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マッチポンプで世界が変わる!?  作者: オーメル


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旅行先の遭遇

「まぁ、こうなりますよね」


 他所向きの口調を使いながら彩斗は視線の集中具合に溜息を吐いた。

 休息期間を設けることにした彩斗達は、来るべき空中戦艦を目指した建造場所を探しに日本中を巡っている。

 世界にまで範囲を広げなかったのは、材料の運搬速度や純粋な行き来に時間を割きたくなかったから。

 周りには旅行と称しているので他のメンバーの服装も私服であり、安物でありながらも彼等の見た目で酷く上等な品のようにも見えている。

 彩斗を除いた全員がモデルのようなものだ。加えてヴェルサスの一員として広く顔を知られているので、集まっていれば自然と注目を集めることになる。


 突撃してこないのは、彼等が生身でも規格外の力を有していると知っているから。

 ただの腕の一振りで壁を簡単に破壊出来る以上、無闇に絡んで小突かれるだけでも重大な傷を負いかねない。

 実際は手加減に手加減を重ねた威力に留めているので安全だが、そんなことを丁寧に説明しても時間の無駄だ。近付いてこないのであれば彼等にとっても好都合である。

 メンバー達の動向は逐一周囲の人間がSNSで知らせ、気軽に休むことも出来はしない。暫くは家に帰るつもりもないのでホテルに予約を取ることもあったが、その際には無駄に硬直したスタッフに案内されたものである。


「地形の関係上、都市部は不可能ですね。 なるべく自宅に近い位置で始めたいとのことですが、やはり田舎に焦点を絞った方が良いと思います」


「そうですか。 ……こればかりは仕方ないですね」


 移動に時間を掛けたくない理由として、スーツの稼働時間を減らしたい目的もある。

 怪獣が騒ぐ時であれば事前に充電を終わらせておけるが、それ以外の理由で大きな騒ぎが起きると充電が間に合わない可能性が大きい。反ヴェルサスについては事前に情報を入手出来たので問題は無かったが、そうそう何度も都合良くいくとは彼も考えてはいない。

 スーツをただ動かすだけなら長時間動かせるも、炎を無駄に発生させる等で節約を無視することがある。その際に消費されるエネルギーは、決して馬鹿には出来ない

 

「電波塔の少ない田園地帯にしませんか? あのサイズになると、どうしても隠蔽にも時間が必要になります。 ミスをしない為にも見渡し易い場所の方が良いと思いますが」


「では一度田舎に行きましょう。 なるべく広大な田園地帯の上空に場所を構築し、その上で材料を運び込みながら作ります」


「解りました。 ――さて、一度休憩しましょう」


 基本的に彩斗と会話をするのはアントと楓だ。

 イブは快活な姿を見せない為、無言で彩斗の傍に居る。その手には小型端末が存在し、どう見ても端末に夢中になっている子供を演出していた。

 真実は、周りを警戒しながらの情報収集だ。この瞬間にもイブは自身の意識の一部をインターネットの海に潜らせ、ありとあらゆる情報を収集している。

 彼女に掛かれば機密は機密ではなく、電子ロックなど所詮は鍵の付いていない倉庫も同然。

 今はヴェルサスに対する各国の姿勢を集め、不穏な動きがないかを確認している。

 

 ドイツの件はかなりの影響を周囲に与えた。

 ヴェルサスが正式にドイツを非難し、周囲は彼等からの顰蹙を買わない為に同調せざるを得なくなっている。しかし、ドイツの実験によって生み出されたザルヴァートルと蓮司の戦闘はやはり一般の人間によって動画投稿サイトに投稿され、中国やロシア辺りは似たような計画を内密に立ち上げ始めていた。

 あちらは国土が広く、同時に死者も多い。行方不明者が多くとも不思議ではなく、実際に捜索によって発見される例はあまりにも少ない状態だ。

 それを利用し、彼等は彼等なりの方法で正解に辿り着こうとしている。ドイツの実験がどのようなものであるかについてはドイツ政府内に潜ませた間諜が伝えていたようで、その間諜も今は口封じの為に海の底だ。

 

 手にした情報を基に、彼等は彼等なりの解釈をした上で実験を起こそうとしている。

 その先に待っているのはやはり破滅なのだが、残念ながら今のヴェルサスは手を出すだけの理由が存在しない。敢えて出来るとすれば怪獣を嗾けることであるものの、何回も実験施設を強襲する真似をすれば流石に怪しまれるだろう。

 ドイツの件があったことで内部への緘口令も徹底している。監視を多重に用意し、情報漏洩を限界まで防いでいた。

 組み上がった電子的防壁は突破に時間が掛かり、その間に管理者達が気付いて騒ぎ出す。アクセスを試みた者を追跡し、必ず情報漏洩前に処分する筈だ。

 

「彩斗。 人だかりだ」


「うん? ――ああ、あれですね」


 今はまだ話をする程ではない。イブはそう判断し、丁度前方で起きている騒ぎを彼に伝える。

 彩斗も円形に囲んでいる人の集団を捉え、ソレは歩道を完全に封鎖していた。普段そこを行き交う者達は集団を迷惑そうに見て、仕方なしに迂回している。

 彩斗達も集団の先を進む予定だったのだが、こうなっては同様に迂回するしかない。

 楓は眉を顰めながら迂回路を疑似脳内で検索し、飲食店が集まっている場所への別ルートを先に進む。他の面々も彼女の背後を進もうとして――唐突に群衆を掻き分けて出てくる者達が居た。

 

 大型のカメラを肩に担いでいる者。長大なマイクを持っている者。

 そして、一際美形な男女二組。どうやら彼等はテレビの撮影をしているようで、集団は彼等のファンなのだろう。

 疲れた顔をしながらも四人は笑顔を振り撒き、爽やかな声で近くの服屋にインタビューをしている。

 その中の一人に、彩斗は僅かに目を見開いた。


「急いだ方が良いな」

  

「残念ながら、もう無理みたいです」


 思わず普段の口調になる彩斗に、アントは首を左右に振った。

 彩斗達は良くも悪くも目立つ。四人組がどのような集まりかは不明だが、その四人よりもメンバー達の方が有名だ。

 自然と四人組は彼等を捉え、中でも女性の一人である最上・百合が彩斗に気付く。

 ファンに囲まれている段階で撮影を続行するのは難しく、故に撮影陣が周りを静かにするまでの間はキャスト達には休息が与えられた。

 そうなれば百合が真っ先に近付くのは当然。如何にあれほど手酷い扱いを受けたとはいえ、彼女の中に会話をしない選択肢は無かった。


「お久し振りです。 兄さん」


「……ああ。 撮影か?」


「ええ、この街に有名店が出来まして。 その取材に」


「そうか」


 二人の会話は短い。冷め切った間柄は誰にも口を挟めず、全員が二人のやり取りを眺めるだけ。

 この出会いは突発的なものだ。故に積極的に話すべきことはない。

 周りの目もあるし、直ぐに別れるのが最善だ。――そんな二人に近付く人物が居る。


「あいや、もしやヴェルサスの方々ですかな?」


 その人物は、騒ぎを止めていた撮影陣の一人だった。

 手には台本と思わしき本を持ち、肥満な身体をしている。肉の付いた顔にサングラスは似合わず、周りは彼に対して一歩引いているような目を向けていた。

 

「ええ、そうですが」


「おお! まさか本物をこの目で見ることが出来るとは! 私、この撮影の責任者をしております。 高梨・三澤と申します」


「フォートレス・ヴェルサス窓口担当の最上・彩斗です。 本日は彼等は休みなので、この辺で失礼を」


「いやはやそうでしたか。 これは申し訳御座いません。 ……先程の話から察するに、最上さんの兄でいらっしゃいますか?」


「そうですが……何か?」


「――いえ。 いえいえ、何でもございませんとも」


 高梨の言葉は非常に丁寧だ。だが、その言葉には隠された侮蔑が混ざっている。

 それを敏感に察知した彩斗の内心は苛立つも、これだけ美形揃いであればそう思われても致し方ないかと納得もしていた。

 どうせ目の前の男は美人な妹と比較して、兄はまるで秀でている部分がないように感じているのだ。

 それ自体は正しいし、何もおかしくない。彼の評価は正当なものであり、だからこそ態々指摘するのも面倒臭い。


 さっさと話を切り捨て、彩斗達は彼等を無視して歩を進める。

 ――その背中を、百合だけが見つめていたことに彼は気付かないままに。

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