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第5話 スケルトンケアの少女

AM10:05 ドミナ


もうすぐ夕方だ。

ここがオールドファームか・・・・。

私たちスケルトンケアの”救済部隊”は、港から歩いて目的地へ向かう途中この村に立ち寄った。

ブリザード様はこの村で商談があるって言ってたけど。

商談ってやっぱりアレのことだよね。

嫌な予感を感じながら馬にひかれた荷台を見る。

鉄格子に囲まれた檻の中であの人たちが怯えている。

・・・・無理もないよね。

あの人たちから見たら隊員さんたちは皆、クマさんみたいなものだもの・・・・

自分たちより遥かに大柄な隊員さんたちに捕まって、その上船に乗せられて知らない大陸に連れてこられるなんて。

あの人たちの恐怖はどれほどのものなんだろう・・・・・

あの人たちの恐怖を想像しながら見つめていた時、檻の隅で膝を抱え込んで震えている人を見つけた。

きれいな女の人だ。

だけどその顔は恐怖で真っ青になり、今にも泣き出してしまいそうだ。

大丈夫かな?

「あ、あの、だいじょうぶですか?」

私は心配になって檻に手を入れてその人の背中をさすってあげようとした。

「触らないでっ!」

「きゃっ・・・・」

だけど、私が伸ばした手は彼女に触れることなくはたかれてしまった。

「貴様ぁ!ドミナさまに何をする!」

「ひっ!」

それを見ていた隊員さんが目を剥いて駆けてくる。

と、とめないと!

「あ!あの!わたし大丈夫ですから!」

「しかし!」

「ホントに、ホントになんともないですから。許して上げてください」

隊員さんは渋々わかりましたと言って持ち場に戻っていく。

女の人はさっきよりもさらに震えて、声を押し殺して泣いてしまった。

私のせいで余計怯えさせてしまった。

「・・・・ごめんなさい」

私は震える背中に向かって小さく呟いた・・・・。



「女たちを並ばせろ!」

この村で一際大きな屋敷の前に馬車を止めて檻が開かれる。

そしてピンクの首輪をつけた女性たちが檻の中から出されていく。

娼婦として売られるためこの大陸に連れてこられた人たちだ。

皆きれいな外見をしている。

やっぱり商談ってこういうことだったんだ・・・・。

「お願い!国に帰らせて!」

「黙れぇ!大人しく並ばんか!この難民(どれい)が!」

隊員さんに強引に腕をひかれた女性が暴れだした。

すると、

「もういやだ!俺たちをこっから出してくれ!」

「私たちを”パプリカ大陸”に帰してよ!この悪魔!」

「てめえら人間じゃねえ!!」

暴れだした女性に呼応する様に、檻に入れられている人たちが耐え切れなくなって叫びだす。

「黙らんかぁぁぁぁ!!!」

だけど隊員さんの大気が震えるほどの怒声に、みんな「ヒッ!」と小さく悲鳴を上げる。

「我々はあのような不毛な争いを続ける愚かな大陸から貴様らを”救済”してやったのだ!いわば貴様らにとっての救世主だぞ!感謝されこそすれ非難されるいわれはないわぁ!!」

パプリカ大陸から連れてきた人たちは、隊員さんの剣幕に圧倒されている。

「その上わざわざこのユーリエッセ大陸で、貴様らの才能を活かしてやろうというのだぞ!見ろ!我らユーリエッセ人の身体を!貴様ら貧弱なパプリカ人よりも遥かに屈強なこの身体を!この身体こそが我々と貴様らとの文明レベルの違いだと思い知れぇ!貴様らはこれからこの素晴らしきユーリエッセ大陸に尽くさせてもらえることを誇りに思っていれば良いのだ!分かったら檻の中で大人しくしておけぇぇぇ!!!」

隊員さんの言葉に皆悔しそうに下を向いている。

彼らは体が小さく一番大きい男の人でも180センチほどしかない。

栄養状態も悪く頬はコケ、あばら骨が浮き出るほど痩せ細っている。

それに比べてユーリエッセ人の隊員さんたちは、一番小さい人でも2メートルを超えている。

横幅も大きく、筋骨隆々の身体はパプリカ大陸の人たちの身体を素手で粉々にしてしまいそうなほど屈強だ。

パプリカ大陸の人たちが大人しくなったのを見て、隊員さんが満足そうに笑う。

「それでいい!大人しくしていたら、腹いっぱいメシを食わせてやるぞ!それも貴様らが故郷で食っていたくさいメシではない!この肥沃な大地で育った黄金に輝く作物をだ!私は見ていたぞ!貴様らこの農園の畑の前を通ったとき、目を輝かせながらみっともなく涎を垂らしていただろう?」

隊員さんの言葉にみんなはっとする。

そして畑の光景を思い出したのかお腹を押さえながら唾を飲み込む。

もうさっきまでの反抗的な態度をとる人はいない。

・・・・無理もないよね。

ここに来るまでまともな食事を与えて貰えなかったもの。

それにパプリカ大陸ではあんなに伸び伸びと育った作物なんて、見たことがないはずだ。

グリーンガーデンの人たちが幾年にもわたり、魔法による農耕技術を磨き上げてきたからこそ生み出された立派な作物を。

前に施設の先生が言っていた。

このユーリエッセ大陸は世界一裕福な大陸だって。

よその大陸から来た人たちは、その国力の差に圧倒されてしまうんだって。


例に先生はこんな話をしてくれた。

昔この大陸を侵略しようとしてた国が、大軍を率いて海を渡って来たことがある。

だけどいざ上陸しようと港へ近づいた時、仕事をしていた漁師さんたちの大きな身体を見てしまい、「キャプ翼かよ!!!」という謎の言葉を吐き残して、そのまま自分たちの国に尻尾を巻いて逃げ帰ってしまったらしい。

それくらい他の大陸の人たちからすると、私たちユーリエッセ人は恵まれた体格をしているということだ。

そして先生はこうも言っていた。

それはこの大陸が各々の魔法の力を存分に活かせる”ギルド共和制”の大陸だからだって。

そして、そんな体制の基盤を築いているのが私たちスケルトンケアなんだって・・・・




「ふぉっふぉっふぉっふぉ。パプリカ大陸のおなごは小柄で可愛いのお」

ピンクの首輪をつけた女性たちが並ばされ、屋敷の主と思われる老人の嘗め回すような視線に晒される。

女性たちは不快と屈辱に耐えながら顔を赤くして俯いている。

「ふむ。決めた。お前を貰うとしよう」

「えっ!!」

やがて男の人は1人の女性を指差した。

「あっ・・・・」

あの人はさっきの・・・・

「これはお目が高い。この娘は器量が良いだけでなく魔法の素質もありましてな。光魔法のBランクで魔力量も中々のものです」

「ふぉっふぉっふぉ!それは好都合ですなぁ。いい買い物になりそうじゃ!」

「い、いや。いや・・・・」

「ふぉっふぉっふぉ、今日からたっぷり可愛がってやるぞい」

「いやああぁぁぁぁぁ!!だ、だれかあぁぁぁぁ!!」

「グっふぉっふぉっふぉッ!バカめ!泣き叫んでも誰も助けてはくれぬわ!」

屋敷の男性に腕を掴まれた女性が悲鳴を上げる。

うっ・・・・

私は耐え切れなくなって目を逸らす。だが、

「よく見ておきなさいドミナ。これは救済なのだよ」

「ブリザード様!でも!」

「パプリカ大陸の惨状はお前も見ただろう?終わることのない民族紛争による虐殺と略奪、この中には家を焼かれ、家族を殺された者もいる。お前はあの地獄で生きていくことが奴らにとって幸せだと思うかね?」

「そ、それは・・・・」

私は答えに詰まる。

「これから奴らは施設で訓練を受け、それぞれの適正に合わせて”セントラルギルド”に配属される。我らスケルトンケアが文字通り透明から色をつけてやろうと言うのだ。そして奴らは自らの価値に気づくだろう。そしてその価値を活かしてくれるのはこの大陸だけだということを。その時奴らはユーリエッセの文明へと導いてくれた我らに感謝し、二度と地獄のような故郷に帰りたいとは思わないはずだ」

そ、そうなのかな?

「ここにいる者の中には将来、我ら”救済(ドナドナ)部隊”に配属される者もいるかもしれぬ。このユーリエッセ大陸の素晴らしさに惹かれた奴らは、喜び勇んで異邦人どもをこの大陸へと連れてくるだろう。その時こそ奴らは真の意味で我々の同胞となり、パプリカ系ユーリエッセ人として生まれ変わるのだ」

私達の・・・・家族に・・・・

「だからこそ今の奴らの姿を目に焼き付けておきなさい。そして奴らが身も心もユーリエッセを受け入れていく様を観察すれば、お前はこのスケルトンケアの素晴らしさを理解することができるのだ。なにしろ、こたびの遠征は”お前のため”でもあるのだからな」

「・・・・はい、ブリザード様・・・・」

・・・・私も、ブリザード様みたいにならないといけないんだよね・・・・。

女の人は必死に抵抗していたけど、屋敷の人たちに抱えられて連れていかれてしまった。

だけど屋敷に入れられて姿が見えなくなっても、まだあの人の悲鳴が聞こえる。

私は耐えられなくなり、耳をふさいで屈みこんだ。

そんな私をよそに、ブリザード様は満面の笑みを浮かべた屋敷の主に笑顔で話しかける。

「お買い物はお楽しみ頂けましたかな?」

「いやはや、おかげさまで今晩は素晴らしい夜になりそうです」

「それはなによりです。ところで、さっそく商談に入りたいのですが」

「ええ、もちろん。ついでに我が家でお食事でもいかがでしょうか?」

「これはこれは。ぜひいただきましょう。ドミナ、お前も来なさい」

「・・・・はい」

「よし!お前たちは補給が終わり次第、そのまま砦へ向かえ!」

ブリザード様は数人の隊員さんを残して、部隊に出発するよう指示を出す。

それを受け隊員さんたちは急いで準備を始める。

「・・・・ん?」

あれは・・・・

「どうかしたのか?」

「あっ、いえ何でもありません・・・・」

ブリザード様は、では行くぞと言って屋敷へ向かい、私もその後ろについて行く。

いまのは・・・・

遠くで物陰に隠れながらこっちを観察していたけど・・・・

あの”2人”は誰なんだろう?







AM10:05 ???

「おのれぇ。スケルトンの連中め」

「あっ!出発するよ。どうするの?」

「・・・・お前はこのまま奴らを追跡しろ。俺はあの娘を救出してからそっちへ向かう」

「どうやってあの屋敷に忍び込むの?」

「何とかするさ。・・・・それにしても」

「?どうしたの?」

「・・・・妙に胸騒ぎがする・・・・何か、恐ろしいことが始まろうとしているような気が・・・・」

「えぇ?恐いこと言わないでよぉ」

「・・・・こういう時の俺の勘は当たるからな。とにかくお前も気をつけろ」

「うん。???くんも早くきてね」

「ああ」

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