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マッチポンプで世界が変わる!?  作者: オーメル


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熱を求めて/事務的に

 彩斗達の本日の宿は近場のホテルとなった。

 サービスの良し悪しをあまり求めずに即日で入れる場所を探し、運良く他よりもグレードの高いホテルに一泊することに成功した。

 突然のヴェルサスの宿泊にホテルマン達は緊張を抱いていたが、そんなことなどどうでも良いとばかりに彩斗達を除いた面々は二人一部屋に入る。

 女性陣と男性陣に別けたものの、基本的に意味は無い。間違いなど彩斗自身に起こすつもりはないし、彼等自身に明確な性欲がある訳でもないのだ。

 彩斗が望めば楓もイブも抱かせてくれるだろう。しかし、そんなものは半ば命令も一緒で何も嬉しくはない。


「質は良いですね。 夕食は本日の午後十九時から二十一時までだそうです」


「それじゃ、怪しまれない程度にそっちは食事を楽しんでくれ。 イブと楓が入りたがっていたら入室も自由だ。 その他に対しては基本的に用事が無ければ入らせないように」


「解りました。 では、そうですね。 先ずは御風呂に入るのはどうでしょう?」


「良いな。 まだまだ寒いし、少し暖まるとしよう」


 アントの提案に乗り、二人は洗面用具を持ってホテルの広い風呂に入る。

 イブと楓も荷物をある程度広げてから入るそうで、アントの脳内通話を聞いた彩斗は風呂の入り口で待っていると彼に伝えさせた。

 女性陣はただでさえ美人揃いだが、風呂に入ったことでその美しさに磨きが掛かる。別の宿では風呂上りの彼女達に男性が魅了され、中には無謀にもナンパに挑戦した者も出た。

 当然、それらは全て無駄だ。しかし、これが何度も続くようでは鬱陶しい。

 故に男性陣と一緒に仲の良い雰囲気を流しながら戻ることにした。それが成功するかどうかは、これから解ることだろう。


「お待たせしました」


「そんなに待っていませんよ」


 今回のホテルでも彼女達の美しさは健在だ。

 艶のある黒髪と金の髪。僅かに赤みの差した頬。格好自体も普段より軽いものにした為、全体的な露出度も上昇している。

 魅力の上昇度は絶大だ。アントも水も滴る良い男とばかりな風体に、周りの女性の目を一身に集めている。

 この中で視線を集めていないのは彩斗だけだ。どんなに濡れようとも元々の顔面の所為で大した魅力にならず、寧ろ引き立て役のような位置になっている。

 メンバー達からすればとんでもない話だが、実際は彼等の方が能力的に上だ。澪作の人形の性能は人間程度軽く凌駕し、彩斗などまったく敵にもならない。


 こうなるのは当たり前で、逆にこうならない方がおかしい。

 故に嫉妬と呼ぶべきものは彼には無かった。全て想定通りであれば、心に漣が立つことも有りはしないのである。

 四人は仲良さげに話しをしつつ、食堂で料理を楽しむ。

 グレードが高いお蔭で出てくる料理は美味いもので、皆が大食いであることも相まって夕食の消費量は尋常の域を超えていた。

 料理人達は涙目だったが、彼等の努力によって少なくとも食は満たされたのだ。彼等から不満の声が出てきてしまえばホテルの経営そのものに影響が出るかもしれない以上、その努力には賃金でもって応える必要があると支配人は強く頷いた。


 部屋に戻り、彩斗は腰に入れた端末が震えていることに気付く。

 レッドとして連絡を入れて来るなら兎も角、この端末に直接電話を送る人間は稀だ。子供組は基本的にチャットであるし、フォートレスはメールであることが多い。

 喋るよりも文面に残した方が解り易いからだろうと彩斗は思い、その通話先の相手に眉を強く顰めた。


「どうかしましたか?」


「悪い。 少し出てくるから適当に休んでいてくれ」


「大丈夫ですか? よろしければ護衛をしますが……」


「そんなに過保護になる必要は無いよ。 ただ、あまり人には聞かせたくないだけさ」


 部屋を出て、非常用の扉を通って避難用の螺旋階段で足を止める。

 震えたままの端末の通話ボタンを押し、耳に当てた。視線は外に向き、その相貌は先程までの暖かみのある顔から一変している。

 冷たく、温もりを感じさせない能面。無表情の顔から感情を知る術は無く、相手も彼がそんな顔をしていると予想しているだろう。


「さっき会ったぶりだろう。 何の用だ、百合」


『……兄さん』


 通話先の彼女の声は硬い。

 昼間に会った顔を彼は思い出しつつ、彼女の次の言葉を待つ。もしも何も言わないようなら無言のまま通話を切るつもりだった。


『ウチの事務所を取らなかったのは、やっぱり私達が無理に頼んだから?』


「いきなりだな。 あの時の宣伝の話か? ――それなら、違うと言わせてもらおう。 純粋に能力によって選別され、あのアイドルが起用されただけだ」


『そう、ですか。 それなら良かったです。 疑ってすみません』


「良いさ、そう言いたくなる気持ちは解る。 お前も必死だろうからな」


 労うような言葉を口にするが、そこに温度はやはり無い。

 脳内に浮かんだ言葉を適当に口に出しただけ。正しくそれが該当し、百合自身もそれが彼の本心ではないことを理解している。

 溝は変わらないまま。寧ろますます深くなっている。仲良くなど、最早することは出来ないだろう。

 手遅れの傷に付ける薬は無い。彩斗自身から歩み寄りがあればまだ可能性はあったが、本人が拒絶の姿勢では絶対に修復には至らない。


『あの、一度だけ会うことは出来ませんか。 色々と話したいことがあるんです。 それに、聞きたいことも』


「聞く必要も言う必要も無いと俺は思うが?」


『有ります。 絶縁したとしても、私達は兄妹です。 ……いい加減、互いに本音で語りませんか』


 本音。

 その二字は、この兄妹の間には無かったものだ。

 態度で示しても、拒絶の言葉を吐いても、二人は明確な本音を口にすることだけは避けていた。それは今更なことであるし、態々言っても何も変わらないと思っているからだ。

 今更本音で語ったとして、それで何が変わるというのだろう。彩斗はそう思うが、百合には何か強い想いが宿っていた。

 ともすればこれまで聞いた覚えが無い程、彼女の声は真剣だ。

 何時ものように跳ね除けることは出来る。しかし、この言葉だけは何となくではあるがやめるべきだと胸の中の何処かが咎めた。


『兄さんが言いたいことも、私が言いたいことも、全部言いましょう。 その上で、あんな一方的なものではない今後の関係を明瞭にしたいんです』


「……はぁ。 解った、一度会おう」


『有り難う御座います。 では、日時は後日お伝えします』


 通話が切れる。今度は彼女から切れ、彼は端末を握り締めながら妹の意図を考えた。

 会ってどうしようというのか。もう関係性など決まっているし、今更彼が立ち位置を変えるのは不可能に近い。

 仮にこれで和解したとして、ならばゆっくりと愛情を取り戻そうとでも言われるのか。――だとしたら随分とお笑い種だ。

 口が歪む。冷笑とでも表現すべき顔は、普段の彼であれば絶対に浮かべないものだ。


『会わなければ良いのに』


「……なんでだろうな。 俺もその方が良い筈なんだ」


 遠くから届く澪の声。

 その言葉は正しく、故に反論などない。間違っているのは彩斗の方で、今は妹に意識を割くべきではないのだ。

 やるべきことがある。そちらに意識を向けるべきであり、されどそう思おうとしても胸の何処かが否を突き付けた。

 会わねばならない。会って話をするのだ。――そうしなければ、きっとお前は最後まで関係を決められない。

 気持ちの悪い感覚だ。不快で、無視が出来ず、嫌でも気にしてしまう。 

 

「ま、直ぐに終わるだろ。 さっさと話を終えてまた何時もの日々さ」


 そう言った彼の顔は、冷笑とは遠い苦いものだった。

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