアの口調はまだ調子が戻らないみたいに見える。

 しかし、子供だと思われていたのは体格の差もあったのか――実亜は納得していた。

 ソフィアは背も高いし、手足も長い。そもそもの骨格の差みたいな違いだと思う。

 実亜はどちらかというと背が少し低いし――元の世界で言うなら人種の差かもしれなかった。


「馬の乗り方は――わからないか……」

 触れるのも初めてだったからな――ソフィアはリューンの小屋の前で実亜に訊く。

 実亜はソフィアの乗馬服を借りていた。

 裾が長くて折り曲げたりしたけど、なんとか着れてわりと良い着心地だった。

「はい。わかりません」

 リューンよろしくね――実亜はリューンに挨拶をして首元を撫でる。リューンが頷いた気がしたのは流石に気のせいだろうけど。

「じゃあ、この(あぶみ)に左足をかけて――そう、一気に身体を持ち上げる。(くら)(また)がれば良い」

 ソフィアが実亜の身体を手で少し支えて、乗馬の姿勢になった。

 思っているより視線が高くなって、凄く爽快だ。

「ソフィアさんは?」

「私は後ろ側だ――しばらく大人しくしていてくれ」

 ソフィアは鐙に足をかけると、ひらっとリューンに飛び乗る。

 後ろ側は鞍がないけど、ソフィアの身体は安定していて、手綱を持っていた。

「じゃあ、行こうか。ゆっくり歩くから、怖ければ私にもたれて揺れに合わせてくれ」

「は、はい――」

 ソフィアの合図でリューンがゆっくりと歩き出す。


 ゆらゆら――実亜がこの世界に来た時と同じように揺れていた。

 時々大きく揺れるけれど、凄くゆったりとしていて楽しかった。

「大丈夫か? 怖くないか?」

 ソフィアの優しい声が耳元で聞こえる。

「はい、大丈夫です。リューン凄いですね」

 褒められたことがわかるのか、リューンは少しだけ鼻を鳴らす。

 ソフィアも嬉しそうに「私の愛馬だからな」と言っていた。

 人と馬との信頼関係――不思議で面白い。

「ここからは少し揺れるから、私にもたれたほうが良い」

「は、はい」

 ソフィアはそう言って、実亜の腰の辺りを片手で抱え込んでいた。

 もう片方の手は、手綱をしっかりと持ってリューンに指示を出す。

 実亜が助けられた時もソフィアはこうして抱き止めてくれた――多分。

 死神だと思ったのが申し訳ないくらい、ソフィアは優しい体温だった。

「ミアは華奢で繊細だな……それに、陽射しの香りがする。南のほうの国から来たのだろうか」

 ソフィアは実亜の身体を軽く抱いて支えてそんなことを言う。

「わからないですけど、多分此処よりは南のほうなのかもしれないです」

 リスフォールは実亜の感覚では少し肌寒い。それに最北の地と言っていたし、それなら実亜の居たところは南のほうになる。

「そうか。早く帰りたいか? あ、いや、帰ったらまた過酷な労働を強いられるのか……」

 それはミアが辛いな――ソフィアは小さく呟く。

「……今は、わからないです」

 帰ったら、またあの環境なのだろうか。

 悲しむ人も特には居ないし、帰らなくても――実亜はふと、そんなことを思う。

 それに、そもそも帰れるのかもわからない。自分が帰りたいのかも――

「そうか。まあ、ゆっくり考えれば良い。リスフォールはもうすぐ雪が積もる。雪解けを待つくらいまで休めば、もっと元気になるだろう」

「……はい」

 一応、元気だけど。でもあの時に確実に倒れたはずだから、元気ではないのか――

 実亜にはわからなかった。

 この世界に来てからわからないことが沢山だ。

馬の二人乗りはかなりの技術が必要らしいですね。

ソフィアは騎士なのでかなりの技術があります。ええ。あるんです。

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