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マッチポンプで世界が変わる!?  作者: オーメル


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予想外の再会と女の整理

「此処か」


 空中戦艦建造が始まり、およそ数日。

 彩斗の姿は都市部の高級レストランに存在し、今は仕事用の黒スーツを確りと着こなしている。他にメンバーの姿は無く、澪ですらも彼は傍に近付くことを許さなかった。

 如何に彼女が家族であっても、この話し合いに澪は関係無い。

 足を動かし、レストランの重厚な扉を開ける。富裕層のみが訪れることが出来る料理店の雰囲気は、根が庶民の彼には少々違和感が強かった。

 ボーイが現れ、彼は予約の旨を伝える。既に待ち人は来ているようで、そのままボーイの後ろを付いて歩いた。


 今回この場に来たのは百合との話し合いを果たす為だ。

 お互いが避けていたものと正面から向き合い、本音で語る。その為に彼女は態々逃げ辛い場所を予約し、彼はそれを承知で足を運んだ。

 澪からは行く必要も無いと言われたが、流石に約束をした手前無視は不味い。それをすれば、互いの立場が逆転しかねない。

 テーブルの一つまで案内された時、そこには三人が席に座っていた。

 一人は百合だ。白いワンピースにカーディガンを羽織った姿は清楚を醸し出し、この場においてまったく劣ることはない。

 

「百合、話が違うぞ」


 残る二人は百合と彩斗の両親だった。

 父親は記憶よりも髪が白く染まり、母親は体型が丸みを帯びているように見える。

 父親は彩斗同様にスーツ姿で、母親は紺色のジャケットワンピース姿。幾分か目元には隈が出来ているようで、睡眠不足を伺わせた。

 この二人がこの場に来る話は彩斗は聞いていない。百合に向かって鋭い声で言葉を投げるが、件の彼女はこの場に似合わぬ微笑みを返すだけ。

 最早逃げることは許されない。言外に告げられた内容に舌打ちをしつつ、唯一空席となった座席に彼は座り込んだ。

 

 机には給仕役がワインを入れ、暫くの後にコース料理が運ばれてくる。 

 皆は無言で食事を摂り、そこにレストランを楽しんでいる雰囲気は一切無い。何も言わず、出された物を食べ、顔面は無。

 給仕には息苦しい時間だったに違いない。最後の料理を運んだ後に彼は皿を回収し、ではと一礼してからその場を離れた。

 この場はただ食事を楽しむ為のものではない。故に、これからが百合と彩斗にとっての勝負だ。

 

「そろそろ説明をしてくれ。 流石に無言のままでは何の為に此処に来たのか解らない」


「……此処に御二人を呼んだのは、これからの生活を理解してもらう為です。 兄さん、お父さん達を見てどう思いますか?」


「どう、と聞かれてもな。 見た目が多少変わったくらいで、それ以外は別に何も感じないぞ」


 百合の質問は要領を得ない。

 確かに両親の姿は最後に会った頃より変わったものの、変貌と言える程には変わってはいなかった。

 それがなんだと彼は口を開こうとして、いや待てと思考は違和感を持つ。

 見た目の変化が少ない。それはまだ縁を切った時間が長くないので自然だと思うが、人は精神的に追い詰められると簡単に様子が変わる。

 奇行が目立つ場合もあれば、今までの意見を百八十度回転させる場合もあるのだ。

 ストレスの所為で身体が動けなくなることも当然有り得るし、ならばあまり変わっていない両親は自分の意見を間違いだと思っていない。

  

 百合は正面から両親を責めたかもしれない。悪いのはお前達だと指摘され、彼等は焦ったことだろう。

 可愛い可愛い娘から責められれば幾らなんでも焦りはする。金も運んでくる存在である以上、なるべくならば刺激させたくはあるまい。

 だから二人は隈を作るくらい気を遣っていて、最早その顔は化粧を施しても誤魔化せはしないだろう。

 

「そうですね、兄さんが絶縁状を突き付けた頃から二人はあまり変わっていません。 私を優先して、自分の欲を優先しているままです。 先日も私のお金で随分と高い物をお買いになられたようで……」


 百合の睨みに二人は必死に顔を逸らしていた。

 隠していたのかもしれないが、彼女の前では全て筒抜けなのだろう。自分の娘にその態度はあまりに情けないと彩斗は感じるものの、無関係な者が気にするべき領分にはいない。

 金銭管理は個々人はするべきことだ。あの親に仕送をするなど論外な話だが、彼女にとっては一応愛してくれている親である。

 尤も、彼女の目に尊敬も親愛も無い。あるのは侮蔑と不信だ。


「んん……私ももう間もなく高校を卒業します。 その際、私自身は住居を移すつもりです。 縁切りはしませんが、これからは一切のお金を御父さん達に送りません」


「ま、待ってくれ百合ッ」


 咳払いをしつつ、彼女は先ず自分の今後の動きを明らかにする。

 彼女は今現在高校三年だが、卒業までもう間近。大学に進学するつもりは彼女には無く、住居を移してアイドル活動をするつもりだ。

 その際、縁切りとは言わないまでも両親に対しての援助の一切を打ち切ることを宣言した。

 これまで散々に彼女の金を使って両親は贅沢な暮らしを行い、消費した金額は最早親孝行だと言われても過剰だ。見捨てるにも十分な頃合いであり、しかして娘からの援助を打ち切られたくない父親は必死の思いで彼女を呼ぶ。


「確かに、私達が彩斗のことを愛していなかったことは詫びる。 自分の子供を愛さない理由など存在しないというお前の意見は尤もだ。 全面的に此方が悪かった」


「私もごめんなさい。 貴方にとってそんなに彩斗が大事だったとは思わなかったの」


 二人は彼女に謝罪を送る。

 悪かったのは己だ。百合の口撃は全て受け入れなければならないもので、真摯に受け止めなければならない。

 その意思を前面に押し出し、されど根本的な部分が間違っていた。

 彼等が謝罪するのは百合に対してのみ。彩斗には顔を一切向けず、真摯に頭を下げるのは彼女にだけだ。

 どちらが上で、どちらが下か。

 この場にはそれが全て揃っていた。これこそが最上家の現実で、彩斗が切り捨てた家族の実状だ。

 見れば見る程、その姿は歪だった。彼はやはり両親には求められておらず、結局金だけだったのだろうと思わされてしまう。

 

「そんな薄っぺらい謝罪で私が納得すると思いましたか。 本当に謝罪すべき相手を見ていない時点でもうどうしようもないんですよ。 私は引っ越します。 これはもう決定路線です」


 此処はある種、彼女なりの最後の謝罪の場だった。

 自分が両親から離れることを明言した上で、離したくない彼等が素直に彩斗に対して頭を下げてくれるか。もしも彼に謝ってくれたのであれば、彼女は引っ越しをする決意を固めずにまだ実家に残ろうと考えていた。

 ろくでなしな親だが、百合には愛情を確り注いでいる。金を使うのも結局は美しい百合に見劣りしない為であり、その行為自体は彼女も容認していた。

 だがもう、良いのだ。

 

「兄さん。 引っ越しは早めに終わらせたいのですが、まだ物件が決まっていません。 つきましては、暫くはそちらの家に置いてもらうことは出来ませんか」


「却下だ。 お前を置く場所は我が家には存在しない」


 これまで静観していた彩斗だが、彼女の考えは手に取るように解っている。

 彼女は彩斗がそうしたように、自分も親を捨てることを選んだ。最後まで家族仲良くが実現しないのであれば、その障害となる人間と関わり合いになりたくない。

 利用されたような形だが、そのことについては彼は文句を言わずにいた。その代わり、彼女の頼みには拒絶の姿勢をとる。

 折角家族と離れたのに、また再度同じになるなど勘弁だ。あの家には機材もあるし、何よりも澪が納得しないだろう。


「一ヶ月で構いません。 家賃の支払いがあれば払いますし、家事等も私が請け負います」


「家政婦もマンション居住者も募集していない。 お前なら仲の良い人間が無数に居るだろうが。 そっちを頼れ」


「芸能界に仲の良い人は居ませんよ。 皆私の足を引っ張りたくて必死ですから」


「ならホテルでも借りて生活していろ。 安全性の高いホテルなら俺の家よりよっぽど安心出来るだろ」


 はぁ、と百合は溜息を零した。それはこれまで彼女が彼に見せなかった姿だ。

 本音で語る。これはつまり、そういうことなのだ。


「言わなければ解りませんか。 私は、貴方と一緒に暮らしたい」

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