表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マッチポンプで世界が変わる!?  作者: オーメル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/304

二ヶ月後の世界

 ゆっくりとのんびりとした日々は、ここ暫くの時間で一番長閑であった。

 二ヶ月。その期間は微妙な時間ではあれど、二人にとって退屈と隣り合わせの日々である。一日の大半を家で過ごし、外の情報を拾ったり澪の作業を共同で進め、時折早乙女の元へと出向いて鍛錬を付けて寝る。

 早乙女を無理のないラインまで追い込むように予定を組むのが最近の彩斗の楽しみだ。今のところ武器を使わず、徒手空拳での動きを教えている。

 その中には妹の奈々の姿もあり、そちらは澪が息抜きとして鍛えていた。

 二ヶ月の間に二人の実力は確かに伸びている。最初は拙かった動きにも慣れが混じり、一分で終わりそうな組手も五分までは保てていた。


 とはいえ、その組手では彩斗は筋力強化を施していない。

 素の筋力だけで圧倒しているのはひとえに長い間鍛錬をしていた成果で、同じ期間を過ごせば早乙女も十分にそこまで成長する。まだ才能があるかも解らぬ段階であれど、もしも輝くモノがあれば一瞬で彩斗に追い付くだろう。

 自分に才能と呼べるモノが無いと解っているからこそ、彩斗は才能が発揮される瞬間に敏感だ。第六感めいた直感で見抜き、そちらを伸ばすよう予定を組むつもりである。

 

 さて、その間にも早乙女の存在は世界へと広がり始めていた。

 最初のステップは動画紹介。私服を纏った早乙女と奈々を中心として撮影を行い、経緯等を語った上で彼等を情報発信者という枠に収めた。

 SNSの運用も基本的には二人に任せる形だ。突然の出来事に二人は大いに慌てたが、避難指示の情報発信もSNSでする以上は管理は二人で行わなければならない。

 既に数百万人ものチャンネル登録者を獲得した彩斗達のチャンネルには明確な名前が無い。チャンネルマイページの上部に青空と氷の道の中央を歩く黒パーカーが居るだけだ。――故に、二人からはチーム名を教えてくれと頼まれた。

 

 チーム名。或いは組織名。それは二人にとっても重要な要素だ。

 居もしない仲間と確認を取るとして逃げ切り、二人でどうしようと話し合う。実は組織名を考えねばならないことはずっと前から解っていたが、最終的に決まることはなかった。

 試しに適当な単語を口にしてもしっくりこないと首を横に振り、オリジナルめいた言葉を口にすると羞恥で黙る。

 ネーミングセンスは高い方ではないのだ。その中で自分達に適したものは何だろうかと暫く悩み、結局出て来たのは対という意味を持ったヴェルサスだった。

 怪獣対人間。超能力者対人間。他にもう一つの理由はあれど、どれも対戦を主軸に置いた意味だ。

 

「SNSのアイコンが何で俺のパーカー姿なんだよ」


「だってその方が一番解り易いし」


 組織名・ヴェルサスとしてスタートしたSNSは一瞬で大量のフォロワーを獲得した。

 元々注目を集めていた二人だ。恒常的に人を集める要素を多く持っているが故、管理担当者や基本的なルール等を発信する度に多くのコメントが舞い込む。

 そのほぼ全てが質問で占有され、中には明らかに政府関係者のアカウントも存在していた。自衛隊の広報担当からもフォローを貰ったので、今後はSNSでも情報戦が始まるだろう。

 早乙女兄妹が活動を開始したと同時、周囲には多くの人間が集まった。テレビの報道関係者やフリーのライターに始まり、果ては近所の住人や警察関係者も学校で待機していることもある。


 二人が情報を集める目的で捕縛されなかったのは、ひとえに彩斗達の存在だ。

 彼が事前にSNSを使い国家防衛リストと呼ぶべきものを投稿した。もしも彼等の活動に不利益を齎すのであれば、我々は怪獣が襲い掛かっても助けない。

 その言葉により、どんな組織も彼等を縛れなくなったのだ。彼等に対抗する術があれば跳ね除けられたが、現在の技術で彼等と真っ向勝負をしても負けるだけ。まさか質量兵器を投下する訳にもいかず、何処の組織も任意同行すら出来なくなっていた。

 

『ずっと話し掛けられて疲れるんですけど……』


『そういう仕事だ』


『澪さん助けてくださいー!!』


『残念だが、落ち着くまでは躱し続けるしかないな』


 二人は苦労する兄妹にエールを送りたいが、設定上冷たくしなければならない。

 二人で対処出来なければ助けることもする。今回の防衛リストもそうであるように、現状自身で突破出来ない危機に対しては彩斗達で解決する形だ。

 そして、彼等が全員活動する為に用意される駒。即ち怪獣については既に完成を見せていた。

 二ヶ月も時間があれば完成は容易だ。とある海底火山にカプセルを埋め込み、無数のマグマと周辺物質を吸い上げて完成したボディは実に頑強極まりない。

 試しにと一度彩斗は亀の甲羅に全力の一撃を放ったが、見事に罅すら入らなかった。これが示すのは即ち、純粋な直接勝負での敗北。


「それ以外の部分も最初のと比較すると硬いぞー」


「解っていたけど真正面から受け止めたくないな」


 リビングで澪は猫科を思わせる笑みを浮かべる。

 直ぐ傍では何かの工事が進み、重機の動く音が室内で響いていた。窓を開けると、少し離れた場所で四角形の豆腐を連想させる建物が急速に組み立てられている。

 別の場所では強引に全てを吸引する巨大な掃除機がマンションを吸い込んでいる姿が見えた。どれも少し前であれば有り得ない光景であるが、作った側を知っている彩斗からすれば当然のものだ。

 しかし、それでも嬉しいことに変わりはない。二ヶ月の間に政府は動かないだろうと思っていたが、想像とは違い直ぐに国は動いた。

 

 出来上がった代物は澪が設計した通り。二日もあれば三階建てのマンションを建てられる驚異のプリンターは十台も設置され、徐々に海側に向かうような形で作られている。

 二日で三階建てマンションが十棟と考えると破格の結果だ。サイズも六人家族向けのもので統一され、一人暮らしにはかなり広い空間となっている。掃除の手間はあるが、住む分には何の問題も無い。

 水道管やガス等は流石に通常の業者任せになる。そちらも対処出来れば完璧ではあるも、あまりに失業者を出す訳にはいかない。

 

 今は復興箇所が多い為に土方も人手不足状態だ。しかし、長く続けば今度は土方が人数過剰となる。最終的に土方は不要になってしまえば、大量の失業者の就職先を用意せねばならない。


「ま、怪獣騒ぎがある限り不足することはないけどね」


「破壊箇所は気を遣わないとな。 重要文化財でも破壊すれば最悪だぜ?」


「個人的にそういうのは興味無いんだけどね。 古い物に執着しても意味なんて無いんだしさ。 さっさと3D化で保存すれば良いんだよ」


「こういうのは浪漫みたいなところもあるからな。 過去の人間が築いた偉大な歴史の痕跡。 俺だって擽られない訳じゃないんだぞ?」


「そーかい」


 素っ気無い言葉に彩斗は苦笑した。

 澪が見るのは未来だ。歴史家に興味は無く、博物館にも価値を感じない。怪獣の由来に使うことはあれどそれだけだ。

 彩斗も深く興味を持っている訳ではない。有名なのを幾つか知っているだけで、その程度なら一般常識レベルだ。早々に話題を打ち切り、何とはなしにテレビの電源を付ける。

 今日もヴェルサスについて討論会が放送され、政治家達の自論が語られていた。チャンネルを変えるとお昼のバラエティ番組が放送されている。

 生放送のソレには有名なお笑い芸人や旬の人間が居るようで、その中には元妹である百合の姿もあった。彼女は常に笑みを浮かべて美貌を全開にしてトークを繰り広げ、その様を見た芸人の一人は嫁にしたいわぁ!と批判スレスレの言葉を口にする。

 直ぐに相方と思わしき男が無理やろと頭を叩いて笑いの場に変えたが、百合は芸人の言葉にも笑顔で受け流していた――――いや、笑顔を浮かべていることしか出来ないのだ。


「上手く隠してるみたいじゃないか。 居場所を守る為に必死だね」


「良いことだ。 そのまましがみ付いていれば、何れ彼女も相応の地位に行けるだろうさ。 後は適当に誰かと結婚して引退出来れば最良だろうな」


「どうだろうね。 少なくとも二ヶ月前に見た限りじゃ結婚しそうな雰囲気は無かったけど」


「出会いなんて予測出来るものじゃない。 あれだけ美人なら言い寄る男も多いだろうし、きっとその中にもマシな奴が居るさ」


 苦しい状況の妹を見て、彩斗の感想は無味乾燥としたものだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ