第1話 きたねぇ村
AM10:05 フレア・ロングコート
「くせぇ・・・」
あまりの悪臭に思わず乙女らしからぬ呟きが漏れてしまった。
しかし、それも仕方のないことだろう。
魔物から逃げ回り続けて、ようやくこの村を見つけた時は涙が出るほど嬉しかったのに。
いざ村に入ってみると、まず視界に飛び込んできたのは・・・・豚!豚!豚!
しかもその体毛には乙女の口からはとても言葉に出来ないような汚物が、びっしりとこびりついている!!
入り口の看板にオールドファームって書いてあったわね。
見目麗しい乙女を家畜の糞の香りで出迎えるなんて、イイ度胸してるじゃない!
少しはこの豚どもを手入れしてあげなさいよ!
これだから田舎の連中は・・・・!
「いったたたた」
ううっ、傷が痛む。
まあ贅沢は言ってられないわね。
とにかくこんな衛生状態の悪い場所からは、一刻も早く遠ざからないと傷に障る。
そこの通りに入れば、こんなクソ田舎でも診療所の1軒くらいあるでしょう。
おなかだってぺこぺこで倒れそうだ。
酒場で熱々のピザを食いたい。ビールも飲みたい。
まあ、逃げてるときに財布落としちゃって無一文なんだけど・・・・。
だけどきっと優しい住民が暖かいご飯を恵んでくれるはずよ!
そして傷だらけの私を手当てをしてくれて、フカフカのベッド休ませてくれるに違いないわ!
田舎者は人が良いって言うしね♪
・・・・だけど、できれば豚料理は出てきませんように。
「ヒュ~~。ゲッヘッヘッヘッ、ねえちゃん見ねえ顔だなぁ」
「こりゃ上物だぜぇ。なあ~俺たちと一緒にイイことしようぜぇ」
豚野郎に遭遇してしまった・・・・。
もうやだ・・・・。
目の前の二人のチンピラは舐め回すような目つきで私の体を見ている。
ま、まずい!
「あ、あの、私急いでるので」
そう断って、急いでチンピラの横をすり抜けようとしたが・・・・
「遠慮すんなよぉ。姉ちゃんボロボロじゃねぇか。大方、魔物にでも襲われたんだろぉう?」
「かわいそうになぁ~。俺たちが精一杯、慰めてやるぜぇ」
そんな私の思惑を見透かしたチンピラが行く手を遮る。
そしてそのまま私の肩を掴もうとしてくる。
「ちょっと!やめてよ!」
慌ててチンピラが伸ばしてきた腕を強く振り払う。
すると今まで下卑た笑みを浮かべていたチンピラたちの顔に怒気が現れる。
「・・・・お~、恐え~。姉ちゃん気が強いんだなぁ」
「だけど怪我したくなかったら、大人しく俺たちの言うこと聞いといたほうがいいぜぇ」
「うっ・・・・。だ、だれか!」
周りを見渡すと何人かの住民が心配そうな目でこちらを見てくれている。
しかし・・・・
「あぁっ!!てめぇら何見てんだよ!!」
「見世物じゃねぇんだよ、非色民ども!!とっとと失せやがれぇ!!」
チンピラたちが怒鳴ると、住民たちは慌てて下を向きながら離れていった。
「ちょ、ちょっと!」
なによ薄情者!
田舎者は気の良い奴らばかりじゃなかったの?
チンピラたちは邪魔者がいなくなったとばかりに、へっへっへっと笑いながらさらに私ににじり寄る。
・・・・こうなったら。
私はチンピラたちに向かって右手を突き出す。
「おっ。何だよ魔法か?」
「どうせ、大したことは出来ねぇんだろ?」
今は揉め事は起こしたくはなかったけど・・・少し痛い目みてもらおうかしらね!
私は手のひらに魔力を収束させる・・・しかし、
ぐ~~~
「あっ・・・・」
せっかく収束したエターナルが霧散してしまう。
だ、だめだ。空腹で魔法が出せない。
恥ずかしい・・・・
私は顔を赤くして俯く。
「おいおい。腹減ってんだったら先に言ってくれよぉ。俺たちは農園ギルドなんだぜぇ。食いモンだったらいくらでも食わせてやるからよぉ」
「もちろん俺たちが姉ちゃんを頂いてからの話だけどなぁ。ぐっへっへっへっ、たっぷりもてなしてやるぜぇ!」
くっ、だけど攻撃魔法は無理でも・・・・
私は近くにあった水の入った樽掴んで、チンピラたちに向かってぶちまける。
「うわっ!何しやがる!」
チンピラが慌てた隙を付いて民家の脇にある路地へ駆け込む。
すぐに、まちやがれ!と怒鳴りながらチンピラが追いかけてくる。
よし今だ・・・・お願い!成功して!
民家でチンピラたちの視界から隠れた瞬間に、もう一度魔法を試みる。
ど、どう?私は恐る恐る振り返る。
そして路地に入ってきたにチンピラと目が合う。しかし、
「あ、あれ?あの女どこ行きやがった?」
や、やった。何とかエターナルが足りたみたい。
チンピラたちは私を完全に見失っている。
闇魔法”透明な身体”
自分の身体を透明にして相手の視覚から消える私の得意技。
闇魔法の中で最も低コストで使えるこの魔法なら、この場を乗り切れる。
私は足音を立てないよう、ゆっくりと後ずさる。
どこいきやがった!とあたりを見回すチンピラ。
ふっふっふっ、バカな豚男たち。
それにしても、こいつらグリーンガーデンとか言ってたわね。
こんなか弱い乙女をいきなり犯そうとするなんて!
さっきの住民に対する言動といい、随分好き勝手してるみたいね。
気をつけないと。
やがてチンピラたちは諦めたのか、乱暴に民家の花壇を蹴り飛ばしながら通りへ戻っていった。
ふ~。あぶなかったぁ。
危うくあんな薄汚い豚男たちに私の大切な○○○を○○○されるところだったわ。
ぐ~~~。
「うっ」
安心したらまたお腹がなってしまった。
まずいもう限界だ。
いつ追っ手がこの村に来るか分からないのに・・・・。
とにかく早く空腹を満たして、傷の手当をして、お風呂に入って、歯を磨いて、フカフカのベッドでぐっすり眠って、金を手に入れて、旅の支度をして、優秀な魔法使いを仲間にして出発しないと・・・・・。