表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/30

第6話 やっぱ田舎はつれえわ

AM10:05 フレア・ロングコート


「あれ?居なくなってる?」

私はアロウとラビットとともにスケルトンケアを見に農園の通りに来た。

しかし、そこにはスケルトンケアの姿はすでになく、野次馬たちもそれぞれの家に帰ろうとしていた。

「あ、おばさん。スケルトンケアは?」

ラビットが知り合いと思われるおばさんに尋ねる。

「何人かは屋敷に入っていったけど他の連中は、ついさっき行っちまったよ。ひどいもんだったよ。女の子が1人屋敷に連れて行かれてね。もうかわいそうで仕方なかったよ」

「女の子?」

「そうなんだよ。可愛らしい娘でね。あのスケベジジイの領主の屋敷に連れて行かれちまったんだよ」

「領主ってここの?」

私はアロウに尋ねる。

「ああ、この農園のグリーンガーデン仕切ってるエロじじいだよ。たまにわざわざ護衛つれて町まで行って、女買って来る事があるんだ。俺たちから巻き上げた税金でな」

昼間に私を犯そうとしたチンピラどもの親玉か。

あの子にしてこの親ありってことね。

たくっ、ここの豚野郎(ちんぴら)どもはどいつもこいつも。

「それにしてもスケルトンのやつら、わざわざ女売るためにここに来たのかよ」

ん?なんだかアロウはスケルトンケアのこと嫌ってるみたいね?

「ねえ、あんたスケルトンケアと何かあったの?」

私が聞くとアロウはああ、と呟く。

「ガキの頃にちょっとな。あいつら数年に一度このイーストリザード地方中を回ってくるんだよ」

「ああ、”秀色難民”支援のための地方巡行(どさまわり)ね」

スケルトンケアは数年に1度地方巡行(どさまわり)と呼ばれる活動を行っている。

その目的は優れた魔法の才能がありながら農園で生まれたが故に能力を持て余している人間、通称”秀色難民”を各地方の都市に連れて行くことだ。

このイーストリザード地方ならオールモストヘブンだろう。

そして都市に連れてきた秀色難民にそれぞれの適正に合わせた魔法育成の機会を与え、その後セントラルギルドに配属している。

いわば地方巡行(どさまわり)とはセントラルギルドが優秀な人材を確保するためのスカウト活動だ。

「俺もガキの頃地方巡行(どさまわり)でこの農園に来たあいつらに、オールモストヘブンに連れて行ってくれってしがみついた事があるんだ」

「それで?」

「スケルトンの検査員が俺の体内時計を検査して俺がEランクだと分かったら・・・・あいつらは俺のことを鼻で笑って顔面を蹴り飛ばしやがったんだ!」

「えっ!?子供に!?」

「あれは酷かったよね!その上鼻血だして泣いてるアロウに向かって、笑いながら唾吐いてきたし!」

「・・・・ひどい」

確かにスケルトンケアの黒い噂は流れていたけど、そこまでひどい奴等だったなんて。

「あいつらはそれからこう言ってきやがったんだ”Eランクのゴミは田舎で野菜でも育ててりゃいいんだよ”ってな」

アロウは悔しそうに顔を歪めている。

魔法の素質を持った者は都市へ。

そしてアロウみたいな非色民は農園で農民として働かされる。

それがこのユーリエッセ大陸の体質なのは知っていたけど。

私は”セントラルオーク”で暮らしてた頃は、農園の人間はみんな笑いながら畑仕事を楽しんでるものだと思ってたけど、全然違ったようね・・・・


「でも、あいつらはいつもの地方巡行(どさまわり)の連中じゃないよ。えらく感じが悪かったし」

それまで話を聞いていたおばさんが怪訝そうに言う。

「檻の中に何人も入れられててさ。あれは完全に拉致だよ。それに檻に入ってた連中も妙なんだ」

「妙って?」

「私たちより随分小柄だったんだよ。ドワーフってわけでもなかったし。何なんだろうね?」

小柄?

どんなのだったんだろう?

「まあ、非力な私たちにはどうしてやることも出来ないんだけどね・・・・。屋敷に連れてかれた娘も必死に助けを求めてたけど、どうすることも出来なかったよ。今晩夢に出てくるだろうね・・・・」

そう言っておばさんはやりきれないといった顔をする。

周りを見ると他の野次馬たちも同じような顔をしている。

なんだかみんな辛そうだ。

そう言えば昼間に私がチンピラに絡まれてたときも、ここの農民の人たちは心配そうにしてくれていたっけ。

まあ、結局助けてくれなかったけど、今と同じように辛そうにしてくれてたのかもね。

「おばさんのせいじゃないよ。ここでは誰もグリーンガーデンの奴らに逆らえないんだから」

「まあ、分かっちゃいるんだけどね。・・・・私はそろそろ帰るよ。夕飯の支度しなきゃならないし。あんた達もあの屋敷のことは忘れちまいな。どうすることもできないんだからね・・・・」

そう言って去っていった。



アロウが「俺たちも帰るか」と言って、私たちはアロウの家に帰ろうとした。

「おお!アロウじゃねえかぁ?」

その時、唐突に後ろから声がして振り返る。

「親方!・・・・」

その男を見てアロウがこれまでに見た事がないほど顔を歪める。

私は親方とやらを見て驚愕した。

で、でかい!

なにこの化け物!

「おめえも野次馬しにきてたのかぁ?見たかよ?あの女ども?壮観だったなぁ。へへ、俺も一度でいいからあんな女どもを囲んでみてぇなぁ」

そして不意に私の方を向いてへへと笑いだす。

な、なによ!こっち見ないでよ化け物!

「それにしてもアロウよぉ。随分いい女連れてやがるじゃねえか」

舌なめずりしながら私の美しい顔を視線で嘗め回してきた。

うげえ!気持ち悪いこの化け物!

「用がねえんならもう行くぜ」

アロウは無視して去ろうとしたけど、化け物が待てよと言って引き止める。

「ちょうどてめえに頼みがあったんだよアロウ。実はな、また博打で金すっちまってよ。てめえに金借りようと思ってたんだ」

「ふざけんな!誰がてめえなんかに!」

化け物の唐突の発言にアロウが怒鳴り返す。

「おいおいそう怒るなよ。ちゃんと後で返すからよ」

「嘘つけ!今までだって一度も返したことなんてないだろ!」

「そう冷てえこと言うなよ。フォックスのバカが出て行っちまったせいで、もうてめえだけが頼りなんだからよ。・・・・それに、へへ、てめえ、また金溜め込んでんだろ?」

化け物の言葉にアロウがぎくりとする。

「・・・・なんのことだよ」

「へへへ。隠しても無駄だぜ。大方またここから出て行こうとか寝ぼけたこと考えてんだろ?」

化け物はアロウの反応を見て、獲物を見つけたような目でさらに愉快そうににやける。

「なあアロウ。てめえのそのカスみてえな魔法で何が出来るってんだよ。わざわざ恐え思いして町まで行って、こき使われて一生過ごすのか?それなら俺に金取られんのと何が違うってんだ?」

「とっとと、うせろ・・・・!」

「へへ。まあ近いうちに金はいただいていくぜ。せいぜい俺のために溜め込んどいてくれよ。じゃあな」

化け物はへへへへへと笑いながら去っていった。


「くそっ!!!」

「大丈夫。アロウ・・・」

「なんなのよ、あいつ?たち悪いわね」

「この農園の猟師を仕切ってる親方だよ。最低のクズだ」

アロウは忌々しそうに顔を歪めたままだ。

この子に会ってからまだ数時間しか経ってないのに、なんどもこの表情を見せられるわね。

この子が連れて行ってくれって言ったときは、ここで暮らして方がいいなんて言っちゃったたけど・・・・この子の置かれている環境は私が思っているよりずっ辛いものみたいね。

私ってば何にも知らないで勝手なこと言っちゃった・・・・

それにしても、

「あの男やけにでかい身体してたわね」

身体はアロウより2回りは大きいし、二の腕なんてアロウの胴体と同じくらい太かったわよ。

あれじゃ、逆らえないわよね。

「あのクソッタレの親方は元炭鉱夫なんだよ」

「炭鉱夫?」

「ああ、ここから少し北にいったところにある坑道で、石炭とか魔石を採掘しながら暮らしてたんだ。坑道の近くに自分たちの農園作って昔は結構にぎわってたらしい。俺が子供の時になくなっちまったらしいけど」

「どうして?」

「石炭も魔石も掘りつくしまっちまったんだよ。そうなると途端にあそこは収入源を失っちまったんだ。あそこは土壌も悪くて作物も育たなかったからな。住民たちは農園を捨てて皆別のところに移っちまったんだ。その時この農園に移ってきんだ。あいつ」

なるほど、たしかイーストリザード地方は鉱山が多かったわね。

「実はな、その時その坑道も一緒に放置されたんだけど、今はそこがここいらの魔物の巣窟になっちまったんだ」

「なによそれ。迷惑な話ね」

ちゃんと後始末しなさいよ。

それにしても元炭鉱夫か。

なるほど。道理でああいう腐った根性しているわけね。

炭鉱夫なんて酒、女、賭博好きで周りを怒鳴り散らすイメージしかないし。

「あいつ、フォックスがいなくなってから余計アロウにちょっかい出すようになっちゃったね」

ラビットが忌々しげに言う。

「あの化け物も言ってたけど誰そのフォックスって?」

私が聞くとまたアロウが苦い顔をする。

「俺とラビットの幼馴染だよ。あの親方よりは多少マシってくらいのクズだけどな」

「アロウってばいつもあいつとケンカしてたもんね」

ふ~ん、ケンカ友達って奴ね。

「そのフォックスって奴はどこに行っちゃったの?」

「ああ、あいつは・・・・ん?」


唐突にアロウが何だ?と言って左を向いた。

「おい。入り口の方から何かくるぞ?あれは?」


釣られて私も同じ方向を見る。

「もう、今度はなによ?・・・・ん?・・・・げっ!!!」

あ、あれは!!!

やばい!!!!”透明(スケルトン)な身体((ナイス)ボディ)”!!!!










「あいつらは・・・・ん?フレアは?」

「えっ?・・・・あれ?どこ行ったんだろう?」

いつの間にかフレアがいなくなっていた。

さっきまでそこにいたのに・・・・。

「便所かな?」

「それよりアロウ。あれって・・・・」

「ああ、あの格好は警官ギルド(ホワイトベル)だな」

ホワイトベル。

セントラルギルドの一つでこの大陸の治安を守っている警ら集団だ。

フォックスのやつも1年前にホワイトベルに入隊した。

俺は出世してデカになってやるとか意気込んでたけど、間違いなく無理だな。

あいつの魔法ランクは空魔法のCランクだ。

確かにホワイトベルは空間捜索ができる空魔法使いにとっては転職みたいなもんだけど、所詮ランクCじゃ使いっぱしりがいいところだろう。

この大陸じゃ魔法のランクが高くなければ、どれだけ実績を上げても認めてもらえないからな。

きっと今頃エリート気取りの上官にこき使われてんだろうなぁ。


それにしてもフレアにスケルトンケアにホワイトベル、何だか今日は千客万来だな。

スケルトンもホワイトベルもこんなクソ田舎には滅多にこないのに。

ホワイトベルの連中は入り口でなにやら調査しているようだけど。

やがて集団のリーダー格と思われる男が俺たちに気づいて近づいてきた。

「君たち。少しいいか?」

「何だ?」

「実は人を探しているんだが。こんな女を見かけなかったか?」

そう言って似顔絵を俺たちに見せてきた。

そこには

「!!!!」

「えっ!!この人って・・・・」

俺たちは似顔絵を見て驚愕した。

栗色の長い髪に整った顔立ち。

そこに描かれていたのは間違いなくフレアだった。

「やっぱりここに来ていたか」

俺たちの反応を見て男が確信する。

「・・・・そいつ、何かしたのか?」

「・・・・悪いがそれは言えない」

「パルチザン警部!痕跡が見つかりました!あの丘の方角に向かっています」

部下と思われる男が指を指しながら報告する。

男が指差したのは俺の家の方角だ。

「よし!まだそこに居るかもしれない。行くぞ!」

警部と呼ばれた男がすばやく指示を出す。

「協力に感謝する。それでは」

そして、そのまま俺の家の方角に走り去っていった。

俺は何が何だか分からずにその後姿を眺めていた。

だがラビットがちょっと!と言って腕を引っ張ってくる。

「ねえ、あの人が言ってたのってフレアさんのことだよね?」

「・・・・ああ、間違いないだろうな・・・・」

事情は分からないけどフレアはどうやらホワイトベルに追われているようだ。

そういえばスケルトンが来たときも勘違いして取り乱してたし。

「ねえ、今からでも遅くないよ。あの警部さんに通報しよう!」

「えっ!?」

俺はラビットの突然の言葉に驚く。

「な、なんでだよ?」

「アロウがあの人のこと匿ってたって思われたらどうするのよ!」

「あ・・・・」

そうか、確かに知らなかったとはいえ、状況的にはそうなるな。

「だから、今のうちにちゃんとあの警部さんに事情を説明しておいた方が疑われずに済むでしょ!」

「で、でも・・・・」

それだとフレアを裏切ることに、いやそもそもまだ仲間にしてもらったわけじゃないけど・・・・

だけど無理やり連れて行ってくれって頼んどいて、お尋ね者だって分かったら”あんな奴とは関係ありません”だなんて、言えるかよ・・・・

「そんなにあの人のことが気になるの?美人だもんね」

煮え切らない俺にそう言いながらラビットがイライラしたように言う

そしていつもの心を読み取ろうとする目で俺を見つめてくる。

だけど、その瞳は心なしか不安そうに震えている気がした。

「そう言うのじゃないんだよ・・・・」

俺はラビットの視線から逃げるよう顔を背けながら答える。

「アロウがどう思おうと私は知らせるから!」

「お、おい!」

ラビットは業を煮やしてホワイトベルの連中を追いかけていってしまった。

そう言うのじゃねえんだよ・・・・

俺は小さくもう一度同じ言葉を呟く。

あいつに1人で出て行かれたら困るんだよ。

それだけだ。

俺はラビットが去っていった方を見つめ逡巡する。

やがて俺は農園の北へ向かって走り出した。

フレアは多分、北の出口からこの農園を脱出するつもりだ!

とにかく事情を聞かないと!

俺は空を見上げる。

もう日が沈みかけている。

これから魔物の活動が活発になる時間だ。

急いで追いつかないと!

それにしても警官ギルド(ホワイトベル)に追われてるなんて、

フレアの奴、一体なにやらかしたんだ?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ