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マッチポンプで世界が変わる!?  作者: オーメル


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誰の掌の上で人々は踊るのか

 テーブルの上には複数の機械が置かれている。

 タブレットから始まり、マスクの視覚情報をモニタリングするモニターにスーツ内に備え付けられているセンサー類をより正確に分析する小型パソコン。モニタリング用とは別にSNSやニュースの情報を知るモニターも用意され、無数の配線が床にそのまま伸びている。

 足の踏み場はあるが、急いで走れば躓きかねない。

 これが日常的に使われる装置群ではないからこそ、彩斗は澪の行動を黙認していた。


「準備は出来たよ、いよいよ挑戦の時だ」


「いっつも挑戦の気がするけどな」


「今回の挑戦は僕等じゃないよ、解ってるでしょ?」


「勿論」


 追加されたモニターの一枚には北極で生成されている怪獣の姿がある。

 設計図通りの見た目になった怪鳥は翼をたたみ、今は二本足で立ったまま首を静かに下げていた。

 見ようによっては寝ているかのようだ。既に外側は完成し、残るは内側の臓器を幾つか生成するだけである。

 その臓器自体は無くても別に問題は無い。死体となった怪鳥が生物であることを誤認させる為の物体であり、解剖されるまでは精々氷塊を溜め込むだけのマガジンである。

 

 この怪鳥は他二体に比べ、明確に弱い。

 スペックを見れば見る程に肉体的強度は低く、されど速度と氷結能力が殺人的に厄介極まりない。

 単純速度でマッハ六。戦闘機を軽く凌駕し、北極から日本への到達に三十分も必要無い。戦闘時になれば幾分か速度が落ちるものの、それでもマッハ二から三までを維持したままだ。

 体当たりだけで人が死ぬ。それでさえも攻略は難しいのに、この怪鳥は口から氷の息や内部で生成された氷塊を放つことが出来てしまう。

 

 上空から極大の霰を降らせることも出来るのだ。直撃でもすれば人体など粉砕一直線である。

 これでマグマックスのように硬ければ現実的解決は不可能だ。あの亀の段階で絶望的だった状況が余計に酷いものになってしまう。

 澪の加減次第で出来てしまうが、だからこそ手加減をして攻略可能に留めていた。

 彩斗が相手をするのであれば彼女も全力を出すが、今回の主役は蓮司だ。彼を更なる沼に沈める為にも、そして二人が楽しむ為にも、この戦いは出来れば成就してもらいたい。


「手筈を確認するよ。 先ず第一として、出現と同時に蓮司と奈々に情報伝達。 避難を最優先とするけど、速過ぎる所為で避難が間に合わない」


「自衛隊の配備も間に合わず、日本の首都に怪獣は到達。 避難が続く中で怪獣は暴れ始め、それを俺が阻止しようと動く」


 怪獣の出現を一早く察知したとしても、そもそもの怪獣の移動速度が異常であれば避難が間に合わないのは道理。

 文句を言い出す人間は多いだろうが、人間である限り出来ることには限界がある。理由を確りと説明すれば、要らぬ批判は消えるだろう。残るはただ排除したいだけの馬鹿や、有識者ぶりたいだけの愚者だ。

 

「時刻は少年が帰る放課後直後。 モザンと一緒に行動させれば誘導も上手く行える筈さ」


「そうだな、ついでに万が一にも備えることが出来る」


 再三だが、彼等両名は殺人を犯したい訳ではない。

 日本襲撃時にも建物を破壊することはあるだろうが、それは確認した上での破壊活動だ。重要施設を狙うつもりはないし、避難した者達を恐怖の底に陥れる為に近くの建物を破壊し尽くすこともしない。

 かといって世の中には偶然という言葉がある。その偶然を可能な限り回避するなら、モザンを誘導役にするのは適任だ。

 

 他にも彼女には役目はある。相手は速度を重視する戦いを行うので、彩斗の攻撃が命中する確率が極端に下がってしまう。

 基本的に彼が勝つのは定まっているが、今回は蓮司に活躍してもらわねばならない。――双方の良いとこ取りを狙う為に、モザンにも攻撃を仕掛けて時間稼ぎをしている印象を少しでも周囲から薄めるのだ。


 追加でもう一つ澪と彩斗で仕込んだ事があるが、それは本番で上手くいけば姿を見せてくれるだろう。

 この戦いは他の二戦と異なり、運要素が高い。外れば残念、当たればより世界が面白くなる。失敗しようが成功しようが二人には何のダメージも及ばないが、出来れば当たってほしいと彩斗は蓮司に祈っていた。

 どうか期待通りの結末を見せてくれ。その為に分不相応な力を与えたのだから。


「さて、明日の夕方頃には世界中がパニックに包まれる。 今の内に食材の買い出しや再度のメンテをしておこう」


「じゃあ買い出しに行ってくるよ、今日は何が食べたい?」


「麻婆豆腐」


「了解。 んじゃな」


 現在は夕方。丁度学生の帰宅時刻であり、今から買い物に出れば店内は人で溢れていることだろう。

 安い商品が並ぶ店は総じて人気だ。業務スーパーは嘗てよりも人気になり、非常事態に備えて店側も非常食や防災グッズを並べるようになった。

 財布を片手に彩斗は周囲を見やる。

 彼が住む街は大地震によって見事に様変わりしたが、同時に復旧も一番早くに行われた。

 

 今やこの街も元通り。いや、ヴェルサスのメンバーが住んでいるが故に移住者は増えている。

 東京は依然として通常通りだが、特に高知から移住者が増えていた。他にも海に面している県から離れる人間も多く生まれ、漁や一部のレジャー施設も停止を余儀なくされている。

 今後も海から怪獣が出現した場合、ますます人は海から離れていくだろう。

 彩斗が見ている限りでも見知らぬ人間が増えている。元々住んでいた人間も居るだろうが、人通りが爆発的に増えているのは確かだ。

 

 スーパーで買い物をしながら、これはよろしくないと彩斗は考える。

 人の密集は安心を生む。しかし同時に、集中し過ぎた場所には多くの品が不足する。別の場所にはあるのに、その場所に行きたくないからと安全圏内の店ばかりを皆が巡れば、必然的に危険域にしか品物が残らなくなってしまう。

 

 空からの強襲は人々の危機意識に変化を齎す。

 安全な場所など存在せず、自衛の心得を常に持っていなければ安心を守れない。

 普段よりも値上がりしている商品をかごに入れながら今後のシナリオを思い出し、内心で修正しつつ記憶に留める。

 澪に伝えれば返事が来るであろうが、今はその時ではない。先ずは怪鳥の撃破を終わらせ、今後の未来は更に期待出来ると確信してから話すべきだろう。


「……ん、あのCMって」


 スーパーを巡っていると、見知った声が耳に届いた。

 声の発生源は一台のモニター。家のテレビで流れるCMをスーパーで流し、購買意欲を促進させようとしていた。

 よくある手法だが、出ている芸能人は現役アイドルである百合の姿。

 水着姿は若干季節外れではあるものの、見事なプロポーションによって無数の男達の視線を集めている。

 彼女が紹介しているのはスポーツドリンクだ。新作の商品を飲んで元気に走り回る姿は若者特有の瑞々しさに溢れている。


「……頑張ってるみたいじゃないか」


 彩斗が与えた通りの役目を彼女は今も続けている。

 それしか他に方法はないと錯覚している彼女は必死に仕事を受け、今も笑顔を浮かべてアイドルとして努力している。

 生活の全ては居場所を得る為。両親に絶望し、兄に見放された女は立場を求めて今も足掻いている。それを愚かと嘲笑うつもりは彩斗には無い。


 関係の無い所で努力する分には彩斗も応援するつもりだ。成功した時に偶然鉢合わせになったら、素直に祝福くらいはする。

 絶縁したのに罵倒するのは違うだろう。赤の他人となった彼女に対し、彩斗は最早妹という認識は半ば喪失していた。


 ――いやぁ、やっぱり可愛いなぁ。

 ――そうだなぁ。近頃は積極的に活動してるし、ファンも増えてるよ。

 ――近々ライブもやるんだろう?確か場所は……。

 ――東京だよ。怪獣騒動の所為でやれるかどうかは解らんが。


「奇妙なタイミングだな」


 耳に入る言葉に呟き、彼は会計に向かう。帰ってくるまでの間にモザンも家に戻っているだろうから、早めに準備をしなければならない。

 記憶から妹のことを追い出し、そそくさと帰路についた。その意識は既に明日の戦いにのみ向けられている。

 だが忘れてはならない。偶然とは誰の元にもやってくるもので、どれだけの力を有していても運には影響されないのだ。

 当日はあらゆる事が起きるだろう。その中には澪も彩斗も予測していなかった出来事も含まれている。


 それを理解していれば、きっと彩斗は予定を変えてでも東京での戦いを最短で終わらせていた。

 だが、それを知るのは事が起きた後だ。故に彼には避けられない。運命と呼ぶものが実際にあるのなら、彼は最後まで最上・彩斗と言う人間から逃げられないのだ。

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