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第3話 乙女と猟師(前編)

チャンスは一度しかない。

これを逃したらもう私は逃げられない。

私の目の前で御者が大あくびをしている。

御者の目の前を大胆にも横切るが、彼の視覚が私を捉えることはない。

お願いだから、気づかないでよ~・・・・

やがて御者に気づかれることなく通り抜けることに成功する。

よし!

そのまま馬車の裏側に回る。

そして音を立てないようにそ~っと、荷台に上がる。

荷台の中は箱で溢れていて隠れるにはうってつけだ。

私は乱雑に置かれている箱に、脚をぶつけないよう奥に隠れる。

ふ~、もう大丈夫ね。

私は闇魔法”透明な(スケルトン)身体((ナイス)ボディ)”を解いてリラックスした。

ふっふっふ、ちょろいもんよ。

それにしても、あれだけ嫌いだったこの”闇魔法”がまさかここまで役に立つとわね。

ちょっと複雑・・・・。

だけど後はここでじっとしていれば、この”ブルーウォーター”から抜け出せる。

この馬車の行き先は”オールモストヘブン”だったわね。

ここからだと3週間は掛かりそうかな。

うへぇ、桃のようなお尻が潰れちゃいそう。

まあ贅沢は言ってられないか。


「よーし!出発するぞ!」

男の声が響いて、馬車が動き出す。

よし、これで!

出発した馬車はガタンゴトンと揺れながら進んでいく。

け、けっこう揺れるのね・・・。

馬車は何事もなく進んで行き、次第に町が遠ざかっていく。

もう後戻りは出来ない。

ごめんね母さん、アル・・・・。


AM10:05 フレア・ロングコート


「う、ううん・・・・」

今のは・・・・あの時の夢か・・・・。

はあ、今頃、馬車でのんびりしていたはずなのに上手くいかないものね。

「・・・・ん?」

あれ?ここどこ?

辺りを見回してみると、なぜか見知らぬ古い部屋にいた。

え?え?・・・・そ、そうだ!確か私はこの村のチンピラから逃げて、え~と・・・・それから、空腹と疲れで意識が朦朧として・・・・

必死に記憶を思い起こそうとしていると、がちゃりとドアが開く音がした。

「あっ。気が付いたか?」

ドアのほうを向くと若い男がこちらを見下ろしていた。

「だ、だれ!」

私は反射的に身構える。

「あ、怪しい者じゃない。この家の人間だよ。あんたがこの近くで倒れてたから、ここまで運んだんだ」

男は手を上げて敵じゃないとアピールするが油断は出来ない。

私は目線を男から外さず、手探りで武器になるものはないか探す。

見た所、身長は2メートル近くといったところか。

”大柄なユーリエッセ大陸の人間”の中では標準的な体格だ。

強引に襲い掛かられたらとても抵抗できない。

男は私が警戒を解いてくれないことに困っているようだ。

「一応、傷の手当てはしておいたんだけど、まだ痛むか?」

「・・・・別に・・・・」

男は私と距離をとりながら尋ねてくる。

さっきの話が本当なら私はこの男に助けてもらったことになる。

ありがたいとは思うけど、さっきのチンピラの事もあるしこの村の連中には警戒しないと。

ここはそっけなく対応するのよ。

「腹、減ってないか?」

「・・・・別に・・・・」

うそだ。

本当は腹が減って死にそうだ。

しかし隙を見せることは出来ない。

ここは我慢だ。

「その服、俺のでさ。ちゃんと毎日洗ってるんだけど、臭くないか?」

「・・・・別に・・・・んっ!?」

男の言葉にハッとして自分の格好を確かめてみる。

ぶかぶかのシャツとズボン。

明らかに私の服じゃない!

ていうか、さっき手当てしたとか言ってたけど。

私は急いで自分の身体を確かめる。

見ると本当に、傷だらけだった私の美しい体に包帯が巻かれている!

しかも、太ももや胸の周りにも!

私が取り乱していると男が「ああ、それな」と言い、

「回復魔法が使えたら良かったんだけど、この農園の奴に頼むと足元見られて結構金取られるんだ。悪いな。それで我慢してくれ」

違う!そういうことじゃない!

確かに傷は綺麗に消して、美しい乙女の柔肌を保っておいて欲しかったが問題はそこじゃない!

こいつ何勝手に、私の身体に直接包帯巻いてるのよ!

しかも泥で汚れていた体も拭かれてる!

そもそも着替えさせられてるし、これ間違いなく一度裸にされてるじゃない!

ていうか、ちょっと!私、下着つけてないじゃない!

このケダモノ!!

私はキッと目の前の男を睨みつける!

「ちょっとアンタ!!よくも乙女の身体を好き勝手してくれたわねっ!」

言われて男はハッとする。

ようやく自分の犯したことの、重大性に気づいたのか慌ててかぶりを振る。

「い、いや、俺じゃないって!知り合いの女にやって貰ったんだよ!」

男は顔を真っ赤に染めながら必死に釈明する。

その顔は嘘をついてるようには見えないが・・・・

知り合いの女?

本当でしょうね?

私が疑いの眼差しを向けると男は、

「ほ、ほんとだって。近所に住んでる幼馴染だよ。俺は一切あんたに触れてないから!」

「そ、そう・・・・ならいいわ・・・・」

まだ本当かどうか分からないけど、ここは信じておいたほうがお互いのためね。

取りあえず安心してほっと胸を撫で下ろす。

そしてふと私の服はどこだろうと見回す。

やがてサイドテーブルに私の服がきれいに畳まれているのを発見する。

そしてその上に・・・・下着と・・・・愛用の胸パッドが・・・・。

・・・・3カップ底上げできる高性能品が。

・・・・最高品質のスライムの死骸で作った特注品が。

わざわざ「この女の胸は偽者です」と言わんばかりに目立つよう置かれている。

「い、いや、それもラビットのやつが・・・・」

私の視線が胸パッドに注がれていることに気づいた男が取り繕う。

だが、その視線が一瞬、胸パッドを外された私の平坦な胸に注がれたのを見逃さなかった。

私は自分の顔が沸騰しそうなくらい赤くなっていくのを感じる。

私の肩が震えだし、男が再び慌てる。

「べ、べつに気にしなくていいと思うぞ!人それぞれ個性があるだろうし!」

そして、ご丁寧にこちらのプライドを粉々にする言葉をかけてくる。

その瞳にはどことなく憐憫の色が塗られている!

こ、このヤロウ!

私は怒りと恥ずかしさに身を任せて男に飛び掛ろうとするが、

ぐ~~~。

「うっ・・・・」

落ち着きな貧乳こっちが先だ、と言わんばかりに腹の虫が鳴りだす。

「や、やっぱり、腹減ってんだろ?今、メシ用意するから。食べるだろ?」

男が「なっ」と言いながら私を落ち着かせようとする。

くっ、悔しいけど確かにここでひと暴れするほどの体力はないわね・・・・

「・・・・・・・・食べる」

私がそう呟くと男は安心したのか、いそいそとキッチンへと逃げて行った。


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