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マッチポンプで世界が変わる!?  作者: オーメル


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基礎戦闘訓練及び家族会議前日

 有り体に言えば、彩斗にとっての基礎戦闘訓練はただの経験値稼ぎである。

 拳を交えながら拙い箇所を指摘し、どちらかがダウンしたら問題の対処方を教えて同じことを繰り返す。人に何かを教えた覚えのない彩斗が考えた苦肉の策であった。

 妹の奈々もそれは一緒だ。此方は澪が担当し、現時点での奈々の身体能力を確かめながら同じことを行う。

 実戦が想定された訓練というのは奈々にとって初めてだ。故に好きなように殴り掛かれと指示を受けた時、愚直に拳を振り被るか足を振り抜く真似しかしてこなかった。

 当然ではあるが、今日を迎えるまで実戦を意識した早乙女の方が動きは良い。足の運び、拳の位置、戦いにおける意識の配り方に至るまで拙いながらも出来ていて、彩斗を大いに感心させていた。


 最初の一年目の自分を思い出しながら容赦無く早乙女を投げ飛ばし、顔の手前に拳を突き付ける。

 勝負の終わりは何時も顔面間近で拳を突き付けられることで、早乙女自身も短い時間の中でそれが合図であることを理解していた。最初は過酷な鍛錬が待ち受けているかと思っていたので拍子抜けしていたものだが、今では何度も身体を地面に叩き付けられている所為で全身が痛んでいる。

 どっちもどっちだ。苦しいことに変わり無く、澪もまた容赦無く意識の薄い足を払って奈々を転ばせていた。


『戦闘のせの字も知らないから致し方ないが、常に意識は相手だけに向けておけ。 自分の身体に意識を向けるのはその後だ』


「はい……」


『基礎トレは忘れるなよ、今のお前達は地力が足りない。 それは妹も一緒だ』


「おっすぅ……」


 倒れ伏しながら腕だけを上げる二人を見て、組んでいた腕を解いた。

 鍛錬の時間は楽しいものでなくても早く過ぎていく。彩斗自身が短い鍛錬期間で自己解釈した理論が多過ぎる為、その全てを教えていては二人だけの時間を確保することも出来ない。

 彼が二人に教えるのは短時間だけだ。基本的な部分を教えた後は自分で戦い方を模索してもらう。最初、彩斗は妹を参戦させる必要はないと判断していたが、予想外に妹の基礎的な動きが良かったことでその判断を覆された。

 しなやかに動く筋肉は運動部にでも所属していなければ作れないもので、実際に尋ねたところ陸上部だと奈々は答えている。

 その動きを実戦的な動きに最適化させれば、存外化けるだろうと彼は思っていた。

 二人一緒であれば澪も協力してくれる。であれば、苦労はするが鍛えておいて損は無い。


『初の訓練はこれで終わりだ。 お前達の動きは予想の範疇だったが、これからに期待をすることは出来る。 それと技等は教えるつもりはない』


「お、俺達が戦闘員ではないからですか……?」


『そうだ。 お前達にはお前達の生活があって、本業はそちらだ。 過度に此方側になる必要はない』


 忘れるなかれ。お前達の本分は学生であり、怪獣を倒す人間ではない。

 そのことを告げれば、二人も素直に返事を口にした。そこに悔しさはなく、納得が籠っている。

 如何に技術を学んだとて、二人は世間的に見れば子供だ。高校と中学の学生として勉学に励むべきであり、常識的にはそちらの方が優先される。

 訓練と称しながらも比較的軽いのも彼等が子供だからだ。無理をさせる訳にはいかないという配慮を早乙女は感じ、自分がまだ誰かに守られている子供だということを実感した。出来ればその優しさを最初に見せてほしかったなぁとは思うものの、こればかりは懐に入れたからこその優しさだと自分を納得させた。

 

 傷は敢えて回復させない。痛みに身体を慣れさせる必要があるとのことで、軋む身体は筋肉痛とは別種の苦しみを与えてくる。

 腰を何度か叩きながら立ち上がり、彩斗から投げられたペットボトルを受け取った早乙女達は蓋を開けて一気に口を付けた。中身はただの水である。お値段百八円とお得だ。

 用事が終われば彩斗達は此処に残る必要がない。二人と話をしたい人間は無数に居るが、関わり合いになりたくないのが本音だ。

 彩斗は炎で、澪は氷で足場を作って蹴りながら空を飛んで行った。

 途中で透明化をして歩いて帰り、家で服を脱ぐ。もう夏も同然の暑さに気怠さを感じるが、服を着たままでは充電が出来ない。

 

 エアコンにも電源を繋げてあるのでスイッチを押すが、それをすると幾つかの家電を動かすことを諦めねばならない。

 生物は最優先で処理したので、今はパンや遠くで購入した弁当で腹は満たしている。飲み物は澪の氷で冷やしているが、それもずっとは続かないので温くても問題無い水やお茶で喉を潤していた。

 二人は対面で座り、疲労を滲ませる溜息を零す。

 色々と考えるべきことはあったが、一先ずは終わった。自衛隊に渡した情報が最終的にどうなるのかは彼等に任せることになるが、出来れば秘匿せずに素直に再興の為に使ってもらいたい。


「自衛隊に渡したって動画も作らなきゃね。 それにあの子の事も紹介しなきゃ」


「早乙女・蓮司だったか。 予定外の人員だが、使える限りは使うとしよう。 ……あまりトラブルには関与するなよ?」


「解ってるって。 あくまでも自分の問題は自分で解決するべきだよ。 無関係の大人が介入したら拗れるだろうしね」


 震災に対する手助けはここまでだ。残りは動向を伺うに留め、次の問題にシフトする。

 間近に迫った実家への訪問日。明日の夜までには家に向かい、最悪夜中まで言い争うことになる。百合からは私も家に帰りますとチャットを送られ、当日は家族全員が集まる形だ。

 手土産は金だけ。別口座を作り、そこに五千万は既に振り込んである。金を兎に角欲しがる強欲であれば、五千万で首を縦に振ってくれるだろう。

 それで無理なら追加で五千万だ。額が額なので移動させるのに苦労するが、別れられるのならそんな苦労も喜んでする。

 

「これで無関係。 何もかもに今後はタッチしない。 ……そうなってくれると良いなぁ」


「金蔓を逃がすもんかねぇ。 五千万をぽんと出せる人間を傍に置いていた方が長く搾り取れると思うけど」


「そうだな。 唯一俺達が付け入れるチャンスがあるとすれば――あの両親が俺の存在を無かったことにしたいって部分だけだ」


 彩斗は基本的に放任な生活を送っていた。

 妹の存在があったので完全な放任にはならなかったが、少なくとも過保護な目には合っていない。両親は彼を視界に入れていなかったし、彩斗も彩斗で両親に何かを期待することもなかった。

 出張時にも金を振り込む事だけを重視しているところから見て、本来であればあの家族の空間に彼の場所は無い。出来れば生まれたことそのものを無かったことにしたいと両親は考えているのではないか。

 それこそが唯一彩斗達が付け入れる隙だ。その本音を二人が持っていれば、彼の望む結末を引き寄せることが出来る。

 

 当日の服装はスーツだ。正装をすることで大事な話であると強く意識させ、家族としての団欒を一切排する。

 澪特製のボールペン型のボイスレコーダーを胸に差し、ネクタイピンには極小のカメラを仕込むのだ。裁判に発展しても絶対に勝利する為に、証拠集めにも余念は無い。

 

「裁判にならないでくれよ……。 時間が掛かることだけは勘弁だ」


「嫌な想定はしておいてね。 現実はもっと酷いものになるだろうから」


「おいやめろ」


 悪戯気に笑う美貌の女性にツッコみを送りつつ、その日は二人揃って床についた。――――そして迎えた次の日は、嫌になるくらいの快晴を彩斗達の目に焼き付ける。気温は三十度を超え、歩くだけでも億劫な道を革靴で進んだ。

 先ずは実家近くで時間潰しだ。久しく寄っていないカフェにでも行くとしよう。

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