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マッチポンプで世界が変わる!?  作者: オーメル


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第一試合・カンピバランス

「――緊急メッセージだ!」


 遅れを取り戻す為に早め早めにと進む授業の中、蓮司の仕事用携帯が重厚な音を立てる。

 生徒も教師もそれだけで何が起きているのかを察し、直ぐに教師は尻ポケットに入れていた携帯を操作して全体に通達を告げる。

 そうなれば後は大騒ぎ。何度怪獣が襲い掛かっても、人は慣れることが出来ずに不安と焦燥に支配されながら何とか教師の後ろを付いて行くのだ。

 

 奈々の居る中学でもそれは変わらない。いや、寧ろ精神年齢が低い分だけ騒がしさは此方が上だ。

 宥めても宥めても泣き出す女子、俺が倒してやると無謀な掛け声をする男子。

 避難施設にまで他の生徒の手も借りながら逃げている最中――――そいつは東京湾から飛び出すように現れた。

 ヴェルサスから発表されたSNSの情報では、対象はこれまでの中でもサイズは控え目。黄色く丸い嘴に赤味の強い肌色のカピバラと特徴は少なく、全体的に皺も目立っている。

 

 これまではもっと強烈な特徴があったが、今回の怪獣におよそ破滅を呼ぶような武器は確認されない。

 とはいえ、ビルと同等の大きさを持つ巨体が動けば死人が出るのは間違いなく、防衛施設は全てが緊急で稼働することとなった。

 これまでの教訓を生かし、人員の動きは早い。平和を維持する為に更なる鍛錬を積んだ兵士は、最早これまでの質とは異なる。

 一瞬一秒が生死を決めるのはこれまでも一緒だ。しかし、日本は大災害が起きた場合や派遣される場合以外で生死を彷徨うことは少ない。

 

 明確に、目前に、圧倒的な速度で、怪獣という脅威が居る。

 防衛本能を常にフルにするような生活は、例え普通に過ごしていても感覚を敏感にさせた。

 それは空我のある東京のとあるドックでも変わらない。本部所属である特務機動部隊は全員が集められ、隊長と情報を纏めた各オペレーター達による説明を受けていた。

 そこには空我の生みの親である黒髪の博士の姿もある。彼は隊員達の背後で短めの情報通達を聞きつつ、緊張を滲ませていた。

 

 矢部・孝典。

 二十七歳の若き博士は世間から大いに注目を受け、天才発明家の異名を欲しいままにしていた。

 彼の来歴は酷く平凡なものだ。一般家庭に生まれ、小学と中学は好成績を収め、テレビに映った発明家達のヒストリーに触発されてそちら方面の高校と大学に進んだ。

 彼が発明の題材にしたのは新素材開発だった。元々アニメやゲーム等を好いていた彼は現実を少しでも二次元に近付ける為、既存の方法とは異なる新エネルギーや資源の獲得を目指したのだ。


 しかしそれは他の学生や教授達からは馬鹿にされるもので、出来る筈もないと嘲笑の的になったのである。

 金の無駄、時間の無駄、オタク丸出しの気持ち悪い理屈。

 幾度となくそう言われ、されど彼は諦めずに無視を決め込んだ。誰も出来ないと思っているからこそ手柄が取られることなく、そして手伝いも無いまま二年を過ごした。

 切っ掛けは突然だ。ある日トイレをしている最中、呆けた頭で適当に次の実験について思考を巡らせていた。

 

 回数は三十を超え、試せる内容も僅か。

 次も成功する筈がないと無意識に思っていた刹那、訳も解らぬ予測が脳裏を過った。

 それは天才特有の閃きだったかもしれない。あるいは無数の実験によって出された結果を統合した、努力の結晶だったのかもしれない。

 兎にも角にもと今現在の実験を取り止め、忘れる前に書き殴る勢いでメモに残した。


 最終的な結果は成功。

 彼は人類が未だ到達していない未知の素材を生み出し、それは空我の完成に最も貢献したと言っても過言ではない。

 彼が居ればこそ、今の空我がある。設計した人は別だが、その設計には矢部の新素材を用いることが大前提とされていた。

 更に空我の操縦には既存のパイロット方式を捨て、搭乗者の動きを機体の動きに反映させるトレース方式に変えている。

 これによって直感的な動作が可能となり、なるべく少ない時間でも一人前の動きに近付くことが出来るようになった。

 

「以上が我々の作戦行動だ。 支援があるとはいえ、止めを刺すのは我々である。 パイロット三名は隙を見つけ次第確実に仕留めよ! 以上!!」


『了解!!』


 野太い声が響き、パイロットを含めて全員が走り出す。 

 出撃に必要な時間は三分。実験三昧の日々を過ごしていたとはいえ、空我に過度な損傷を負わせることはイベント以来まったくしていない。

 搭乗し、システムを立ち上げ、その間に武装パックを取り付けて緊急発進だ。

 矢部は自衛隊の観測班が送る映像と機体カメラから見える映像を両方眺め、拳を握り締めて自身の発明が成功物であることを祈った。

 そこに生死は含まれていない。そもそも、怪獣と戦う時点で命など捨てるようなもの。

 矢部も過度に関わりを持たず、基本的には知り合い以上友人未満を貫いた。


「怪獣の解析を急げ。 攻撃のタイミング、弱点、怯ませる程度でも全て報告しろ」


「了解しました」


 オペレーターのキーボードを叩く音が響く中、指揮官の男は隣に居る矢部を見る。

 細い人間だ。一般兵でも殴り殺せるような体躯で、顔色も然程良いとは言えない。日々結果を出す為に無理を重ね、寿命をすり減らしながら空我に心血を注いでいた。

 此処で成功せずにヴェルサスに手柄を持っていかれれば、矢部は倒れるだろう。

 空我を見ているのはこの場の面々だけではない。上層部も眺め、今回の戦闘記録は諸外国にも公開される。

 世界で初の純粋な技術力による勝利と表向きは題されているが、裏側にあるのは我々こそが一番だという優越だ。


 くだらない話だと指揮官は思う。

 特務機動部隊とされたこの集団は人々の注目を集める客寄せパンダの側面を持ち、同時に不祥事の際に切り捨てる為の集団でもある。

 世界の未来を切り開く名誉ある部隊とされながら、隊員集めは極秘裏に進められた。

 防衛大臣が発表をするまでは緘口令が敷かれていたのだ。だから集まった数も他の大隊と比較すると極端に少ない。


「――まったく、理不尽なことをしている場合ではないだろうに」


「どうかしましたか?」


「いえ、お気になさらず」


 訝しんだ表情の矢部の言葉に適当に返し、ただ勝利を願う。

 この戦いは初陣でありながら次の機会が無いものだ。一度の失敗が皆の今後の生活に繋がり、良い方にも悪い方にも容易く転がる。

 何せ此処に居るのは居なくなっても問題無い兵士達ばかりなのだから。

 今の自衛隊組織に疑問を持った者、純粋に能力が低い者、素行がよろしくない者。

 寄せ集め部隊と表現するのが正しい程、この部隊には存在価値と呼べるものが現状まったく存在しない。

 

 ヴェルサスに頼りたくなく、かといって自分達が危険な綱を渡りたくない。

 その結果がこれだと思うと、指揮官は内心で失望を抱くことしか出来なかった。

 暴れる怪獣の映像を他所に、空我がドックから外に進み始める。空戦パックを身に付けた空我は空を飛んで先行し、なるべく市街地から引き離す。

 その間に砲戦パックが遠距離から徹甲弾を撃ち、可能な限りの損傷を加える。――そして、近接パックが止めを刺す算段だ。


「頼むぞ――鳴滝」


 この部隊には様々な要因で排除された者が所属している。

 その事実を知るのは指揮官だけだが、他の人間も薄くともそれを理解していた。自分達は栄転したのではなく、崖っぷちに追い込まれているのだと。

 だからこそ皆必死なのである。この時勢で次の職に就くのは難しいし、純粋に舐められたままであることに納得出来ないから。

 

 背面のブースターから炎が点き、一機の空我が空を舞う。

 その後ろを二機が脚部の車輪を回転させて地を進み、戦場へと足を踏み込んでいく。

 空我に乗った状態で視認した怪獣は、これまで資料に載っていた姿と比較して小さかった。肌も柔らかそうで、思いの外脅威的には感じられない。

 

『G-1より各機へ。 先ずは対象を戦場より離す』


『G-2了解』


『G-3了解』


 確認を取り、空戦パックは大型のライフルのトリガーを押し込んだ。

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