空我 ――THE・NEW HERO――
『大変お待たせ致しました! これより新兵器のお披露目をさせていただきたいと思います!!』
三十分は経過した頃。
イベントステージにて若い隊服の男が元気よくマイクに開会の宣言を行う。
その言葉だけで一般客は大盛り上がり。早く見せろと囃し立て、数々の声を聞いた司会役の隊員は満足気な笑みで何度も頷く。
だが、いきなりお披露目とはならないのが世の常だ。此度の発表は世界中に放送され、今も何処かの誰かが録画していることだろう。
先ずは形式通りに諸注意を行い、次に今回のイベントの流れを説明する。
第一部は新兵器そのものが登場し、デモンストレーションとして模擬戦を行う。
戦いながら司会が解説を挟み、更に現状開発されている追加兵装についても全て見せる予定だ。
そして一時間の休憩を挟み、第二部はより専門的な話になる。
この時点で殆どの客は居なくなるであろうが、世の中には兵器マニアが無数に居るのだ。動画を作って再生数を稼ぐにせよ、第二部の話は絶対に聞き逃せない。
その為、居なくなりはしても数百は残る。その数百人が居るだけでも開催側は満足だ。
『なお発表中は外に出ることは出来ません。 飲食物は移動販売員の方から購入してください。 お手洗いは一階にありますので、慌てずにご利用してくださると幸いです。 ――それでは、早速登場していただきましょう!』
司会者の奥。薄暗く巨大な登場口から、重く響く歩行音が鳴る。
BGMも無しに聞こえる機械音に人々は瞬きもせずに待ち、やがて三機の人型機動兵器が若い女性アイドルと手を繋いで登場した。
全長は約三m。濃緑色のボディは胴体部分が若干太く、手足は比較的細い。
頭部には一対のモノアイが搭載され、赤い光を仄かに放っている。
肩部は丸く、膝も丸い。肘には銃のマガジンのような物が付けられ、何らかの役割を持っていることは一目瞭然だった。
デザイン性を気にせず、無骨な雰囲気を漂わせる兵器は得も言われぬ圧がある。
その圧を有名アイドル達が手を振ることで緩和させ、人々を興奮の渦へと叩き込んでいく。
VIP席に座る面々もそれは一緒だ。
皆一様に感嘆の吐息を漏らし、少数が勝ち誇ったような顔を蓮司達に向ける。
その視線に鬱陶しさを感じつつも、二人はその目と頭に新兵器の姿を叩き込んだ。
『この兵器はXK-00――空我と名付けられました。 対怪獣兵器の先鋒として、彼等は勇壮な活躍を見せてくれることでしょう!』
兵器こと空我は緩慢に、されどスムーズにアイドルから離れて正三角の形で待機する。
搭乗者は出てこない。あくまでも発表は空我だけであって、そのパイロットについては今日は関係無いのだろう。
全員が正常に動くのを確認した司会者は一度頷き、ではと最初の演目を発表する。
その内容は三次元機動。完全な人型兵器はバランスを保つのが難しく、走る真似は絶対に出来ない。
歩くだけでも倒れる危険があるのだ。本来なら二本足にするのではなく、四本足やキャタピラを搭載したタンクにするべきだろう。
それでも二足を採用したのには理由がある。その内の一つが、日本の科学力を世界に知らしめることだ。
空我は自然な動作で直立体勢から足を広げた体勢に移行する。足には四つの大型車輪が付けられ、合計で八つの車輪が急速に回り始めた。
先ずは直線から。その速度は三mの二足歩行ロボットとして見るのであれば非常に速く、会場の端から端まで十秒も必要としない。
会場の壁に直撃する前に三機は急激なカーブを描き、全員が等間隔で円形の会場を三周した。
その後に三機は飛び跳ね、予め右腰にマウントされている小型の銃器を構えた。
刹那、空中に居るヘリから大小様々な黒い的が投下される。三機は空中で落下する的を正確に撃ち抜き、全てが地面に着いた頃には殆どがピンクのペイントで染め上げられていた。
更に演目は続く。
先程空我が出て来た場所から三機分のプラスチックの案山子が姿を現した。
案山子は横一列に並び、その場で静止。三機は脚部に内臓された硬質ナイフを引き抜き、加速しながら鮮やかに首を切断した。
「おお、中々な性能じゃないか……」
「最初はどうなることかと思いましたが、上手くいきましたなぁ」
資産家達の声は実に喜々としていた。
折角金を投じたのに、何の成果も無かったのでは話にならない。前代未聞の開発に投資を行うのは不安の方が強かったが、先々の怪獣被害を懸念して彼等は金を出している。
そして、見事なまでの挙動を空我は見せた。それはそれは喜ばれるのも当然で、今後の対応で前線を張ることになるのは間違いない。
これまで、戦闘ロボットと呼ばれるものはアニメや漫画でしか見ることのないものだった。
今でこそ無人兵器や一部自動化された機械もあったが、純粋に人が搭乗して操る機動兵器は存在していなかったのである。
「五だな」
「六くらいはいきそうじゃない?」
周囲が感動している最中、蓮司と奈々は冷静に言葉を述べる。
空我の存在は仕事でなくとも手放しに喜べるものだった。自信満々に発表するに足る、見事な性能をしていると言っても良い。
けれども、それが怪獣に通用するかどうかは別の話。蓮司も奈々も一線級の人間に教えを受け、彼等の全力とはいかないまでも戦闘力を肌で感じている。
そこから考えるに――あの兵器では怪獣を打倒するのは難しい。
勿論、あの兵器一機だけで怪獣を倒すとは思っていない。
それなら足りない部分が多過ぎる。地力も決定打も無い状態で一体どうして怪獣を倒せると豪語出来るのか。
空我は複数運用をしてこそ怪獣に届くと言って良いだろう。その証拠に、模擬戦の準備として三機は新たに入り口から登場した追加兵装を肩や腰に装着している。
一つは背中に付けられた細長く巨大な砲と、肩に取り付けられた二門の機銃。
一つは折り畳まれた羽と思わしき推進装置を背中に付け、銃身の長い武器を右手に握っている。左腕には無骨な長方形の盾が装着され、機体を守る役割を担っているようだ。
最後の一つは長大な剣だ。鈍色に輝く刀身が背中に付けられ、左右の腕には横に広がるアームがある。
三つの役割は明確だ。
巨大な砲から長距離射撃を得意とし、推進装置が付いていることから空中戦を得意とし、剣を持つことから近距離戦を得意としている。
これが対怪獣を目標に掲げた空我の武装。その姿は勇壮で、ある種の中世時代の勇者を彷彿とさせる。
『さて、パフォーマンスはここまで。 ここから先は三機による模擬戦を始めさせていただきます。 今から三機はこの会場に隣接しているフィールドで戦ってもらい、如何に空我が怪獣を打倒するに足るかをお見せしましょう!』
空我が自前の推進装置を用いて、隣のフィールドへと跳ねる。
空中戦用の装備を付けた空我だけはそのまま空を飛び、準備をしている合間に会場に最初から設置されている巨大モニターに明りが点いた。
そこには隣のフィールドが映し出され、三機の空我が居るだけとなる。
他に人間は見えず、ただ勝負の為だけに用意された場所だと全員が理解した。
「どれが勝つと思う? 私は空を飛んでいるのかな」
「なら俺は……剣を持っている方かな」
二人の言葉に、他の要人達は賭け事を始めた。
適当にポケットマネーを賭け金にし、自身の意見で賭けていく。突発的な賭け事に内部に居た職員は、しかし動揺もせずにホワイトボードを用意して賭け内容を書き込んでいく。
要人の数は蓮司と奈々を除けば十三名。その殆どが二桁万円程度の金を差し出し、金持ちの道楽に蓮司は不快感を抱かずにはいられない。
遊びでやっている訳ではないというのに、どうして少しでも安心すると遊びだすのか。
唯一賭けなかったのは、やはり蓮司達を熱心に見つめる老人だけだった。




