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マッチポンプで世界が変わる!?  作者: オーメル


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疑似超能力者は人類の夢

「奈々はもう帰ってるんですね」


「高校に比べれば中学の方が終了時刻は早いみたいだね。 周囲の状況を探った時に小学校がお昼に終わったみたいだから、なんだかんだ皆まだ早帰り中だよ」


 帰り道。二人で横並びになって進む帰路は穏やかなものだ。

 見られているし時折話し掛けられもするが、モザンが柔らかく受け流すお蔭で足が止まる時間は短い。

 昔から慣れているのだろう。その美貌であれば周囲が放っておきはしなかったであろうし、彼女の落ち着いた物腰は人生の中で培ってきたものだ。――ということになっている。

 実際は内心面倒に感じながらも隠しているだけだ。出来ることなら殺してしまいたい程、今の彼女は精神的に負担を感じている。


 たかが送り迎え。それだけでも無駄に注目を集めていた。

 人間の情報については事前にインプットされているが、間近で接すると如何に珍しいものに群がり易いかが解る。

 SNSもチェックしているものの、やはりというべきか校門前で群がる学生と変わらない。

 どうにかして接点を持とうと必死で、その様は滑稽だ。政府の人間ですらそうなのだから、この無様さは永遠に喪失しないだろう。


「そういえば、モザンさんは今もレッドさんの所に住んでるんですか?」


「ん? ……そうだね、部屋を一室貰ってそこで生活してるよ」


「技術部門に居たってことは道具も持って来ていると思うんですけど、大丈夫なんですかね? スペース凄い必要だと思うんですが」


「それは大丈夫さ。 あっちも何時かは技術者を呼ぶつもりだったみたいだし、最初から余ってるスペースがあったよ」


 雑談をしながら歩く。

 年齢が近いことも相まり、歩く二人は友人同士にも見える。指摘すれば蓮司自身は慌てて否定し、モザンは面白半分で揶揄うだろう。

 蓮司はこの空間を心地良いものに感じていた。昔の情けない自分は泣きそうな顔で帰路を歩くことが多くて、誰とも親しい話が出来ていない。その所為か最近の芸能事情やファッション等にも疎く、彼の持っている知識の大半は酷く偏ったものだ。

 学生らしくない堅物なニュースに、ヴェルサスの特集が組まれた番組。アニメもドラマも見ず、最近の若者向けの情報に疎いままではいざという時に会話にならない。

 

 だが、モザンはその辺の話を一切しなかった。

 好きな芸能人も、好きなアニメもドラマも、まるで合わせてくれているかの如くに口には出さない。

 出すことがあるとすれば、それは蓮司自身についてやヴェルサスについてだ。関係性としては仕事の先輩後輩に当たるものの、その繋がりに彼は穏やかさを感じている。


「――僕は鍛錬の風景を見ることは無いから解らないけど、実際のところどれくらいは強くなったの?」


「どれくらい、なんでしょうね。 昔は不良に殴られても反抗一つ出来ませんでしたが、今日喧嘩を売ってきた時には簡単に投げれました。 ……レッドさんの動きに目が慣れたんですかね」


「そりゃね。 きっとまだまだ本気にはなってないんだろうけど、あの人が鍛えるんなら成長しない方がおかしいよ。 それが僅かなものだとしてもね」


「はい。 それにフローさんにも口頭で指摘を貰い続けてました」


「あー、あの人の指導も受けてたの? 結構厳しいんじゃない?」


「そうですね、容赦は無いと思います」


 思い出し、遠い目をする蓮司。

 レッドは純粋に模擬戦をしながら動作を指摘する。厳しい口調ではあるが、動きが正解であれば短くも褒められることはあった。

 しかしフローは違う。彼女は言葉で無駄な箇所を指摘し、それを直してもまた別の指摘を行う。

 褒められたことは一度として無く、直接指導を受けている奈々も一緒だ。彼女の場合は純粋に褒められないのでレッドに鍛錬を付けてもらいたいと愚痴を零していた。

 

 それを言うと、モザンはあーと納得の声を漏らす。

 やはりフローの厳しさはヴェルサスでも周知の事実なのだ。その厳しさの根底にあるのは何なのかと、思わず蓮司は質問する。

 

「あの人はねぇ、基本的に誰にも興味が無いんだよ」


「誰にも?」


「そ。 だからヴェルサスに新メンバーが増えても彼女は特に何も言わないし、仮に僕が死んでも彼女は表情を変えないだろうね」


「そんなこと……」


「あるよ。 あの人も創設者の一人ではあるけど、基本的に彼女が重視するのはレッドだけだ。 レッドが作りたいと言ったからヴェルサスが誕生したと言っても過言じゃない」


 思わぬ話に、しかしはてと蓮司は首を傾げる。

 フローが他者に無関心なのは理解した。であるならば、どうして自分が仲間に加わることを良しとしたのか。

 レッドとの戦いにおいて、最終的に戦いを止めたのはフローだ。彼女は態々戦う必要は無いとレッドに告げ、蓮司の覚悟を肯定したのである。

 その姿に排他的な姿は無かった。何処か優しさも含んだ言葉に、モザンの語るフローとは重ならない。

 

「でも、フローさんは俺の覚悟を肯定してくれました。 合格だと」


「……珍しいことだよ、それは」


 僅かに驚きを表に出したモザンは、素直な称賛を口にした。

 珍しい。心底において珍しい。――あの女が愛しの男以外を合格扱いにするなど。

 

「覚悟を示した程度じゃあの人は認めちゃくれない。 きっと、君の根底にあるものがあの人の何かを揺さぶったのかもしれないね」


「揺さぶった、ですか」


「そう。 その内容は僕にも解らないよ。 解るのは本人だけだ」


 それでも、フローは蓮司を認めた。その事実だけは覆せず、どんどんヴェルサス内でも蓮司の注目度は上がっていくだろう。

 だからこそ、とモザンは次に真剣な顔を浮かべる。


「君は極めて希少な人間なのかもしれない。 レッドとフローが合格を出した人間なんて、創設者の最後の一人だけだ。 ……もしかすると身内がちょっかいを掛けるかもね」


「嫌な予感がするんですが……」


「まぁ、概ねその予感は正しいよ。 此方のメンバーは誰も彼も個性的だから」


 顔を逸らしながらの言葉に蓮司は自身の口が痙攣していることを自覚する。

 ちょっかいってなんだ、ちょっかいって。攻撃されるのか、何か命令されるのか、はたまた遊ばれるのか。

 どれもこれも可能性がありそうな気がして悪寒が流れる。夏も終わりかけだというのに、汗が制服を湿らせた。

 

 仮に本当にちょっかいを掛けてくるとして、蓮司の中での基準はレッドだ。あの剛腕で一回殴られるだけでも身体が粉砕される。

 軽く蹴られても骨折は免れない。それも綺麗なものではなく、複雑骨折とより悪いものだ。

 思わず蓮司はモザンに無言の助けを求める。彼女が静止させてくれればと一縷の望みに掛けるも、現実は無情なもの。首を左右に振られれば絶望するしかない。


「今はリーダーが止めてくれてるけど、今後どうなるかは流石に解らない。 ――だから君にこれを渡しておこうと思う」


 パーカーの内側に手を伸ばし、モザンはそれを蓮司の前に出した。

 長方形の液晶のような箱。黒いカバーが付けられ、さながら一台の携帯のようにも見える。

 蓮司はそれを見ても困惑するだけだ。一体これは何なのかと。

 視線で問いかけるとモザンは一度頷いて説明を始める。これは無能力者である蓮司を守る為の機械であると。


「無能力者を疑似的な超能力者に変える機械。 正式名称はFake monster change。 略してFMCだ」


「FMC……」


 受け取った機械を眺めつつ、その言葉の意味を察する。

 Fake。即ち嘘。それは無能力者でありながらも超能力者らしく振る舞えることを指す。

 怪物の名も皮肉が効いている。能力の無い人間が怪物の如き人間に変わるのだ。

 正しく悪魔のような装置。蓮司が持つにはFMCは荷が重過ぎる。


「操作は全て音声だ。 セッティングと口にすれば説明も出てくる」


「いえ、ですがこれは――」


「何も言わないでくれ」


 拒否しようとした口は、モザンの細い人差し指に塞がれた。

 

「初めて会った日に、君は本部の推測する人物とは違うと解った。 本当ならば君は普通の人間で、我々と交わうことはなかったんだ。 超能力者が居る世界に無能力者が入ってはいけないし、逆もまた然り。 ……けど、君は入ってしまった」


 例え妹を救う為に自分から足を踏み入れたとはいえ、認めたのはヴェルサス側。

 本来ならば入ってはいけない場所に入ったからこそ、怪物達は物珍しい人間に興味を引かれた。

 だからこそ、同じ怪物が彼を守らねばならない。その為に作るべきではない物を作ってしまったとしても。


「FMCは僕の手製だ。 他に同じ物は無い。 これはレッド達も知らないから、後で僕は何らかの処分を下されるだろうね」


「そんな! 悪いのは俺の筈ですッ、モザンさんはただ助けようとしているだけでしょう!!」


「それでも、これは作っちゃいけないものだ。 核を作った人間を君は称賛出来るかい?」


「そ……れはッ」


 何も言えない。何を言っても意味は無い。

 早乙女・蓮司は良くも悪くも普通の能力しかないのだ。機械を握り締め、俯く彼を後目に彼女はじゃあねと軽く別れの言葉を送った。

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